12月14日:即死呪文
そもそも「サミットに参加しろ」しか説明受けてないんだよね、いや本当そもそもの話。
ただヴァッシュからの指令ということはつまりユニークシナリオEXの達成目標ってことだ、そもそも無視する選択肢は最初から無かった。つまりここに来るまでは確定路線、そしてここからは完全にアドリブってわけだ。
「で、私達はここからどこに案内されてるのぉ?」
「うむ! ヴァイスアッシュ殿から話は伺っている! 貴公らも来賓待遇にせよ、が我らが王ニャイよりの言付けだ!」
ニャイ……あー、あの招き猫。いつだったか、宝石匠の猫がネコババした時に詫びに来ていたコッテコテの猫的口調の招き猫みたいな感じのケット・シー。あれはどちらかというと俺に対する謝罪じゃなくてヴァッシュに対する不義理の謝罪っぽかったが……
「ていうか俺ら、ここで何するかとか聞いても?」
「む? 傍聴席に案内するようにと言われているが」
傍聴席? 何か聞くのか? いや、多種族サミットの内容なんだろうけど………
「それって後ろのこいつらも参加OK?」
「問題はないだろうな! どちらにせよ、波濤を超えて来た貴公ら人種も無関係ではないのだから!」
「だってよ、世界の真実に一歩踏み込む気持ちを一言で各々どうぞ」
「へー」
「サミットってことは何徹必要です?」
「さすがに銃器は売ってないか」
「猫の舌ってすごくザラザラしてるからなめた時凄そうじゃない?」
「よーしケツ出せ」
「突く方向でお願いします! 欲を言えば前後運動!!」
「打撃方向ォ!!」
「あはぁん!!」
答えは「打」であった。非展開状態の百足式8-0.5でケツバットされたディプスロを他所に、俺たちはこのキャッツェリアにおいて二番目にでかい(一番目は当然今はるか頭上で欠伸をしている牛君である)もの……すなわち、このキャッツェリアという国の城へと向かっているのだった。
……
…………
さて、猫の国と侮ってはいけない。そもそも兎の国の文化水準からしてアレである。なんなら新大陸の亜人種より文明レベルが高い疑惑があるのだ、というわけで最初から見えていたわけだがヨーロピアンな風情漂う城へと入った俺たちは、客室の一つへと案内されたわけだが。
「これ、表の城も厳密には城じゃないんだねぇ」
「なんつーか、逆張りぼてというか……」
「この空間で火ィつけていいのか? 窒息しねぇか?」
サバイバアルの懸念も一理ある。なぜならこの城……入って分かった。これ建築物じゃねぇ、峡谷の壁面を城の外観に掘って、その上で峡谷を掘った空間なんだここ。ヨーロッパ風の城っつーかエジプト系の遺跡だぜこんなの。ていうか狛犬とかスフィンクスっぽい感じで鎮座するバカでかい猫の石像とかもあったし。
「まぁ、ベッドまで岩じゃなくてよかったね」
「ベッドは大事ですよ、徹夜は上質な睡眠あってこそですから。まぁいつもは会社の椅子で寝てるんですけどねハハハ」
一瞬沈黙。ここでこの空気を持続させる危険性を悟ったディープスローターがそっと親指と人差し指で作った輪に人差し指を前後運動させ始めたのでちょっとだけ手心を加えつつケツバット。
「おまえまじでいいかげんにしろよー」
「うふふー、ごめーん。でも息ピッタリだからつまりそれは体の相性が最高と───」
本気ケツバット。
「お゛っ゛」
なんならスキルも使った加速ケツバットだ。
「なぁサンラク」
「なんだよ」
「段々そういうプレイに見えてくるぞそれ」
「……………………じゃあ、どうしろと?」
「すげぇ切実な声出たな……」
根性焼きももう効果なくなってきたし……ていうか、最近こいつリジェネかけてから下ネタ言ってるらしくて何もしなくても体力が回復し続けてるんだよ………
「まぁ、なんだ。寛容な心である程度受け入れたらどうだ?」
「そうそう、もう楽になっちゃいなよぉ………」
百足式8-0.5を握る手に力が入ったものの、なるほど確かにサバイバアルの言葉にも一理あるかもしれない。受け入れる、というか別方向からの迎撃………
「おいちょっと後ろ向け」
「またぁ? もう、旺盛なんだから……」
ニマニマしながら後ろを向いたディープスローターに足音を立てずに近づき、顔をその耳元に近づけ……
喰らえ、岩巻さん直伝「どの乙女ゲーでも毎回このシチュエーションに遭遇してきたのでぶっちゃけ最近は何の感動も得られなくなってきたけどそれはそれとして初見だったらまぁまぁ破壊力高いよね後ろから耳元で呟くタイプのウィスパーボイス」! ラブクロック鬼周回してる時、ヒロインの一人が後ろから声をかけてきた瞬間走りださないとピザエンドになるので俺もその気持ちちょっと分かります!!
「───悪い子だ。そんなに俺を困らせたいのか? 仔猫ちゃん」
「んに゛ッ」
ディープスローターの身体が一瞬なんかバグったのかと錯覚するような硬直、そしてふらふらと千鳥足でベッドへと歩いていくと、ぱたんと倒れて動かなくなった。
「なるほどサバイバアル、こういうことか!」
「いやそういう意味じゃねぇ」
サンラク は 新技 を 習得 した !
何度かメイド服を着たケット・シーが部屋にドリンクを持ってきたりもしたが、本題とでも言うべきNPCがやってきたのはこの手のゲームとしては暴挙としか言いようのない30分後のことであった。いやマジで長時間待たせるとかオフゲーだったら許されざる所業だぞ……ていうかオンゲーでもちょっとアウト寄りだろ。
「待たせたな貴公ら!会談が始まるので傍聴席にご案内しよう!」
「だってさ」
「暇すぎてマジ寝するところだったぜ」
「さすがにこの歳になってしりとりで時間潰すことになるとは……」
「一人しりとりするよりはマシじゃないかなヤシロバードさん」
「そもそも選択肢として一人しりとりが出ることがヤバいよ」
「いつまで寝てんだ、起きろディープスローター」
びくん! と痙攣したので屍ではないらしい。
まさか自分でサンラクの声まねして自分でキレてたボイスを本人が不意打ちでやってくるとは思っていなかったので混乱しつつずっと記憶の反芻と補強をしていた女
なお常識人みたいなフリしてるけど不意打ちで小悪魔的なボイスを食らって性癖を歪ませた奴としりとりしながら突然ドアを蹴破って銃で武装した集団が突入してきた場合のシミュレーションをしていた奴と複数人でするしりとりの方が一人でするしりとりより楽しいことに久しぶりに気づいた奴なので基本的にへんなのしかいない空間