セオ それは窓を撃たれたんですか?
久保利 そうです。向かいのビルのどこかから撃ってきたんでしょう。空気銃の弾が当たると、こちらのビルのガラスがそこだけかけらになってポロッと落ちるんです。
そのころうちの事務所に兵役を終えたばかりのブルガリア人の修習生がいまして、「先生、これはなんでしょう? あっ、空気銃であそこから撃ってますね」と言っていました。
空気銃で撃っているということはおれを殺す気はないんだろうなと、咄嗟に思いました。そのブルガリア人も「これは脅しですね」と言っていました。
セオ でも普通はビビリますよね。
久保利 脅されてもやめるわけにはいかない、やるしかないと覚悟はしました。ホテルに長期滞在したり、地下鉄ではなく車で帰った日もありました。
シマジ それは賢明でしたね。ホームがいちばん危ないですからね。
久保利 後ろからポーンと押されたらヤバいと思って、地下鉄のホームの太い柱の内側に背中を押しつけていましたよ。
シマジ 先生はいつもピンクやグリーンのジャケットを着ていますから、雑踏でも目立つでしょうしね。
久保利 レストランに行っても、絶対に入口が見える席に座って、入口に背中を向けることはありませんでした。そんなことが10年くらい続きましたね。
シマジ 最近の若いカップルをみていると、女を壁際に座らせて男がその反対に座っていますが、あれは騎士道精神からみてもおかしいとわたしは思っているんです。
男はやはり入口が見えるほうに座るべきですよ。万が一暴漢がやってきたときに、男はいつでも女を守ってやれるところに座るべきでしょう。
久保利 たしかに、見えなきゃ守れない。その習慣が沁みついていまでもわたしは入口が見えるように座っていますね。
立木 セオはどうなんだ?
セオ ぼくは妻に壁側に座ってもらいます。