12月15日:タクティカルエンカウント
「ギィララララララララララッ!!!」
無防備な刃の竜……否、アナウンスに偽りなければ第十の真なる竜種「トマホーク」の背中に爆炎が炸裂する。さらに左右からぐらつくトマホークへとサバイバアルとウル・イディムが肉薄。攻撃を仕掛け………何っ
「怯んでねーぞ!!」
あれ食らってちょっとよろめいただけか。だが俺の言葉は確かに届いた、その上で二人はさらに前へと踏み出す。
トマホークの首がウル・イディムへと向き、その巨体を比較的脅威度の高い方へと向けようとした瞬間……
ガンゴンッッ!!
遠方より二度の銃声、そして一瞬の間を置いて飛来した二発の銃弾がトマホークの顔面に痛烈な一撃を炸裂させた。振り向いた瞬間にビンタされたようなものだ、トマホークの顔は不自然な動きで弾かれるが……それだけだ。
だがその一瞬があれば、既に射程距離まで踏み込んでいた二人の攻撃が叩き込まれるには充分すぎる隙となる。
「おおおおおおおおっ!!」
「ヌゥゥゥアアッ!!」
ウル・イディムの鉄拳がトマホークの右膝に、サバイバアルの大鉄鞭がトマホークの左脛に叩き込まれた。ただのスイングじゃない、事前にこのメンバーでかけうるバフの悉くを付与した会心の一打だ……だが、
「硬え! やべーぞこいつ! マジで手応えが薄い!!」
「グ……」
分かっちゃいたが……硬い!! 攻撃が無効化されるよりもタチが悪い、ただただシンプルに高過ぎるVIT、硬過ぎる甲殻!!
五人分の奇襲を受けたにも関わらず、全く堪えた様子のないトマホークが無造作に腕を振るう。やはり狙われたのはウル・イディム氏、「刻傷」は戦闘中のヘイトにも若干影響していたはずだが、それを上回る脅威を感じ取っているってことか。
だが泣けるぜ、せっかく目の前で見せてやったのに……
「刃点火!」
MPを種火に、アラドヴァルへと火を灯す。ただの炎じゃない、この灼熱は竜を屠る!!
「特効スラッシュ!!」
アラドヴァルが新たに獲得した能力「焔爆」はクリティカルを意図的に外さないとパラメータが蓄積されない。随分とまた面倒な効果になっちまったが、既に俺はこの問題を解決している。
くくくくく……これぞキャッツェリアで買い占めた「なまくらの松脂」! 武器に塗りたくることで二つの効果を得る!!
一つはクリティカル成功率の極端な低下。具体的に言うと俺が真面目にスイングしてクリティカルに失敗した……小数点以下の確率ってやつだな。
そしてもう一つは……
「焼いて! 灼く!!」
攻撃時、松脂が発火し燃え上がる!!
竜を灼くアラドヴァルの炎と、なまくら松脂の燃焼。二つの炎を鈍い斬撃に変えてトマホークの脛を斬る。手応えに妙を感じる、弾かれたわけではない。だがこの、タールか何かに棒を叩きつけたような、めり込む感触は……
「オッケェェェェェェ!!!」
答えは傷口を見ればすぐに分かった。アラドヴァルの刃はトマホークの外殻をほんの僅かに焼き溶かしている! いいねいいねいいね! 俺は今"アドバンテージ"をその手に握っている!!
「百万回斬ってお造りにしてやるよ!!」
非クリティカルな攻撃、故に「焔爆」が蓄積されていく。そして「焔爆」が蓄積される事で第三の能力……「焔爆」の蓄積に比例してアラドヴァル自身の性能を上げる「焔研」の期待値が上がっていく。
なまくらの竜殺しを振るう度、トマホークの刃の外殻に溶断の跡が刻まれる。ここでようやっと一番雑魚そうな虫けらが持つ剣こそが最も危険なのだと気付いたらしい。体格差を十全に活かしたタックルを仕掛けてきたが……遅すぎる。
そしてこれはパーティ戦だ、俺一人を注視していれば当然……
「ウル・イディム! 合わせろ!!」
「承知シタ」
二足歩行の宿命、それは身体を支え立つという重要な役割をたった二本の脚に依存するということ。
俺を真正面に見据えた事でフリーになったウル・イディムとサバイバアルがトマホークの足元、さらに言うなら足首の辺りに駆け込む。
次の瞬間発砲音、放たれた弾丸は真っ直ぐトマホークの横っ面に命中………しかし、今度は弾かれない。
ベチャ!!
