石破首相、対米投資「1兆ドル」表明 関税回避へ貢献強調
石破茂首相は7日(日本時間8日午前)、トランプ米大統領との首脳会談に臨み、日本の対米投資を1兆ドル(約150兆円)に引き上げると表明した。米国産の液化天然ガス(LNG)の購入拡大でも合意するなど、米国経済への貢献を強調した。トランプ政権が検討する追加関税を回避する狙いが透ける。
「トランプ大統領の就任を受け、日本企業の対米投資の機運は一層高まっている。対米投資額を1兆ドルといういまだかつてない規模まで引き上げたい」。首相は会談で日本の対米投資残高が5年連続で1位だと説明したうえで、さらなる投資の拡大を約束した。
2023年時点の投資残高は7800億ドル程度だ。首相はトヨタ自動車やいすゞ自動車の工場建設の計画にふれ、日本企業の投資が米国の雇用に貢献するとの姿勢をアピールした。
両首脳はソフトバンクグループと米オープンAIの協業についても言及した。会談後に公表した共同声明には「人工知能(AI)、量子コンピューティング、先端半導体といった重要技術開発で世界をけん引するための協力」を盛り込んだ。
首相が「大きな成果だった」と語ったのが、2国間の経済関係の懸案となっていた日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画についてだ。トランプ氏は「買収ではなく、多額の投資をすることで合意した」と述べた。
バイデン前大統領が1月に「安全保障上の懸念」を理由に買収計画の中止命令を出していた。トランプ氏もかねて日鉄による買収に反対の姿勢を示していたが、「投資」という形で容認姿勢に転じたもようだ。
首相は「どちらかが利益を得るという一方的な関係にはならない」と話し、トランプ氏と認識を共有したと説明した。日鉄による現在の買収計画がどういう形になるのかといった具体策への言及はなかった。
もう一つの懸案だった日本製品への追加関税導入について、トランプ氏は首脳会談後の共同記者会見で「関税についてはあまり話しあわなかった」と述べた。
会談でトランプ氏は対日の貿易赤字について「何とか解消しないといけない」と問題視する姿勢も見せた。対日赤字の大きさは中国や欧州連合(EU)、メキシコなどへの赤字幅よりも小さく、相対的に目立ちにくくはなっているものの、赤字が解消しなければ日本への追加関税導入に踏み切る可能性もある。
トランプ氏が懸念を示す対日赤字の縮小も狙って、米国産LNGの輸入拡大で合意した。共同声明には「双方に利のある形で、米国から日本へのLNG輸出を増加する」と盛り込んだ。トランプ氏は「日本は間もなく歴史に残る記録的な量の米国産LNGの輸入を始める」と述べた。
日本はLNGをほぼ全量輸入しており、主に火力発電所や都市ガスで利用している。米国産は日本の輸入量で4番目に大きく、全体の8%程度を占める。米国からの輸入割合はオーストラリア、マレーシア、ロシアに続く大きさだ。
輸入が増えれば安定調達に向けた多角化につながる。首相は記者会見で「日本としてLNGのみならず、バイオエタノールやアンモニアという資源を安定的にリーズナブルな価格で提供されるのは大きな国益だ」と述べた。
22年のウクライナ危機後に欧州勢のLNG需要が急速に高まった影響で世界的に需給が逼迫したものの、足元では「不足感は特に感じない」(日本のLNG輸入業者)。LNGを購入するのは民間企業で、価格や条件、契約更新のタイミングなどが焦点になる。
米国側が挙げたアラスカのLNG開発も今後の見極めが必要になりそうだ。米国はアラスカに440億ドルを投じて、北部のガス田と南部の港をパイプラインで結ぶ計画を掲げる。日本政府内には、実現性や開発コストがLNG価格に転嫁されないかといった点を疑問視する声が出ている。
仮に現状よりも高い価格で調達することになれば高値づかみになり、国内の電気料金などのエネルギーコストが高まる可能性もある。
日本ガス協会の内田高史会長は2月、日米首脳会談を前に、米国の輸出拡大が世界的なLNGの価格の引き下げにつながることへの期待感を示しつつ、アラスカの案件については「北極海沿岸から太平洋側まで千数百キロのパイプラインを引くなどの相当な開発コストが上乗せされる可能性がある」と指摘した。
石破茂首相とトランプ米大統領の首脳会談に関連する最新のニュースと解説をまとめました。