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243話 子供か~


 エルフの村に滞在していたが、出発する間際になってエルフたちとの関係が微妙になってしまった。

 エルフたちだけではない、獣人たちとの関係もだ。

 俺とアキラが話していて、この世界の禁忌に触れてしまったせいなのだが、不注意すぎた。

 この世界にはこの世界の常識がある。

 元世界の優れた技術や知識だからといって、それがすべて受け入れられるとは限らない。

 どうも元世界の常識で色々と話してしまうので、もっと注意しなくては……。


 それはさておき、新しい仲間が加わった。

 アキラについてきたエルフの男――ツィッツラだ。

 どうもアキラのことを気に入ったらしくイチャイチャしているのだが、彼を連れていって大丈夫なのだろうか?

 まぁトラブルになってもアキラの家族の問題なので、俺に口出しはできない。

 エルフなら戦闘能力は高いし、魔法も使える。

 戦力として欲しい。


 俺たちは、エルフの村を出て川を下る作戦に出た。

 川は当然海へとつながっており、海まで出ればオダマキの近くまで行ける。

 そこまで行けばハマダ領にも帰ることができるだろう。

 問題は川には沢山のスライムと、海獣がいるということだ。

 スライムは、ゴーレムコアを使ったスライム避けがあるから無問題だが――エルフの話によれば巨大な首長竜のような魔物がいるらしい。

 とりあえず、それがどんなものか確かめてみないことには、判断ができない。

 川を下るのが不可能となれば、残すは陸路しかないわけだが……。


 皆で船外機つきの船に乗る。

 ぎゅうぎゅうづめだが仕方ない。

 2艘ある船のうち、1艘は遺跡の湖に置いてきてしまったのだ。

 アキラのアイテムBOXにも入らなかったらしい。

 操舵はいつものようにアキラだが、船舶免許を持っているので、彼が適任だろう。

 まぁ、俺が動かしてもいいのだが、アキラもすすんでやってくれているし。

 川幅は100mぐらいあるし流れはゆったりだし、船のスピードが上げられる。

 ボートは船外機の唸りを上げ、水面を切り裂いて進む。


「おおお~っ! すげー! 川の上をこんな速く進めるなんて!」

 いつもは舳先には獣人たちがいるのだが、今日はエルフたちが占拠している。

 俺はほぼ真ん中におり近くにはアネモネとアマランサス。

 下には森猫たちが香箱座りしてじっとしているが――まぁ、猫にとって水はあまり得意な場所ではないだろう。

 獣人たちは俺の後ろにいるのだが、じっと景色を眺めている。

 いつもワイワイと騒々しい獣人たちが静かだと、ちょっと寂しい。


「これってアキラが動かしているのか?!」

「おう! 見ろ見ろ」

 アキラが得意げに船外機を動かして蛇行運転を始めた。

 エルフにいいところを見せたいのだろう。


「ははは! すげー!」

「アキラ、無茶すんなよ」

「はは、大丈夫。まーかせて!」

 いやいや、こっちが大丈夫じゃねぇ――そんなことを考えていると服を掴まれた。

 いつもはアネモネなのだが、彼女とは違った力強い引っ張り。

 手探りすると毛皮の手。

 これはニャメナだな。

 手を引っぱり抱き寄せると、頭をなでる。

 黙って抱かれてはいるが、まだ耳は伏せているので、俺のことを警戒はしているのだろう。

 まぁ、嫌われているようではなくて、一安心。


「ふぎゃー!」

「な? なんだ?」

 突然抱きつかれて船から落ちそうになった。