「ギリリリリリ!!?」
トマホークの顔半分を覆った粘着質なトリモチ、それは鬱陶しさ以上に視界の半減というある種致命的な隙を作り出す。そして反射的にトリモチ弾が飛んできた方向に身体を向けた瞬間……
「コケやがれ!!」
トマホークの両足首に別々の方向へとかかる強い衝撃。本能的な攻勢に転じた足腰は踏ん張りに欠け、そして二足歩行の宿命はドラゴンといえど逃れられない───
「サバイバアル!!」
「応!!」
仰向けにバランスを崩すトマホーク、その足元で大鉄鞭をホームランスイングしていたサバイバアルが丸太を担ぐような姿勢でこちらに背を向ける。そこに駆け出した俺は跳躍、そして鉄鞭の上へと着地………行くぜ人力カタパルト!!
「おおおおらぁっ!!」
人力かつ強引な二段ジャンプによって高らかに跳び上がった俺はさらにそこから空中ジャンプで高度を稼ぐ。
眼下にトマホーク、塞がれていない方の目で俺を睨んでいるのが見える。だがどこからか投擲された噴進機付加速打撃装置がドラゴンの下顎に命中……ナイスだサイナ。打撃は顎か側頭部、鳩尾を狙えと教えた甲斐があった……最近はシャイニングウィザードを教えている。
跳躍による重力への反逆の時間が終わり、身体が大地へと落ちていく。だがその最中、どこからか吹いてきた風が俺の身体を包み込み、さらに真下で青天井にひっくり返ったトマホークの全身に蜘蛛の巣を思わせる魔力の線陣が刃の竜を大地に縫い留める。
快調! 順調! 絶好調!! 理想的なムーブだ、既に大きな隙を晒したトマホークへとそれぞれが大火力を叩き込む用意を済ませている。そして俺も、カローシスが付与した落下衝撃軽減の【エア・クッション】の上位魔法【フォール・オン・ウィンド】によって落下死の危険を気にせずアラドヴァルを構えてトマホークの胸部へと飛び込む。
「焔爆!!」
なまくら松脂の効果は消えた、ならばアラドヴァルは真の切れ味を取り戻す……漆黒の刀身は真紅に燃え上がり、熱き蒼炎に輝いている!!
「あわよくば心臓に刺され!!」
ミニガンが、鉄拳が、魔法が、方天画戟が、そして竜殺しの鋒が……その全てがトマホークというドラゴンを打ち砕くべく叩き込まれる!!
このまま動きを止めて一斉攻撃を繰り返して──────
「緊急:異常反応。契約者……失礼」
「おごっ」
ちょっ、サイナいきなり人を猫みたいに掴んで何を……!
その時、気づいた。
トマホークの胸部に突き立てられたアラドヴァルが、尋常ではない勢いでバイブレーションしている事に。少なくともあんな振動する効果はアラドヴァルにはない、であればこれは……
「全員離れろっ!!」
俺の声は果たして他の連中に届いたのか。もはや隠す事なく凄まじい振動を上げるトマホークの身体から衝撃波が放たれ、首根っこを掴まれた俺と掴んでいるサイナは共に吹っ飛ばされたのだった。
超音波動
トマホークの刃殻は厳密には皮膚や甲殻ではなく筋肉に近い役割を持ち、全身の刃殻を異常振動させることで周辺空間のマナ粒子を誘引付着、一気に解放して広範囲に衝撃波を放つ。