12月15日:斬痕を見ゆ
ベアトリクス引きましたベアトリクス引きましたベアトリクス引きましたベアトリクス引きました(素振り)
気づけば日も跨ぎ、15日……現在時刻三時二十七分!
誰だよシャンフロ世界は実際の距離より短いとか言ったやつ、まだ高原とやらに辿り着かないんだが?
「いや原因は距離じゃないけど……さっ!」
飛びかかってきた羊モンスターの顔面に回し蹴りを叩き込みつつ、弾丸を叩き込む。視線を向ければ、カローシスUQが例のリートゥス? なる魔法剣とはまた別の武器で応戦している。まぁ流石にここでフル火力はな……
「このっ、スケープゴートってそういう意味じゃねーだろ……っ!!」
「ヌゥン!」
ウル・イディム氏の剛腕が三体の羊モンスターを吹っ飛ばしている。このダイナマイト・バイオレンス・オークさんが活躍すると俺たちへの報酬リソースがゴリゴリ削れるのだが、流石に今ウル・イディム氏の活躍に文句を言う者はいない。
刃の竜がいるとされる高原への道のりそのものは別に迷路だとか悪路だというわけではない。だが……モンスターエンカウント率が異常に高いのだ。刻傷の効果はパーティメンバーの数とは無関係なので発動しているはず、つまり俺のレベル以下のレベルを持つモンスターは俺との戦闘を避け、逆に俺のレベル以上の強さを持つモンスターは寄ってくる「雑魚避け」効果は適用されているはず……
「にしてもエンカ率! なんだこのクソインフレエンカは!!」
「オイオイオイヤシロバード! 羊毛を燃やしてんじゃねぇよ! ぶっ飛ばすぞ!!」
「御所望の羊毛はもう飽きるくらい集まっただろう!? もう面倒だから全部燃やしたほうが早い!!」
「バッキャロー! ティーアスたんの新衣装にまだまだ使うかもしれねぇだろうが!! バリカン使えバリカン!!」
デッドオアハゲ、生命かアイデンティティのどちらかを失う岐路に立たされた羊……ムスタンピード・シープの大群は死ぬかハゲるかならお前らを殺す、と言わんばかりにこちらへと突っ込んでくる。闘牛を思わせる体躯の突進を敢行するその姿は、フワフワした羊毛による可愛さポイントを塗り潰すデンジャーモンスターだ。つーか数、数がヤバい。味方同士で激突してもすぐに突進再開するのはヤバいぜ。
まぁ、サバイバアルが「せめて羊毛だけでも!」と泣きついたせいでこんなに追い詰められてるだけで、燃やせば個体同士が衝突して勝手に延焼していくんだが。
「ディプスロ」
「はぁい」
「殺れ」
「ごめんねぇサバイバアル君。【ゲヘナブレイズ】」
「グワーッ! ルティアたんモコモコ毛糸ニットがーっ!!」
「確認:焼却完了」
羊毛は手に入らないがジンギスカンは出来た。都合よく塩胡椒の味がついてるわけがないので、新鮮な肉の食感がするティッシュみたいな焼きムスタンピード・シープ肉をガジガジ食い千切って空腹度を回復する。
「これで終わりか……」
「計測:総戦闘数68体。征服人形が収集した情報を参照しましたが、ムスタンピード・シープの生態とは異なる動きが確認されました」
「本来はあんなに群れないとかです?」
「否定:ムスタンピード・シープ本来の挙動はリーダー個体によって統率された集団突撃を多用する傾向にあります」
………いやそれ、本来の動きの方が危険じゃないか? 今回は全個体が好き勝手に突撃してくるランダム性は脅威だったが統率とは程遠い暴走といった趣だった。何せ味方同士で激突して勝手に自滅するからな……バカだなぁとは思ってたがレア行動だったのか……ん?