「わ!」「なんと!」

 アネモネとアマランサスもバランスを崩している。


「こら、ミャレー危ないだろ」

「なんで、ウチを差し置いて仲良くなってるニャ!」

「……」

 ミャレーの言葉にもニャメナは黙っている。


「船に乗る前にも言ったけど、俺が悪かったよ。無神経すぎた、スマン」

「獣人の里でも、子どもを生むとき死んじゃう女がいるにゃ。ケンイチの言うとおりにすれば、そういう女が助かるのも解るにゃ。でもにゃ……」

 まぁ、やはり俺の言ったことには、かなりの抵抗があるのだろう。


「獣人たちには獣人たちのしきたりがあるんだろうから、それを強制したりはしないよ。心配するな」

「にゃ……」

 俺に抱きついている、ミャレーの頭をナデナデしてやる。


「まぁねぇ、種族によりいろんな禁忌があるのは仕方ないよぉ?」

 セテラが舳先で俺たちのほうを見てつぶやいた。


「そうだろうな。さっきもエルフたちと気まずくなってしまったし」

「子どもの話といえば、エルフは早産って話したけど、どうやって早産させるか知ってるぅ?」

「いや、アキラは?」

「俺も知らん。早産ってのは聞いたが……」

 セテラが話してくれるエルフの秘法。


「あのねぇ、魔法を使って早産させるのよ。お腹の中で大きくなっちゃうとケンイチの言うとおりで、産道を通れなくなってしまうからぁ」

「そうなのか……」

「だからねぇ、種族によっていろんなことがあるのは、仕方ないことなのよぉ」

「なるべくお互いを尊重できるように暮らしていかねば……でも、いいのか? エルフの大事なことを話してしまって」

「まぁ、別に秘密でもなんでもないしぃ。ケンイチたちなら大丈夫でしょぉ?」

「信用してくれるのはありがたいが……」

 獣人たちとのわだかまりも消え、船はそのまま進む。

 スライム避けが効いているのか、透明な魔物たちはまったく寄ってこない。


「へぇ、このスライム避けは大したものねぇ」

「うちの大魔導師様製だからな」

「えへん!」

 アネモネが胸を張る。


「エルフは、ゴーレム魔法を使わないのかい?」

「まぁ、あまり使わないわねぇ。その代わり精霊魔法を使うから」

 森の中には精霊というものが沢山いて、それらの力を借りているらしい。

 エルフは代謝の半分ぐらいを精霊に肩代わりさせているので、精霊がいないと動けなくなるという。


「それじゃ精霊がいない場所では生きていけない……」

「そうねぇ」

「街とかは平気なのか?」

「定期的に森に行けば平気よぉ」

 万能な究極二足歩行生物にも意外な弱点があったな。

 じっとしていれば、精霊だけで食事をしなくてもいいらしい。

 なんだそれ? 仙人かなにかかな?


「まさに霞を食って生きる不老不死だな」

「別に長生きしたっていいことはないんだけどねぇ」

 このなにもない森の中で1000年とか考えると――それはちょっと嫌だな。

 でも、平安時代から戦国時代を経て、江戸太平から文明開化、2つの大戦からの急成長してネット時代へ――それらを一気に見られるのは楽しそうじゃね?

 波乱万丈の人生だと思うけどなぁ。


 獣人たちも落ちつきを取り戻し、船は進む。


「そう言えば、子どもって言えばさぁ……」

 セテラが思い出したようにつぶやいた。


「ん? なんだ?」

「ああ、う~ん――これは言っちゃってもいいのかなぁ」

「なんだ? 俺たちのことか?」

「そうなんだけどぉ」

 セテラが子どもがらみで話があるようだが、いったいなんの話なのだろうか?

 出産の話をしていたから、出産関係だろうか?


