考察『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』3話「なんかもう夢ん中にいるみてえだ!」吉原を救うために危うい賭けに出た蔦重(横浜流星)のサンプルプロモーション大成功
忘八なら忘八らしく
扇屋宇右衛門(山路和弘)が駿河屋にやってきて、市右衛門に蔦重を許してやれと取り成す。 市右衛門「じゃあ、息子が今日から八百屋もやりますって言ったら許しますか」 宇右衛門「重三だけはよそに出さなかったのは駿河屋を継がせる心づもりかい」 「可愛さ余って憎さ百倍なんてお前さん、まるでヒトみたいなこと言ってるよ。忘八のくせに。忘八なら忘八らしく、ひとつ損得づくで頼むわ。な」 渋い! 抑揚と目の光の変化で、渋くてカッコいいだけではない、怖さも感じさせる。そして粋だ。人間としての八つの徳を忘れなければ務まらないという忘八だが、人間の心も理解せねばましてや大見世の楼主など張れないというわけか。 市右衛門の激怒の理由がここで明かされる。さらりと息子という言葉が出てくる市右衛門と、彼の真意を当てて見せる扇屋宇右衛門。息子……。 宇右衛門が立ち去ったあとに『一目千本』を手に取り開いてみた市右衛門は、たちまち惹きこまれる。ツンツンしてる亀菊はわさびの花。志津山は葛。これに市右衛門が笑いだす。 志津山「他に馴染んだというので髻(もとどり)切られたざんす」 ここで彼女が話しているのは、客の噂話。吉原では馴染みの女郎ができたら、他の女郎に手を出すことを禁ずるしきたりがあった。客をめぐっての諍いが起きるのを防ぐためで、これを犯すと客が髻を切られるなどの制裁をくらう。「花の井は床下手」など、他人の悪い噂話が大好きな志津山は葛(クズ)というシンプルな悪口だろうか。本人にとっちめられたら、白くもっちりとした葛粉のような……などの言い訳が必要そうである。 客を腹上死させる角か那屋・常盤木はトリカブト、無口な四ツ目屋・勝山がクチナシ、「おひさんが」と日光浴していたのんびり花魁、扇屋・嬉野はヒマワリ、ふわふわと……と歌っていた角たま屋・玉川がタンポポ。 いつの間にか隣で『一目千本』を開いていた市右衛門の妻・ふじ(飯島直子)も市右衛門と共に、見立てに笑い転げ「誰よりも、この町を見てんだねえ。あの子は」としみじみ語る。誰よりも吉原を見て、知って、故郷として大切にしている男だ。 そしてついに、吉原に客が押し寄せた。小間物屋も蕎麦屋も大繁盛。馴染みになれば『一目千本』をもらえると聞いて「安い見世なら、俺たちでも」と話している。河岸の切見世の困窮もマシになるだろう。 今回の集客大作戦の立役者の一人である長谷川平蔵は、親の遺産を食いつぶしたからもう来られないと花の井に手紙を寄越した。借金するようなことにならなくてよかったし、あんなにカッコつけていたのに吉原に来られなくなった理由をちゃんと言って寄越すなんて、なんだかんだいって真面目だ。好感度が上がる。 花の井「50両で吉原の河岸救った男なんて、粋の極みじゃないかい」 野暮の極みから粋の極みへ。意中の彼女がこう評していたなんて知ったら、平蔵はどれだけ目を輝かせて喜ぶだろう。岡場所に出入りし、吉原の花魁に恋をしたこの作品の長谷川平蔵なら、小説『鬼平犯科帳』のように、夜鷹を人として扱う鬼平になるだろうなという想像が膨らむ。 しかし、ずっと気になっているんですが。花の井にはうまいこと騙されてくれる平蔵というカモがいたが、この話に乗った120人の女郎たちは出資金をどう工面したのだろう。吉原が不況だから企画が生まれたのである。みんながみんな太い客を持っているわけではないだろうし……見世から無理な借金をしていなければよいが。その辺りは4話以降で出るだろうか。 明るい兆しが見えた吉原とは対照的に『一目千本』を手に暗い情念を滾らせる、鱗形屋孫兵衛。そして、傀儡を操る一橋治済(生田斗真)。 田安治察が22歳という若さで死去、妻子はおらず、弟の賢丸が白河松平家に養子となることが決まった半年後である。陰謀がうごめく気配がする──。 次週予告。蔦重、錦絵に挑む! 本を出すのに一文も出したくないらしい忘八連合。やっぱり資金問題が浮上している。ちょっと待って。なぜか忘八みんな猫を抱っこしてない? 書を以て世を耕し……耕書堂の名が! 展開早いな。田沼意次、田安家から恨まれる。3話は風呂屋の主人としてジェームス小野田がいたが、4話は絵師として鉄拳が登場する! 第4話も楽しみですね。 ******************* NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 脚本:森下佳子 制作統括:藤並英樹、石村将太 演出:大原拓、深川貴志、小谷高義、新田真三、大嶋慧介 出演:横浜流星、安田顕、小芝風花、高橋克実、渡辺謙 他 プロデューサー:松田恭典、藤原敬久、積田有希 音楽:ジョン・グラム 語り:綾瀬はるか
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