研究ブログ

社会システムは「崩壊」しない

 書店を覗くのが趣味であるが,ビジネス書の類はあまり読まないようにしている。人生論や組織論には基本興味がない。生身の人間がぶつかり合った記録,特に政治に関するルポルタージュ物は大好きで,さいとうたかをが漫画化した「小説吉田学校」は全巻コンプリート,読売新聞から単行本が出る毎に買って読んでいた。常に権力の中枢を担ってきた与党の権力争いは非常に興味深い人間ドラマに満ちていて,示唆に富んだ出来事が次々に起きる。何より,日本という国が続いている限り,日本政府は存続し,その機能を担っている官僚組織も,変わることはあっても消え去ることはない。総理大臣は嫌になったら「いち抜ぅけた!」などと気楽に辞められるが,それは政府を束ねる要の顔が変わるだけのこと。内閣は崩壊なんかしやしないのである。存続を前提とした権力機構を巡る人間臭いドラマは誠に面白い読物であり,故に野党のお利口さん的批判は,権力を担っていない分,正しいが故につまらない空疎なアピールに終わってしまうのであろう。
 翻って,社会組織が「崩壊」するだのという言説が昨今はやっているが,人間がそこにいる限りは組織や制度は変わることはあっても崩壊なんかしないのである。「崩壊して欲しい」,「崩壊させたい」という願望はあるのだろうが,その社会組織を担っている当事者にしてみれば「So what?」である。人が消え去れば,組織や制度は消える,そうでなければそのまま存続するか変わるだけだ。故に私は「崩壊」を言いたがる輩を一切信用しないことにしている。変化のためにする有用な提言以外は聞く耳を持つ必要はないと,この先が見えている残り少ない現役生活を有効活用すべく,馬耳東風的態度を身に付けようと目下努力しているのである。