「大丈夫だ、話してくれ」

「そう? それじゃ話すけどぉ――ケンイチとアキラは、私たちエルフのように他の世界からやってきた種族ってことで間違いないのよねぇ」

「ああ」

「それじゃ、只人じゃなくて――そうねぇ稀人っていうのかしらぁ」

「ん? 俺たちは只人じゃないのか? 言葉も通じるし、身体の外見も同じだと思ってたが……」

「そうねぇ、私から見るとちょっと違うかなぁ?」

 俺とセテラの会話にアキラも入ってきた。

 彼も稀人ってことになる。


「それで? 俺たちが、その稀人だとなにが問題だ?」

「ケンイチは貴族だからぁ、世継ぎが問題になるんじゃないかなぁ――と思ってぇ」

「は? なんで?」

「只人と獣人って子どもができないでしょ? エルフと只人も無理ぃ」

「え? も、もしかして、それって……?」

「しばし、待て! なんじゃと?」

 黙って話を聞いていたアマランサスも、エルフの言っていることに気がついたのか、顔色が悪い。

 つまり、稀人と只人との間にも子どもができないってことだ。


「そ、そうなのか? いままで避妊をしてきたのに意味がなかったってことなのか……そうだ、アキラは?」

「あ~、う~ん。そうはっきり言われると、ちょっと堪えるなぁ。実は、うちの家族とも生でやりまくってたんだが……」

 彼は、もうこの世界で家庭を持つつもりだったので、避妊はしていなかったらしい。


「それにセンセに子どもができれば、皇帝の側近をやめられるかな~とか考えてたんだが……」

「できなかった?」

「そう」

 アキラがマジ顔をしているので、本当らしい。

 俺は頭を抱えた。


「あうう……まさか、そんな罠があろうとは――リリスやプリムラになんて説明をしよう……」

「別に、貴族の跡取りなら養子でもいいでしょうぉ?」

「そりゃ、そうだが……」

「?」

 なんだかよく解ってない、アネモネが不思議そうな顔をしている。


「ははぁ、ちびっこには、なにを言ってるか解らないのかぁ」

 セテラがいやらしい笑いを浮かべている。


「ちびっこじゃないから!」

「アネモネ――俺とアキラは、君たちと種族が違うから、子どもができないんじゃないかという話なんだよ」

「……え?!」

 彼女もやっと解ったらしい。


「驚くよなぁ。俺も普通に姿形が一緒だから、同じ人間かと思っていたら……」

「ケンイチの赤ちゃんほしかったのに……」

 アネモネがしょんぼりと下を向く。


「いやいや、まだ決まったわけじゃないから、エルフの言っていることが間違っている可能性もあるし」

「そうだったら、いいんだけどねぇ」

「……」

「これを聞いて、ケンイチから離れる女も出るんじゃない?」

「そんなことはありませぬわぇ!」

「うおっ!」

 いきなりアマランサスが大声を上げたので驚いた。


「妾は、聖騎士様がなに者であろうとも、影を踏まぬように後ろをついていきますわぇ」

「もちろん私もだよ!」

「にゃー」「みゃー」

「それに、妾の歳で子どもなど……」

「女性に歳を聞くのは失礼だと思って聞いてないが、30代半ばだろ? まだまだ大丈夫じゃない?」

「ケンイチ、俺たちのいた世界じゃそうかもしれないが、この世界で30代半ばで初産ってのはかなり高齢出産だぞ?」

 アキラは帝国でもあちこち回っていたそうだからな。

 この世界の文化に詳しい。


「そうなのか――あ! そういえば、リッチの所で拾った神器はどうした?」

「俺のアイテムBOXの中に入っている」

「アキラってアイテムBOXも持っているんだってな! すげーよ!」

「ははは」

 アキラはエルフに褒められて、得意満面な顔をしている。


 突然の情報に困惑してしまったが、まだ解らないだろう。

 アキラも、この世界に来て2年ぐらいらしいし。

 たまたまって可能性だってある。

 いきなり、まさかのとんでもない爆弾だったな。


 昼頃になり、船の上で簡単に食事を済ませることにした。

 皆にパンやインスタントのコーンポタージュスープなどを配る。

 ベルたちには猫缶だ。

 船で揺られながらお食事タイム。


「アイテムBOXはすげーな! こんなに美味い食い物も沢山入っているのか?」

 ツィッツラは、甘くて柔らかいパンに驚きの声を上げている。


「まぁな。でも、エルフたちと違ってすべて共有財産って概念はないから注意してくれよ」

「ああ、それは知ってるよ。俺たちの間でもよく話題になる。でも、只人たちが作っている共和国ってところは、エルフの真似をしてるんだぜ?」

 彼はポタージュにパンを浸して食べている。

 植物系のスープなので、エルフにも大丈夫だろう。


「そうらしいな」

「それも上手くいってないらしいけどぉ」

「なんでもできるエルフと同じことをしようとしても、どだい無理ってことだな」

「まぁねぇ」

 後ろのほうで獣人たちも食事をしているが――静かだ。

 なんとも声をかけづらいし、様子をみよう。


 途中で燃料を補給しつつ、船は順調に進み夕方になる。

 スライムは問題ないし、噂の海獣とやらは出てこない。

 時速30kmほどで8時間近く走ったので、240kmほど移動したことになる。

 ――とはいっても、川は曲がりくねっており、実際に進む距離ははるかに長くなるだろう。

 サクラからオダマキが1000kmぐらい離れていたことを考えると、そのぐらいの距離があることは十分に考えられる。

 日が暮れる前に、接岸できそうな場所を探して上陸してしまう。

 船は係留したままにしておく。

 ここで、盗むやつもいないだろう。

 上陸すると草むらの中に、颯爽とベルとカゲが突っ込んでいく。

 彼女たちに恐怖心とかはないのだろうか?

