【未完】寵獣擬画の旅人芸術家 〜キャンバスを張って描くことで見つけた、生きるという営みの深奥について〜

夢咲蕾花

Episode Quest1:芸術家の苦悩。或いは、人間ではない超越感。

Quest Prelude:三八万キロの展望台

 ここから見えるのは、青い惑星から生えた巨大すぎる樹だ。

 それは高さ不明、である。惑星自体が回っているのだからその樹がこちらに迫る可能性もあるが、樹は地上三万五〇〇〇メートル地点でさながらブラックホールめいた異空間の渦に消えており、おそらくはあの先が神の世界なのだろう。

 外部探査船があの異空間に入ったこともあるが、ことごとく音信を断ち、残骸が地表に降り注いだ。


 サカズキは月面に築かれた、最大収容人数四〇〇〇万人の巨大コロニーの中央完成室の窓——正確には、スクリーンに投影されている外部映像を眺めていた。


 宇宙に、そして神界に伸びる樹——玄慈樹げんじじゅ。我らが母なる女神の惑星、玄慈球げんじきゅうの唯一大陸たるミュステリウムの中心から生え、多くの恵みをもたらす存在。


 それが三〇〇年ほど前から異変を来している。

 特にこの八〇年の悪化速度は速く、サカズキをはじめとした「樹師じゅし」たちは方々で対策を取っていた。


 総人口七六億と計算される中からわずかに四〇〇〇万人だけを脱出させる月面コロニー。別の星への移住を考える一派に、そしてあの樹を治そうとする樹師も。


「終わる時が来るのなら」


 サカズキは着物の裾を引き摺りながら、つぶやく。


「見届けさせてもらおう。創世の三女神、そして、双龍神たちよ」

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