再びトヨタ自動車が電気自動車(EV)の計画の引き下げに動いた。2026年に年間100万台としていた「基準」を、80万台に下げたことが分かった。前回の基準の見直しから、わずか4カ月あまりで2度目の下方修正ということになる(図1)。
同社が示す「基準」とは販売目標ではなく、需要があれば対応できるように準備する生産台数のことだ。トヨタ自動車は2030年までにEVおよび電池に5兆円を投じる計画の一方で、「実需を見ながら柔軟に計画(基準)を見直す」(同社の宮崎洋一副社長)方針を掲げている。EVに対する世間の期待に応えて積極的に投資する姿勢を見せつつも、現実の市場変化に応じて素早く計画を見直す考えだ。
トヨタ自動車は、2021年12月14日に「新EV戦略」を発表し、2026年のEVの基準を年間150万台に設定。これを2024年9月に年間100万台と50万台引き下げた。それを今回、さらに20万台引き下げた数字(基準)を、将来の生産台数の見通しとして部品メーカーなどに示した(図2)。翌年の2027年の見通しが100万台なので、基準を1年遅らせたという見方もできる。
ここに来てトヨタ自動車が基準の見直しを繰り返しているのは、EV販売が失速しているという市場データを踏まえたのはもちろん、いわゆる「EVシフト」が思ったほど進んでいないという現実が世間に広く認知されてきたからである。
欧州でハイブリッドシフト加速
EVシフトの発信地である欧州では、2024年にEVの失速が鮮明となった(図3)。新車販売に占めるEVの比率は13.6%と、2023年の14.6%から1ポイント減少した。電気代の高騰と補助金の縮減の影響が大きく、特にドイツでEVの販売が落ち込んだ。
逆に、勢いが増しているのがハイブリッド車(HEV)だ。その比率は2024年に30.9%と、ガソリン車(33.3%)に迫るところまで高まった。このペースで伸びれば、2025年にはガソリン車を抜いてトップに躍り出るのは必至だ。欧州はまさに「ハイブリッドシフト」のさなかにある。プラグインHEVは振るわないが、これは補助金の縮減に加えてHEVと比べた価格の高さが主な理由だろう。
これまでEVシフトを謳歌してきた米Tesla(テスラ)も踊り場を迎えている。2023年に前年比で4割近く伸びて180万台を超えたEVの販売台数が、2024年に1.1%減の約179万台と、わずかながら減少に転じた。中国・比亜迪(BYD)は販売台数を伸ばし続けているものの、足元の伸びはEVよりもPHEVのほうが大きい。2024年はEVが前年比で12%増であるのに対し、PHEVは73%増と大幅な伸びを示している。
だが、市場調査力に定評のあるトヨタ自動車がこうしたEV販売の減速を知らないはずはない。なぜEVの基準を一気に下げず、段階を経て見直しているのか。この点について、自動車系アナリストはこう見る。
「トヨタ自動車は、EVは発展途上の技術と捉えている。多くの場合、LCA(ライフサイクルアセスメント)で評価するとカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)にもつながっていない。ところが、トヨタ自動車はEVに消極的であるとメディアなどから批判されてきた。そのため、市場データと世間のEVに対する評価を見ながら徐々に基準を見直すことで、EVに後ろ向きという印象を与えるのを避けたいのだろう」
では、このままトヨタ自動車は、世間の印象を推し量りながらEVの基準を少しずつ減らし続けるのか。その逆で、むしろチャンスと見ているようだ。攻勢をかけるのは、中国である。










