 俺たちじゃ――なにがあるのか解らないのに、いきなり突っ込んでいくなんて無理。

 たとえば、触れるとかぶれる葉っぱなんかもあるしな。

 森猫や獣人たちは毛皮を着ているので、肌に毒が直接触れることはなく、かぶれに強い。


 上陸したら草ボーボーなので、まず草を刈る。

 アイテムBOXからエンジン式の草刈り機を取り出して、エンジンをかけた。


「わっ! うるせー! なんだぁ!」

 突然の轟音に、ツィッツラが長い耳を塞いでいる。

 彼らは耳がいいのでうるさく感じるかもしれないが、獣人たちが平気なんだから大丈夫だろう。

 

 草を刈ろうとしたら、アネモネに服を引っ張られた。

 

「ケンイチ、私に任せて」

「解った」

 アイテムBOXから、ゴーレムのコアを取り出すと、すぐにアネモネが魔法を使いはじめた。

 木でできた十字架に青い光が染み込むと、周りの草が団子になっていく。

 

「へぇ、そういう使いかたもあるのねぇ」

 アネモネの魔法にセテラが感心している。

 巨大な草の団子が、ゴロゴロと転がり雪だるま式にどんどん大きくなった。

 大きくなったら、俺のアイテムBOXに入れて、ゴミ箱に投入すればいい。

 いや、こいつは肥料に使えるな。

 保存しておこう。

 草が刈り終わったので、コンテナハウスを出す。


「ケンイチ、俺たちはあそこにキャンプするからよ」

 彼はエルフとキャッキャウフフするつもりだ。

 

「それじゃ、もう1個コンテナハウスを出すぞ。テントじゃ危ないだろう」

 水辺の近くなので、スライムやら他の魔物に襲われる可能性がある。

 スライムはスライム避けやエルフの小○でなんとかなるだろうが、他の魔物には効かないだろう。

 コンテナハウスの中にはベッドなどが置いてあるので、そのまま使える。



「アキラ、なにかいるものがあるか?」

「う~ん、ビール! と、ツマミ!」

「それは飯を食うときに渡すよ」

「やったぜ!」

「アキラ、ビールってなんだ?」

 ツィッツラが聞き慣れない単語に首を傾げている。


「只人が飲んでいるエールみたいなもんだ」

「へぇ」

 エルフたちは、飲酒はどうしているのだろう――ツィッツラに聞いてみる。


「たまに只人の村に行ったりすると、物々交換で手に入れたり……」

「エルフたちはどんなものを持っていったりするんだ?」

「好評なのは薬草だね。村には医者がいないようだったし」

「でも、噂によると――村を作ると医者や魔導師などが政府から送られてくるって話だったが……」

「確かにやってきたらしいんだけど、まったくやくたたずで、村人たちが追い出したらしいよ?」

「けど、中央から派遣された人間を追い返したりしたら、まずいことにならないか?」

「普通はそうみたいだけど」

 中央からの援助は打ち切られたが、もともとろくな物資が送られてこなかったので、村人たちは自給自足の生活に切り替えたようだ。

 それでエルフとも取引をしているらしい。


「まぁ、それじゃ政府の意味ないしなぁ。でも反逆罪とかにはならないのか?」

「一応、監視人みたいのが残っていたようだけどさ――ほら、やつらエルフを崇拝してるじゃん」

「ああ、共和国はエルフの村を参考にして国を作ったって話だからな」

「エルフと仲のいい村には手出しができないようだよ」

「なるほどなぁ……」

 コンテナハウスの設置もできたので、アネモネと協力してスライム避けを設置する。


「それじゃ泊まる所の準備もできたし、食事の準備でもするか」

 俺の提案にエルフが手を挙げた。


「はいはい! 俺、細い虫みたいのがいい!」

「虫ってラーメンだな――解った。アキラは?」

「俺もラーメンでいいぞ」

「それじゃ、みんなラーメンで、獣人たちはカレーにしてやろう」

 多人数なので、カップ麺を止めて袋麺を鍋で作る。

 少々多めに作って伸びてもアイテムBOXに入れておけば、いつでも食える。


「アキラ、ちょっと鍋を頼む」

「おう」

「ほい、ビールとツマミ」

 ビールはカートンで、ツマミは袋だ。


「おお! こいつはかっちけねぇ!」

 彼がラーメンをかき混ぜ始めたのだが――アキラとツィッツラを見ていると、1つのビールを回し飲みしている。


「……?」

 俺はその光景に固まった。

 それだけではない、ツマミも食いかけを一緒に食べたりしている。

 なんだろう? エルフの文化的ななにかか?

