空の箱

からのはこ

落ちてるボールを拾わせる技術

前編のエントリに結構反響があったので後編を書くことにした。後編は"ボールを拾わせる"視点の話を書く。前編はこちらから。

blog.inorinrinrin.com

後編の本筋を語る前に改めて"落ちてるボール"の意味を定義しておく。"落ちてるボール"とは、

  • 誰かがやらないといけないが、誰も手を付けていない状態のタスク
  • "誰かがやらないといけない"ことを他の関係者も認識している状態

のことを指すものとする。前編ではこれを自分が拾うための技術について書いた。

ところで前編に対する感想やコメントにて「ボールを拾わせるのはマネジメントの技術/マネージャーの素養」という意見を持つ人が散見された。実はこれ、半分正解で半分間違ってると思ってたりする。

なぜなら、ボールを拾うことはマネージャー以外でもできる。拾わせることもまたマネージャー以外でもできるのだ。グラウンドキーパーだけがボールを拾う必要があるか?いやそんなことはない。選手やコーチ、監督だってボールが落ちてるなら拾えばいいのだ。グラウンドという場所に共存している以上それは全員の問題だ。ボールを拾わせるための第一歩はこの認識を関係者みんなで持つことだ*1

ちなみに"落ちてるボール"に対してマネージャーにしかできない仕事は別のところにあると僕は考える。これは最後まで読めば分かるようになっているので、ぜひ最後まで読んでいってほしい。

前置きが長くなった。そろそろ本題に入る。

なぜ人はボールを拾わないのか?

他人にボールを拾わせることについて考える前に、"なぜあの人はボールを拾わないのか?"について考えておく。これは自分自身を俯瞰してみれば分かる。

  • ボールを拾いたくないから
  • ボールを認識できていないから

では、この2パターンに対してどういうアプローチをしていくかを考える。

一度自分が拾って相手に渡す

ボールを拾わせるにはこれが最も簡単で確実な方法だ。

子どもだった頃を思い出してみてほしい。散らかしたおもちゃを手に握らされて「ナイナイしよっか?」と言われたことはないだろうか。あれと同じだ。

…なに?レベルが低い?

その通りだ。落ちてるボールを拾えない人はちいさな子どもと同じなのだ。まずは「今の状況は散らかってる」「散らかってたら"おかたづけ"しないといけないんだ」ってことを認識させる必要がある*2。そして逆に考えてみてほしい。ちいさな子どもがいきなり一人でお片付けできるだろうか? 大抵最初はお父さん・お母さんと一緒にお片付けを始めるものだ*3

一番望ましい形は相手が自発的にボールを拾ってくれることだ。だが今回の前提の2パターンは意識的・無意識的の違いはあれど"ボールを拾わない人"なのだ。自発的に拾えているのならば問題になっていない。であればどうするかというと、まずは受動的でいいのでとにかく拾わせることがスタートラインになる。そして、とにかく拾わせる確実な方法がこれなのだ。

ちなみに前編で"落ちてるボールを拾う技術"だけにフォーカスした理由はここにある。"他人にボールを拾わせる"最も簡単な方法を実行するには、まず自分がボールを拾う必要があるのだ*4

ボールが落ちてることを伝える

次に簡単な方法はこれだ。「"おかたづけ"しないといけない」ということを最低限躾られれば、次のステップでは「散らかってるよ?」と教えてあげればよい。

ただしここで絶対に避けないといけないアンチパターンがある。それは「宿題やったの!?」→「いまやろうと思ってたんだよ!!!!!」パターンだ。

なのでボールが落ちてることを伝える時には、「ボールが落ちてそうだけど、気づいてますか?」という論調で尋ねるのがよい。そしてボールを押し付けない。あくまで拾うように促すのだ。相手が嫌悪感を示したのなら、その場は一旦自分で引き取ろう。そして後でしれっと渡す方向に切り替えればよいのだ。また、この一連の流れから躾具合を測ることができる。

拾った人を評価する

徐々に"ボールを拾う"意識が浸透してきたら仕上げにやるのが評価。つまり、"ごほうび"だ。最も理想的なのはお金の評価に結びつけることだ。世の中には「評価は言葉ではなく金」という名言がある*5

しかしお金で評価をすることが非常に難しいこともある。というかほとんどだ。会社の懐事情が必ずしもあったかいわけではないからだ。これに対して、ボールを拾った人たちのお気持ちに耳を傾ける行事*6は別途必要になる。だが、この話はボールを拾わせることだけに関係するわけではない。よってこのエントリではこれ以上触れないものとする。

ただしお金で評価するのが難しいからといって、言葉で評価しなくていいことにはならない。むしろ言葉での評価はお金があろうとなかろうと絶対に必要なのだ。言葉での評価に関しては、できれば多くの人がいる前で行うのが望ましい。誉めるときは大勢の前・叱るときは1対1でが鉄則だ。ただ一言「xxをしてくれてありがとう」と伝えるだけでも全然違う。少なくとも僕はこれを言われるだけでも、ものすごく嬉しい。人間関係にヒビが入る大抵の場合は、言うべきひとことを伝えずに言うべきでないふたことめを言ったときだ。ひとことでいいから褒める。感謝を伝える。できればマメに!!*7

To Next Stage?

