ここにも孤独な奴がいた。
呼ばれた場所に行ったら誰も来ず、一時間待った後に「罠か」と思った。焼肉屋に呼ばれたから、肉が食える喜びに体は熱くなった。熱くなった分だけ、罠と気付いた後はしっかり冷えた。不思議と、その人を恨む気持ちは起きなかった。誹謗中傷で人も死ぬ世の中だ。なぜ、誹謗中傷は減らないのだろう。自分とは関係ない人の活躍を妬んだり、不幸を喜んだりする心理は、どこから来るのだろう。忘れられないために、傷つけるのかもしれない。自分とは関係のない人を恨んだり妬んだりすることで、関係を作りたいのかもしれない。
冷えた体を温めるために、夜の街を歩いた。金曜日の夜は、会社の同僚や恋人と歩く人たちで溢れていて、なんだか自分が場違いなように思えた。ひと通りの少ない道を選び、とことこと歩き続けていたら、ゆっくりと体が火照ってきた。昔見た『パリ、テキサス』という映画を思い出した。テキサスの砂漠をとことこと歩く主人公の男性は、どことなく私の父親に顔が似ていた。自分は孤独ではないと思った。正確には「ここにも孤独な人間がいる」と思うことで、私の孤独は中和した。
銭湯の無料券をもらっていたことを思い出し、風呂に入った。シャワーを浴び、浴槽に入ったら、綺麗さっぱり水に流せた。五歳くらいの男の子が暴れて、父親から怒られていた。当たり前だが、みんな誰かのこどもなんだよなと思った。生まれたからには両親がいて、みんなこどもだった時があるんだよなと思った。俺を罠に嵌めた人物も、昔はこどもだったんだよな。俺も、お前も、百年後にはいなくなるんだよな。俺はお前を知らないが、お前がお前みたいな人間になる経緯を理解できたら、憎むことなんてできないよなと思った。
東京タワーを目指した。昔、知り合いの男性が、好きな女の子と飲み終わった後に「東京タワーまで歩いて行って、東京タワーでキスをしよう」と誘って、夜の散歩をしていたことを思い出した。東京タワーでキスをしよう。ダサいが、魅力的な提案だ。闇を、東京タワーの灯りが照らす。澄み切った夜空に、月と、星たちが輝いていた。「星たちの輝き」などと簡単に言ったが、一つの星と一つの星は遠く遠く離れている。もしかしたら、あの星も「一人だな」と泣いているのかもしれない。その涙も、遠くから見れば、一つに見える。
長崎に住む女性R様から電話がかかってきた。社会不適合者を自認しているR様は「貧乏は嫌だ、過労も嫌だ、いまさらひとに怒られるのも嫌だ、いままでなにやってたんだって真顔で聞かれるのも嫌だ」と言った。ひと通り騒いだ後に、私から「自分を不幸だと思わないこと」と言われて、R様は「はい」と言った。やらなきゃいけないことがたくさんあるのだが、やる気が起こらないと言ったR様に「しのごの言わずにやれ」と言った。やるっきゃないから、やるんだよ。R様は「は〜い!」と言って電話を切った。一人の人間の存在が星みたいなものだとしたら、俺とお前の星座はなんだろうね。一つの夜が終わり、一つの朝が来る。まだ誰にも汚されていない一日がはじまる。
おおまかな予定
2月8日(土)東京都港区界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)
連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com
SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z
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コメント
1おはようございます。
東京タワーのお話ステキです⭐️私も好きな人と散歩してみたくなりました🗼