脊椎手術3例のうちの最初の1例です。
この方は、自宅内で数か月前から動作困難、歩行困難が進行し、ついには立ち上がることもできなくなったとのことで救急搬送されてきました。内科の先生が担当されていましたが、若い先生でしたが診断能力が高く、すぐに頸椎脊柱管狭窄によるものではないかと考え私にコンサルトしてくれました。診察したところ四肢は明らかな痙性麻痺状態で随意動作はほぼ不可能、寝返りすらできないという状態でした。腱反射も著明に亢進しており(打腱器がいらないレベルです。指で叩いて跳ねるレベル)、典型的なミエロパチー(脊髄症)の初見でした。画像的にも頸椎脊柱管に高度狭窄をみとめ、後縦靭帯の骨化所見から、OPLL(後縦靭帯骨化症)によるものと診断しました。
ご主人は高齢で手術説明を聞く自信がないとのことでしたので、姪御さん(だったと思います。)ら3人を呼んで病状説明し方針を相談しました。ここまで進行すると小さな頚髄損傷が潜在している可能性も高く、減圧したとてよくなるかはわからない。カンファでも色々もんで、状況を打開するためにできることと言えば手術しかないので、結局手術する方針となりました。(手術は、椎弓形成術です。後方から脊柱管を構成する骨を広げて、脊柱管の輪を広げる操作です。)
手術は型どおりですが、正中縦割の方法がもともと教わっていた先生とやり方が違い戸惑ったのを覚えています。私は糸鋸による正中縦割が最も安全と教わっていたので。
正中縦割を2mmのダイヤモンドバーで行いました。骨を削って黄色靭帯を確認してという操作を続けていました。両サイドにガターを掘って、いざ椎弓を起こしてみると、硬膜表面に数ミリ破れ、髄液が漏れ、脊椎表面に少し出血もみとめました。幸い脊髄の損傷自体は表面だけにとどまっており、これによる影響はそれほどないだろうと思われました。サージセル等で圧迫止血し硬膜を閉じしました。(この損傷の程度を客観的に伝えるのは極めて難しいです。そこはご了承ください。)その後、椎弓形成を行いましたが骨粗しょう症のためスクリューが固定できず、形成断念し椎弓切除しました。
術後は術前と麻痺の程度は回復したとは言えませんでした。心配された後索障害(深部覚、位置覚異常)については明らかなものは、身体所見上検出されませんでした。
正直、皮質骨を貫いて硬膜を突き破れば、急に軽くなる感覚があると思うんですが、術中は常に骨の抵抗を感じて削っていました。後で動画を何度も見直しましたが硬膜を突き破っているような該当部分は指摘しえませんでした。ご主人には正直に話して謝罪しました。(ご主人が認知症?というような報道がされていましたが、当時本人はそのような印象はまったくありませんでした。数年の間に進行したのかもしれませんが。)
のちのディスカッションで、硬膜癒着説が出てきたのですが、脊髄専門の先生にお伺いしたいです。高度狭窄でそのような硬膜が異様に薄くなっていたり、癒着が疑われるなどのケースはありますでしょうか。
これ以降、私は脊髄手術については執刀を拒否しています。
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