 アキラはエルフとも暮らしていたそうなので、たぶんなにかあるのだろう。


 それはさておき、俺は獣人たちにやるカレーを用意しよう。

 お詫びのために、シャングリ・ラを検索して、高いレトルトカレーを探す。

 お? 激肉カレーとかいうのがある。なんと1袋1000円。

 デカイ牛肉がゴロゴロ入っているパッケージだが、これで肉が入ってなかったら詐欺だな。

 2つをカートに入れた。


「ポチッとな」

 落ちてきたカレーをアネモネにあたためてもらう。

 紙の皿に盛れば完成だ。真っ黒なカレーだが、パッケージに偽りなくデカい肉がゴロゴロ。

 これは当たりだ。


「ほら、2人ともカレーを食って機嫌を直してくれ」

 2人の前にカレーを差し出す。


「うう……うなーん!」「うみゃー!」

 獣人の2人が、カレーを持っている俺に抱きついてきた。

 ミャレーだけじゃなくて、ニャメナもにゃーにゃー言っている。


「こら、待て待て、高いカレーが溢れる!」

「なぁぁぁん」「にゃーん」

 2人が泣いている。

 獣人は涙を流さないが、泣いている彼女たちを一緒に抱きしめた。


「お前たちが泣く必要はないだろう。俺が悪いんだからさ」

「なぁぁん!」「にゃーん!」

「ほら、カレーが冷めちまう」

 カレーを掬ってニャメナに近づけると、泣きながらパクリと食いついた。

 ミャレーにも食わせてやる。

 お腹がいっぱいになっても離れてくれないので、俺は飯を食いそこねたのだが、あとでパンでも食おう。

 ――とか考えていると、獣人たちの耳がピンと立つ。


「敵か?」

 彼女たちが黙って首を振る。


「にゃー」「みゃ」

 草をかき分けて出てきたのは森猫たちだった。


「アネモネ~、森猫たちに食事をやってくれ」

「うん」

 猫缶を出してやってアネモネに頼む。

 彼女が猫缶を皿に開けると、森猫たちは美味しそうに食べ始めた。

 アネモネが森猫の黒い毛皮をなでているので、俺も獣人たちの毛皮をなでてやる。


「今日は一緒に寝るか」

「なん」「にゃ」

 2人が短く返事をした。

 彼女たちに嫌われていたわけではないらしい。

 暗くなってきたので、俺はシャングリ・ラからもう1つコンテナハウスを購入した。

 こいつは便利すぎる。

 これの存在を知っていたなら、ログハウスのキットを作らないで最初からこれ1本だったろうな。

 まぁ、その前に自分で家を作ってみたいという衝動があったわけだが、それだけではない。

 スローライフといえば、ログハウスみたいな建物という固定観念がどうしてもある。

 ああいう家に住んでみたい――というのは男のロマンというやつだ。


 皆が寝るコンテナハウスより少し離した場所に鋼鉄の部屋を設置。

 アネモネとアマランサスを説得した。

 まぁ、2人も解ってくれているらしいが――解ってくれないやつもいる。


「私もぉ、一緒に寝ていい?」

 セテラが俺と獣人たちの所にやってくる。


「ちょっと空気を読んでくれ」

「ええ? そんなのどうやって読むの? 稀人ってそんな能力があるの?」

「いや、そうじゃなくて察してくれ」

「なにを?」

 セテラは悪気があって言ってるわけじゃない。

 本当に通じていないのだ。


「う~ん、今日は獣人たちとじっくりと話したいことがあるので、エルフ様はご遠慮してくれないかな?」

「うん、解ったぁ」

 このように、しっかりと話せば理解してもらえる。


「よし、俺たちも寝ようぜ」

「うん」

 アキラとツィッツラが、腰を抱いて一緒にコンテナハウスに入る。


 その日の夜は、森の深淵に獣人たちとエルフの声が響いた。



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