学術論文は、発見や技術開発の成果を世に送り出すという重要な役割を担う。「フェイク論文」が横行すれば、学問の健全な発展を損なうだけでなく、暮らしにも影響を及ぼしかねない。
環境分野の学術誌に、生成AI(人工知能)によって捏造(ねつぞう)された論文が掲載されていた。2023年以降、少なくとも日本人3人を含む実在する研究者の名前が、著者として無断で使われていた。
掲載論文の質の低さが問題となっている「ハゲタカジャーナル」の一つだ。著名研究者が書いたかのように装うことで、学術誌としての権威を高めようとする狙いがあったとみられる。
背景には近年、新興国を中心に研究者が急増し、学術誌としての需要が高まっている事情がある。種類が増え、生き残り競争が激しくなっている。
論文投稿は通常、内容が妥当かどうかをチェックする「査読」という過程を経るため、掲載までに時間がかかる。これに対し、ハゲタカ誌は掲載料さえ払えば、投稿からわずか数日で了承される。
質が十分保証されていないハゲタカ誌がなくならないのは、研究資金や地位を得るために、手っ取り早く論文を掲載したいという研究者側の思惑もあるためだ。
研究者の評価は、執筆した論文数や引用件数、掲載された学術誌の種類などで決まる。激しい国際競争を強いられる中、短期間で業績を上げなければ研究者としての道を断たれかねない。
学術誌に掲載された論文は信頼度が高いと受け止められ、参考文献として引用される。粗悪な論文が掲載されれば、将来の研究を誤った方向に導く可能性がある。
デジタル化が進んだ現代では、論文の内容は瞬時に世界へ広がる。健康食品や工業製品の宣伝などにも利用されており、思わぬ被害を出す恐れもある。
発表論文の質より数を重視することは、ハゲタカ誌の生き残りに手を貸すことにつながる。研究者の評価手法が適切か検討することも欠かせない。
学会や大学・研究機関は、教職員らへの注意喚起や指導を徹底することが重要だ。そうした取り組みが、学術界の信頼や研究者の名誉を守ることにもつながる。