これでボールを拾うこと・拾わせることに関してはひとしきり話した。だが実はまだ次のステップがある。それは"みんなが拾えるボールの数 < 落ちてくるボールの数"な状態になったときどうするか?だ。

この状態に陥ったときの選択肢はいくつかある。「どうすれば拾えるボールの数を増やせるか?」「どうすれば落ちてくるボールの数を減らせるか?」そして「どのボールを拾わないか?(=拾うことを諦めるか?)」などだ。

…ところでこれは誰が方針を決めて指示を出すんだろうか?

そう、これこそがマネージャーという帽子を被っている人の仕事なのだ。つまり、ボールを拾う・拾わせる行為そのものの主体は必ずしもマネージャーでなくてもよい。しかし、ボール拾いを統率し責任を持たなくてはいけないのがマネージャーというわけだ*8

そして「上記の選択肢にどう向き合うか?」は"決断"*9の話になってくる。なぜなら、上記のどの選択肢を選んでも最終的に必要なアクションは"決断"だからだ。これに関しては、そーだいid:Soudaiさんが素晴らしい記事を書いてくださっている。もちろん無料で読める。

soudai.hatenablog.com

あとは桜井政博さん*10の動画も参考になる。

www.youtube.com

www.youtube.com

そして実はもう一つ問題が残っている。マネージャーだけは誰よりも感度高くボールを認識しないといけないという問題だ。いわばマネージャーは火災報知器の役割も兼ねていることになる。これがポンコツだと初期消化が間に合わず、目に見えて炎が燃え盛って初めて事態の深刻さに気づくことになるのだ。ただしこれはボールを拾う・拾わせるとは段違いに難しい。というのは、基本的にボールを拾う・拾わせるのは突き詰めれば「やるか?やらないか?」だけだからだ。一方で火事が起こってるか?起こりそうか?は判断する・しないの2択ではない。判断に知見や経験が必要だからだ。この"ボールを認識する技術"は続編を書きたいなと思う*11

おわりに

「どうすれば拾えるボールの数を増やせるか?」「どうすれば落ちてくるボールの数を減らせるか?」「どのボールを拾わないか?」についても反響があれば続編を書こうと思う。ただ、優れた答えは既にいくつかの書籍としてありそうだ。少なくとも『人月の神話』のような古典的名著*12がある。

そしてここまでの話からさらに"マネジメント手法"の話に派生していきそうな感じがしないだろうか。決断、工数管理、タスク管理、1on1、評価、退職…といろんな枝葉に分かれていきそうだ。

最後は真理をついてると思ったXのポストで締めようと思う。

*1:ただし、これは地味にレベルの高い話だと思う。なので往々にしてマネージャーがボールを拾わせ続けている羽目になり、こういう錯覚に陥る。余談だが、今のチームはマネージャーであろうとなかろうと各々勝手にボールを拾う文化が浸透している。幸せだと思う。

*2:絶望的な気分になるかもしれないが、相手はちいさな子どもなんだ。だからそうカッカするなよ。

*3:なかには最初からお片付けできる"かしこい子"もいるだろう。そう、それが能動的にボールを拾える人だ。ここでは思考の対象外でよい。

*4:ちなみに誰もボールと認識できていないものは拾えない。これは爆発して初めて、いわばマネジメントのバグとして認識される。バグなので、失敗から学ぶしかない。

*5:https://wikiwiki.jp/livejupiter/%E8%AA%A0%E6%84%8F%E3%81%AF%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%8F%E9%87%91%E9%A1%8D

*6:1on1や評価面談

*7:これが下手な人は僕の経験上マネジメント以前にコミュニケーションが下手な人が多い。結婚して特に思うが、これがちゃんとできれば恋愛や夫婦生活も円満にいくんじゃないかと思う。

*8:だから僕は「ボールを拾わせるのはマネジメントの技術/マネージャーの素養」というのは半分正解で半分間違いだと考えている。

*9:ちなみに自分は決断があまり得意ではない。決断が得意な人はすごく尊敬します。

*10:カービィスマブラの生みの親

*11:モチベになるので「読みたい!」って人はブクマやスターをくれると嬉しい。

*12:アメリカでの出版が半世紀前なので、流石に古典としていいよね…?