埼玉虐待禁止条例問題、背景にある自民県議団のおごりと浮かんだ課題
小学生以下の子どもだけの登下校や外遊び、短時間の留守番さえも「虐待」にあたる――。
埼玉県の自民党県議団が10月に出した虐待禁止条例改正案は、そんな内容に強い批判が集まり、委員会可決後の異例の取り下げに追い込まれた。
「留守番ができる子にすることが、障害のある長男を育てる中で立てた目標だった」。10月下旬にあったシンポジウムでこう訴えた県内在住の男性(50)は「その目標が否定されたようで悔しかった」と語る。
重度の知的障害がある長男(21)が幼い頃、親の死後に備えていつかは短時間でも1人で過ごせるようにしたいと考えた。当時は障害のある子どもが放課後などに通える施設が少なかった。小学1年生で留守番の練習を始め、5年ほどかけ数時間1人で過ごせるようになったという。
「改正案は私たちの思いと遠いところにあった」と男性。各家庭がこうした様々な事情や思いを抱えているのに、自民県議団が示した禁止事項はそれを十分考慮したとは言いがたいものだった。
実情を無視したルール 「アピール材料」との思惑も
SNSなどでは、学童保育の不足など、環境整備が不十分だと嘆く声も上がった。改正案作成に関わった複数の自民県議はこうした声に「県に待機児童解消に取り組むよう求める条文も入れていた。我々は条例をつくることで、行政や社会に課題解決に取り組むよう促してきた」と語る。
自民県議団は2010年から毎年のように条例の単独提案をし、35件を成立・改正させてきた。ただ、県議団内からは「条例をつくれば選挙などで自分たちの仕事をアピールする材料になるだけに、数にとらわれていた」との声も漏れる。
今回は、子どもが置き去りにされて亡くなる事案を防ぐ狙いがあった。そんな意図を理解したとしても、子育てに関わる人たちの思いに向き合わずに、実情を無視したルールを押しつけようとした姿勢には、上から目線のおごりを感じる。
県議は県民のために仕事をしなくてはならない。条例提案は重要な仕事の一つだが、県議のひとりよがりな理想を実現するためのものではないはずだ。
子どもの安全や居場所の確保、子育てしやすい環境の整備といった課題は残されたまま。当事者の切実な思いも浮かび上がった。住民の困りごとに向き合い、県政に反映させるのが県議の役割だ。今後の取り組みが県民のためになっているか厳しい目で取材したい。