「誰かリーダーっぽい個体見かけたか?」
「見た限り、同じような個体ばかりだったねぇ……」
リーダーがいない群れ? 魚や虫ならともかく、獣系なら大抵ボスがいるもんだと思うが……というか、
「さっきからそんな感じの変な個体ばかりですよね?」
「そうだねカローシスさん。メスしかいないライオンの群れとか最初から満身創痍のサイとか……」
「…………もしかしなくてもこれ、」
「ぜぇーんぶ、なにかに本来の形を崩されて逃げてきた、とかぁ……?」
群れのリーダーがいない羊。消耗した様子のメスだけのライオンの群れ、そして全身に切傷を負ったサイ………うーん、もうほぼ確定と見ていいんだろうが。
「おうお前らー! これ見てみろよ!」
つまらんもんだったら根性焼きだぞ。そんな漆黒の決意を抱きながらサバイバアルが示す場所を見てみると、どうやら奴は根性焼きを回避できたようだ。
それはなんというか、言ってしまえば「亀裂」だった。モンスターラッシュで歩みが遅くなったとはいえ、確かに高原に近づいているのか緑の割合が増えてかろうじて草原と呼べなくもない地面に刻まれた2メートルほどの亀裂。
だがそもそも平原にそんなピンポイントな亀裂が生じるものだろうか。そして何よりこの亀裂、恐ろしく綺麗すぎる。
「誰かさっきの羊戦で地面斬ったやついるか?」
返答は無し、ウル・イディム氏も含めて心当たりは無し、と……あの羊共にこんな斬撃性能は無かった。
「……凄いな、断面がツルツルしてる。ただ斬っただけじゃなさそうだ」
「多分これ斬撃自体に相当な圧力がある感じですね。切り裂きながら圧し固めたというか……」
「食らったら鎧ガチガチのタンクでも三枚おろしになりそうだ」
試しに腕を突っ込んでみたが、「サンラク」の腕が肩のところまで入ってしまう深さ。それに、端から半円を描いてだんだん深くなっていく……真っ直ぐな直線の中間が一番深い。
「サンラク君の腕が割れ目に!? そんなのもうフィストファッ」
「ディプスロ、三十回回ってワンと鳴け」
ニヤケ面がトリプルアクセル×10をし始めたのを他所に、亀裂の形状から俺はある推測を立てる。
「この亀裂……何か鋭利なもので斬ったのは確かだけど、大上段から叩きつけたんじゃなくてこう……」
俺はアラドヴァルを逆手で握って、そのまま地面を引っ掻くように後ろから前へと腕をスイングする。
「……いう感じで振り抜いたんじゃね?」
「流石にドラゴンが剣を握ってるたぁ考えづれぇ。となると、腕から突起が肘方向に出てるのか?」
「いや、もしかして二足歩行なんじゃないのかな? 四足歩行でこの動きは無理がある」
「いえ、逆に脚そのものが刃物の形状をしていて地面を蹴ったという可能性はどうです? この仮説だと脚が一本だけ刃物ってことになりますが」
俺達が真面目に対ドラゴン談義を行なっているとついに頭がおかしくなったのだろう、その場で三十回転していたディプスロがフラフラしながら俺に向かって一言。
「わんっ!!」
「伏せ」
「わんっ!!!!」
尻を向けるな尻を、躾がなってないぞこの駄犬。
真なる竜現れし時、平穏は乱れ獣は恐怖に荒ぶる
〜竜人族のとある部落に代々伝わる竜狩り伝説の一節〜
お知らせ
来たる3月17日、コミカライズ版シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~の三巻が発売します
もう公表されたので硬梨菜も硬く閉じたロンズデーライトな口を開きますが、あの作品とのコラボがあります
そう、小説家になろうを利用しているユーザーなら一度は見たことある累計ランキングの頂点に君臨するあの作品です
こんなんWeb版の時点で戦車と拳銃くらい戦闘力の差があるじゃん……もうダメだ、おしまいだぁ……
そんなティーガーもとい「転生したらスライムだった件」コミック十七巻は3月31日発売です、今からでも遅くない!全巻買おう!
そして向こうが戦車なら私は大砲よ、もといこちらには大魔導師不二先生がついているのでシャンフロ三巻もよろしくお願いします