真昼と志保子が買い物から帰宅する頃には修斗も周を甘やかすような眼差しや仕草から普段の物に戻っていた。
あのまま真昼の前でも子供扱いされるのはたまったものではないのでよかったのだが、ほんの少しだけ名残惜しさもある。
けれど、真昼の前ではしっかりとした男として振る舞いたいので、先程の事はおくびにも出さず落ち着いた表情を心がけて二人を出迎えた。
「おかえり。買い物と話し合いは済んだか」
「もちろんよ。ね、真昼ちゃん」
「……は、はい」
にこやかで堂々とした志保子とは対照的に真昼は何やらもじもじと身を縮めているので、十中八九余計な事を吹き込まれているだろう。
ただそれを聞き出すのは今ではないので、敢えてスルーして荷物を受け取る。
視線で真昼を撫でるように見れば顔を赤らめるので、余計な事を吹き込まれたという疑念が確信に変わるので志保子に呆れた眼差しを向けてしまう。
当の志保子は平然と笑っている。
達成感に満ちた笑みなので、何を吹き込んだのか志保子本人を問い詰めたかった。
「……頼むから、変な事を教えるなよ」
「あらやだ変な事なんて教えてないわよ? ただ、一緒に過ごすにあたって大切な事をアドバイスしただけだもの」
「それは俺達が今後ゆっくり学んでいく事ではなくて?」
「男の子には教えられない事だからいいの。先人の知恵は学んておくべきよ?」
「……それは俺が真昼から聞き出していい事なのか」
「そのうち分かるから問題ないわよ。せかす男はみっともないと思うけど」
そう言われると口を噤まざるを得ない。
真昼も話したがっている訳ではなさそうであるし、女性同士込み入った話があるのも理解しているので、無理に聞くべきではないだろう。
だが、今までの志保子の行動から完全に信頼していいものでもなさそうなので、聞かないにしろ心しておく必要がありそうだった。
にこにこにまにましている志保子に冷めた眼差しを送り、周はスーパーの袋に入った生鮮食品をキッチンに運んで冷蔵庫に詰める。
四人分の食料なのでいつもの倍はある。それがなんだかくすぐったかった。
「……周くんは、気にしてます?」
手洗いを終えた真昼がひょっこりと顔を覗かせるので、周は小さく肩を竦める。
「気にならないと言ったら嘘になるけど、俺は俺で父さんと色々話したしそれを真昼に教える気はまだないからおあいこだな」
「えっ、な、何を話したのですか?」
「ひみつ」
いつも真昼がしてくるようにいたずらっぽく笑って野菜を野菜室に放り込む周に、真昼はそわそわとしながら周の背中をぽすぽすと叩くので、つい笑う。
『――まあ、周が真昼ちゃんにあげたい物についてはこちらは口出ししないからね?』
散々頭を撫でられた後、言われた言葉。
流石にそこまで周も親に頼るつもりはないので、バイトをして軍資金を用意するつもりだ。受験についても手を抜くつもりはないので、両立出来るように一層頑張らなければならないだろう。
(……木戸に頼る事になりそうだなあ)
以前冗談半分だったかもしれないがバイトのお誘いがあったので、それに乗るのがよさそうだろう。接客業はあまり得意でないのだが、社会経験を積むといった意味でも丁度いい。
これから色々と努力しないとならない事が増えるな、としみじみ頷いた周を真昼が落ち着かない様子で見上げる。
そんな真昼に笑って「内緒だ」ともう一度告げ、上機嫌に野菜室の戸を閉めた。
2巻につきましてですが既に予約が始まっているところもあるのでよろしければどうぞ。
あと学生さんのお休み期間中は頑張って更新する……つもりです。(出来るとは言ってない)