「研究者になりたい人いますか?」コロナで実績挙げた有名ラボの科学者、出前授業で問いかける思い #災害に備える
有名ラボでも例外なし 研究の空白は国の科学力進歩の障害になる
佐藤さんいわく、どこも日本人研究者不足は深刻らしく、九州のある大学の知り合いの研究室には、日本人は一人もいない。佐藤研でもよく似た状況だと打ち明けると、「えっ、佐藤先生のところでも?」と驚かれた。佐藤さんが主宰する、大学の垣根を越えた共同研究組織(コンソーシアム)「G2P-Japan」は、コロナ禍で世界的に大きな実績を残し、学界で名が知られているからだ。 このコンソーシアムは、新型コロナが猛威をふるっていた2021年1月、「何かできることはないか」という共通の思い・矜恃を持った若手のウイルス研究者によって結成された集団だ。基礎から臨床まで、最大約100人集まった研究者たちが、未知のウイルスに新たな知見を加えていった。 例えば、2021年に爆発的に広がったデルタ株が強い病原性を持つことをいち早く確認し、発表。さらに、同年12月ごろから感染が広がり始めたオミクロン株は、病原性は以前のものより高くないが、免疫機構から逃避する能力に優れ、ワクチン2回では予防できない、あるいは治療薬ロナプリーブは効かないことを突き止め、発表した。テレビやネット経由で何げなく見聞きしていた情報には、「G2P-Japan」のメンバーが実験により解明したものが含まれていたのだ。一般の人たちが変異株に冷静に対処するための材料を提供してくれていたわけだ。 論文は質の高さが評価され、「ネイチャー」「セル」「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」といった世界でトップレベルの学術雑誌に相次いで掲載された。これだけのラボでも、後継者がいなくなれば蓄積は途絶えてしまう。留学生が日本に残る可能性はあるが、保証の限りではない。 「医科研OBで、上海科技大学免疫化学研究所教授を務める御子柴克彦さんが興味深いことを言っていました。中国が人材育成にお金をかけるのはなぜか。理由は文化大革命のとき、反エリート教育で中断され研究や学問に空白が生じたからだと。その影響が長く科学の進歩の障害となった。その怖さを知っていて、過去の経験を未来に活かしているのだ、と」 佐藤さんは、パンデミックになるかどうかまではわからないが、新たな感染症は今後もほぼ100%出現するだろう、と言う。振り返ってみれば、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したのが2002年、MERS(中東呼吸器症候群)が2012年、新型コロナが2020年……。ほぼ10年ごとに大きな感染症が現れている。 「日本の悪い癖は、コロナが終わったら“なかったことにする”こと。この経験を未来にどう活かすかを考えていないんです。香港では、1998年の鳥インフルエンザや2002年のSARSの経験を未来に活かすために、香港大学に公衆衛生から基礎ウイルス学、免疫学など各分野のエキスパートを集めて、感染症研究・対策の拠点にすることを試み、それに成功した。だから、新型コロナウイルスのパンデミックの時にも、世界で中心的な役割を果たすことができた。このままでは日本は世界から取り残されてしまいます」