杉並区が都で初となる「年間30万円を最大2年」の家賃補助施策を開始へ…民間の空き室を有効活用できる一方、個人への“現金支給”には賛否も…
年間30万円の助成が最大2年まで
新制度は、区営住宅の抽選に落選したひとり親世帯と子どもが3人以上の世帯が対象。年間30万円の助成が最大2年まで受けられる。 また、低所得者の中で転居費用が捻出できない区民を対象に、単身世帯で15万円、2人以上の世帯で20万円をそれぞれ助成する仕組みもつくる。 杉並区住宅課によると、区は978戸の区営住宅を運営し、修繕中で稼働できない部屋以外はほぼ満室状態が続いている。住宅課の担当者は言う。 「直近の令和6(2024)年度は、新規の申し込み世帯が全体で212ありました。区営住宅への入居は、部屋に空きができ次第順次あっせんしていくという形になります。区営住宅が置かれているエリアごとに入居希望者数には差がありますが、全体をならしてみると、倍率は4倍程度になります」 こうした状況の中で、募集が出た部屋の入居を決める抽選に落ちた、条件を満たす世帯が24年度は36あった。これらの世帯が新年度の助成対象になる。 生活環境改善のため個々の家計に直接補助をする仕組みは目を引き、岸本氏が1月31日にこの施策を発表した記者会見では「家賃の補助という“個人的な分野への補助”を行政が行なう意味は何か」と問う質問も出た。 これに岸本氏は、「ここが大変難しいところでございました。だからこそ、対象を明確にした上で、期間も最大2年間ということにしております。それは、この助成を通じ、中長期にわたってはその生活の自立ということを支援、促したいという気持ちがございます」と答えている。
個人への“現金支給”のような補助には批判の声も
住居の確保に関しては、国は低所得者や被災者、高齢者、障がい者などを「住宅確保要配慮者」とし、こうした人だけが入居できる「セーフティネット専用住宅」の拡充を図っている。 杉並区は、このセーフティネット専用住宅の貸し主に補助をすることによって家賃を原則10年間にわたり月額最大4万円低減させる制度を23年12月より始めている。 長期的な自立支援の一環としてもこれを始めていたのに続き、新年度から家賃や引っ越しへの補助制度を拡大し、民間の賃貸住宅のストックを生かした取り組みも加えた、というのが岸本氏の説明だ。 区住宅課の担当者もこう語る。 「コロナ禍もあって、アルバイトで生計をつないだりとか、事情があって少し仕事を休んだとたんに生活が苦しくなったりだとか、居住が不安定な状況にある人が多いことが顕在化し、国のレベルでも住宅政策の拡充は欠かせないという考えは強まっています。 そこでどうやっていくかと考えると、公営住宅を増やすのが一番いいんです。しかし、杉並区は区営住宅が23区の中でも多い方なんですが、都営住宅は比較的少なく、トータルでみると公営住宅の数は23区内でも少ない方なんです。ただ、新しく建てるのは、土地もないし、将来的に考えても難しい状況があります。 一方で、民間の賃貸住宅は空室が増えており、公営住宅の管理運営はきちんとしながらも、足りない部分は民間の住宅ストックを有効活用していこうという考え方ですね。これは、国の考え方とも重なる部分があるんです」(区住宅課) 杉並区は「みどり豊かな住まいのみやこ」という基本構想を掲げており、住環境の整備を自治体のアピールポイントに押し出している。 その住環境整備の中心に置くのが、困難を抱える人や高齢者も含めた方に対する「住宅の安心確保」だと岸本氏は訴えている。 一方、「区長自身が難しい部分もあると言ったように、個人への“現金支給”のような補助には賛否があります。そのため2年間限定という制約がついたかもしれませんが、2年で生活自立ができるのか、2年後に区営住宅に入れなければどうなるのか、という課題も生まれてくるでしょう。 物価高騰などで区の予算規模は対前年度で10%以上伸びており、税収確保も問題になってくる中、予算審議で議論の対象になるかもしれません」(社会部記者) 賛否ある新制度だが、行政による住宅支援の在り方をめぐる議論に一石を投じそうだ。 取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
集英社オンライン編集部ニュース班