シン仮面ライダーについて思うこと、庵野監督はなぜ『長すぎる』と言ったのか

庵野監督のトークイベントのチケットは取れませんでしたが、ありがたいことに見てきた人の報告などがSNSに来てるので、シン仮面ライダーについて書いておこうと思う。もう終盤だし文句言われないと思うけど、完全なネタバレを含みます。

NHKで放送されたシン仮面ライダーの撮影ドキュメンタリーの中で庵野監督の挙動は様々な議論と批判を巻き起こしたけど、その中でひとつあまり注目されてない言葉があった。
「長い。長すぎます」アクション監督の考えた殺陣を止めて、庵野監督はそう言っています。長すぎる、ということは逆に言えば庵野監督は、ひとつのシーンを少しでも短くしたいと考えているということです。今日のトークイベントでも、本郷に対する一文字隼人のセリフが長すぎるとカットされた話が出ていたそうです。

2時間20分説、2時間40分説があるけど、どちらにせよそれは当然で、そもそも一般の映画に盛り込むストーリーとして『シン仮面ライダー』は異常に多いんですね。シン仮面ライダーに登場する怪人とテーマを整理します。何度も言うがネタバレします。

・暴力と本能について語るクモオーグ。
・人類と感染症について語るコウモリオーグ。
・官能について語るサソリオーグ。
・友情と他者の支配について語るハチオーグ。
・裏切りと忠誠について語るKKオーグ。
・敵として現れ味方になる仮面ライダー2号。
・人類の意識統一を語るラスボス・チョウオーグ。

ショッカーの敵、6人。
一つの物語に敵チームとして現れる6人ではない。この怪人が一人一人、別のテーマとメッセージを持ち、一人一人順番に本郷猛(サソリオーグは政府)と対決し、自分のメッセージを訴え、そして1人ずつ死んでいく。これはまったく別の6本のストーリーなわけです。それに加えてショッカーのボスであるAIとその成り立ち、緑川博士の死、敵として現れる一文字隼人とその改心、ルリ子の死、そして本郷猛の死がある。10以上の別の感情の物語を10分単位のシークエンスで切り替えて進んでるので、めちゃくちゃ詰め込んだ映画になってるわけですね。

この映画について「登場人物がセリフで説明しすぎる」という批判があり、それはもっともだと思うのですが、なぜそうなっているのかと言えば心理を映像で描写している時間がないからですね。時間と映像と音楽で心理を描写するのではなく、「私は父の死についてこう思っている」とルリ子が言葉で説明して次に進む脚本になっている。それはぶっちゃけて言えば時間がないから、あまりにも一本の映画に多くのエピソードを詰めすぎているからだと思う。

シンゴジラは登場人物の早口の会話で膨大な情報を濃縮したとファンに評価されました。でも、あの映画に登場する敵はゴジラだけ、物語はひとつです。

・ゴジラが現れる。
・ゴジラに日本政府が圧倒され、総理が死ぬ。
・新政府が誕生し、専門家たちが知を結集する。
・ゴジラを倒す。

一本の映画に、シンプルなひとつの起承転結がある。観客の感情の流れは大きな川のように一本にまとまり、プロたちが交わす膨大な情報は川の表面を流れる木の葉のように「ゴジラを倒す」という同じ方向に流れている。

まったく違う6人の敵が順番に現れるシン仮面ライダーの構成というのは、「転転結起承転結起承転結起承転結起承転結起承転結転転承転結結」くらいになってるわけです。

公平を期して言えば、個人的にはシン仮面ライダーのテーマ、構想そのものはシンゴジラよりはるかに内容が濃いし、面白いと思います。ただひとつひとつのシークエンスを一般の観客が味わう映画的時間がなくなってしまっている。それはシンゴジラが情報の映画であるのに対して、シン仮面ライダーが情緒の映画だからだと思います。情緒は情報のように早口で処理できないのだけど、あまりにも語ることが多いためにそうなってしまっている。「まるで総集編みたいだ」という感想が何人も上がっていますが、どこにも存在しない本当の本編、何十話の大河ドラマ『シン仮面ライダー完全版』の総集編か、予告編をダイジェストで見るような映画になっている。

この映画を作る時に1971年の仮面ライダーを見たか、という質問に対して、「ずっと見ているのでこのためには見ない」と答える庵野監督。「ずっと見ている」というのは重い答えです。
おそらく仮面ライダーを何十年も愛してきた庵野監督の中には、頭の中で温めてきた巨大な仮面ライダーユニバースが存在しているのだと思います。ただそれは、一般の観客とまったく共有していない、庵野監督の中にある「本編」なのであって、それを最初の一本に一気に詰め込んだのはまずかったと思う。あまりにも長く片思いをしてきた相手と話すチャンスが出来たために、自己紹介からプロポーズまでを一気に早口でまくしたてるような映画になってしまっている。

シン仮面ライダーはやはり最初の一本は「シン仮面ライダーbeginning」にとどめ、何作かに分けて、ゆっくりと作っていくべき内容だったのではないかと思います。本郷猛と父親の物語も、ルリ子とハチオーグの物語も。

ここからは月額マガジン部分で、「シンエヴァンゲリオンで私小説を完結させた庵野監督は今後なにを作るのか」ということについて書きたいと思います。


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