私の恋愛対象は昔からはっきりしていた。フジテレビの日枝久みたいな、いかつい顔に渋い雰囲気をまとった男性が好きなのだ。友人に言うと「なぜ?」と必ず聞かれるが、説明できるものではない。憧れや安心感、あるいは幼少期の記憶が影響しているのかもしれない。ただ、どれだけ好みを語っても私の恋はなかなか成就しなかった。私はトランスジェンダー女性で、世間的には「男」に分類されることが多かったからだ
ある日、職場の同僚に言われた。彼は筋トレマニアで、いつもプロテインを持ち歩いている。最初は冗談だと思ったが、どうやら本気らしい。曰く、「細身の女より、がっしりした女のほうが年上の渋い男にはウケる」らしい。そんな馬鹿な、と思ったものの、試しにやってみるかという気持ちになった
私はすぐにジムに通い始めた。最初のうちは苦痛でしかなかったが、次第に楽しくなってきた。鏡の前でポージングをするのも習慣になった。思い返せば私は子どもの頃から筋肉質だった。女性らしい身体を作るためにダイエットばかりしていたが、それをやめた途端、ぐんぐん筋肉がついていく
筋トレを始めて半年後、私はジムで一人の男性と知り合った。彼は五十代半ばで、短髪にごつごつした顔立ち、低い声、礼儀正しい物腰——理想そのものだった。最初は軽い会釈程度だったが、トレーニングの合間に会話を交わすようになり、やがて「一緒に食事でもどうですか」と誘われた
レストランで向かい合う彼の姿を見て、私は心の中で小さくガッツポーズをした。ここまで来たのは筋トレのおかげかもしれない。彼は私の腕を見て「すごい筋肉ですね」と言った。その言葉が妙に嬉しかった
それから数回食事を重ね、私は思い切ってカミングアウトした。彼はしばらく考え込んだあと、「そうだったんですね」とだけ言った。気まずい空気が流れるかと思ったが、彼の態度は変わらなかった。「あなたはあなたでしょ」と言ってくれたことが嬉しかった
順調に思えたこの関係は、しかし思わぬ形で崩れた。ある日、彼と歩いていると、向こうからジム仲間の同僚が歩いてきた。彼は私の身体を見て驚いた顔をした。「すごいな、もう完全に仕上がってるじゃん!」と言われ、私は気まずく笑った
その瞬間、彼の表情が曇った。「仕上がってる……?」と小さくつぶやき、それ以降、彼からの連絡はぱったり途絶えた
私はただ「彼の好みの女性」になりたかっただけなのに、結局、どこかで線を引かれてしまうのだと痛感した。私の筋肉が彼の中の「女性」の範疇を超えてしまったのかもしれない。悲しかったが、仕方がない
ジャップの性欲は異常