完璧ゆで卵の作り方、科学論文に 伊チーム「従来法は最適ではない」
黄身と白身の仕上がりが完璧な「ゆで卵調理法」を開発したと、イタリアの研究チームが6日、科学誌コミュニケーションズ・エンジニアリングに発表した(https://doi.org/10.1038/s44172-024-00334-w)。調理にやや手間と時間がかかるが、従来の調理法より食感がよく、栄養価も高いという。
熱湯と水、交互に8往復
ナポリ大学のエルネスト・ディマイオ教授らが、流体力学の技術を元に開発したのは「周期的調理法」。100度の熱湯が入った鍋と、30度の水のボウルを用意し、卵を2分ごとに熱湯―水―熱湯―……、と移し替えていく。8往復計32分で最高のゆで卵ができるという。
チームによると、従来の調理法はゆで卵には最適ではなかったという。
長くゆでる「固ゆで卵」は、黄身がパサパサになりがち、短くゆでる「半熟卵」は白身が完全に固まりにくい。60~70度で1時間ゆでる「真空調理」は、白身が完全に固まらず、食感にも課題があった。
黄身はなめらか、白身もしっかり
新しい調理法でつくったゆで卵はどうだったか。研究チームは、舌や鼻で味などを調べる官能検査や、核磁気共鳴(NMR)装置などで分析した。
すると、黄身は滑らかで、固ゆで卵のパサパサ感が減少した。調理中、黄身が一定の約67度に維持されたのが理由とみられる。
白身もしっかり固まっており、真空調理にはない黄身と白身の一体感があったという。黄身は真空調理に、白身は半熟卵に近い特性を示した。
栄養成分を調べると、ポリフェノールや必須アミノ酸の含有量が従来の調理法よりも高かった。熱で損なわれやすい栄養成分が残りやすいようだ。
チームは、やわらかすぎず、固すぎない最適な温度バランスで調理できる完璧な調理法だとしている。
なぜ材料科学者がゆで卵を?
ディマイオさんの専門分野は材料構造。ある日、一流シェフは卵の黄身と白身を分け、別々の温度で調理して、理想的な食感を実現しているという話を聞いたのが、研究のきっかけだったらしい。
「殻を割らず、黄身と白身を最適な温度で調理できるか」という問いは、材料科学にもつながるとディマイオさんは話す。外部から温度を制御し、内部の特定の層だけを高温にしたり、低温にしたりできれば、硬さや結晶化をコントロールする多層材料に応用できるという。
ただ調理法でみると、ゆで卵に32分かけ、何度も移し替えるのは、手間がかかり過ぎではないか。
そう質問すると、「最高の味と栄養を持つゆで卵に時間をかけることは価値があると思う」と答えが返ってきた。実験のため自宅で数百個のゆで卵をつくり、家族に振る舞ったという。
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- 【視点】
研究者とは、まさにこういう人のことを言うのでしょう。完璧なゆで卵をつくるレシピを、専門の材料科学をベースに、数式と流体力学シミュレーションを駆使して設計する。黄身と白身のバランス・固まり具合・栄養価・そして肝心の美味しさを詳細に分析・数値化して、そのすべてを論文に残す。おまけに、得られた調理法は材料工学に広く応用できるといいます。科学と暮らしがつながっています。素晴らしいですね。 しかも、実際の調理手順は100℃と30℃のサイクルを繰り返すだけ。時間と手間はかかりますが、温度計さえ用意すれば誰にでもできそうです。私が一番好きなのは温泉卵ですが、はたしてそれよりも美味しいのでしょうか。とても気になります。週末に試してみます。
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