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24−4



 話を戻し、ここはレベル100越えダンジョンである【境界の森】の休憩エリア。


「それで、えぇっと、魔王さま…?」

「うん」

「前世…?が、大賢者アリアスさん?」

「あぁ」

「さらに前世?が、魔王クルーデーリスさん…?」


 こちらからの問いに頷き、レックスさんはご満悦顔だ。


「その〜……“今の時代”から魔王の文字を消すために、アリアスと名乗った貴方は世界各地を“巡業”しながら、実は文献を焼き払っていたという……?だから、この時代に“魔王”という言葉が無くて…その、魔種の王だから魔王の名に行き着いた私のことが気になったので、たまに会えていたのは、実は探りに来ていた…という訳ですか?」

「そうだな。まぁ、始めの方はな。パシーヴァの事もあった。アレは二千年ほど前に、エル・フィオーネと共にエディアナに繋いだ筈だったから。エルも自由になったんだろうと当たりをつけていた」


 対して、トゥルリス・ポーダの出会いは、偶然みたいなものだったな。

 と、レックスさんは続けて語り。


「だが、俺はあの場所に“必要な存在”だっただろう?精霊王が笑っていたんだ。そのくらい、あの組み合わせは“なかなか見られぬ和合”だったのさ。運命の神(デュスティス)の巡り合わせ、というやつだろうな。あいつ…東の勇者が装備していた魔竜の腕輪は、過去、鍛冶職を極めた際に俺が作ったものだったから…本来の魔剣の力を発動させる呼び水としても、俺が必要だったんだ。まぁ、あいつなら二度目は覚えたコツでどうにかするだろう。資質は充分あるからな」


 と。さらりと濃いぃ話を零す。

 無論。


「えっ、エルさんを繋いだのってアリアスさん!?」


 とか。


「しかも勇者様のあの腕輪!!魔王様が作ったもの!?」


 とか。

 他にもいろいろ吃驚話が静かな口から漏れた訳だが、つい人前を忘れてしまい心の声が露見した。

 だが、彼は普通に受け止め。


「五公の名を知っているか?」


 と、カップのお茶を口に含んだ。

 私は飲み下すその間を貰い。


「あ、いえ、私はエルさんとイルさんくらいしか…」


 あれは確か、ファントム・タウンで。吸血種の青年?と、一緒にお会いしましたよね?と。

 レックスさんは一つ頷き。


「あの時代、文明の大崩壊を受けた後、千年には満たないが、その位は経っていた。元々、魔種は“終わりの魔物”だ。魔王が世界を壊すために組み込まれた存在ならば、魔種はそれを補うための僕(しもべ)達。基本的に戦闘や破壊を好む。文明が後退し過ぎて飽いていたんだ。相手をしてくれるなら俺でも構わない、とな。イル・クオーレだけが逃げ果せたが、アル・ケイオスはイグニア渓谷に。ウル・ハルトはタタラ砂漠に。オル・タナスはリセルティアの地下へと埋めた。冷静に分析すれば、何れの枷も嫌になったら千切れる程度の戒めでしかなかったからな。……最近リセルティアで真のアリアス信仰が起きたのは、大方オルの仕業だろう。あの教団も、いつか使ってみたい」


 アルさんとウルさんは想像もつかないが、オルさんっぽいお話をつい先日聞いていたために。


——え。リ、リセルティア…?え…まさか、あの街に……あの街の土の下とかに、五公ともあろうお方が実は潜んでいたというの………?


 と。大粒の汗が流れる感覚。

 そして、異教の神殿で領主様が零した言葉……女である事が残念でならない、って。あれはそういう…?そういう意味なの??秘密結社の入団試験な何かがあったという話……?と。


——女子禁制か。うわぁ、本気で女で良かった。秘密結社怖い、怖い。


 と、心の中でガクブルだ。

 レックスさんはそんな私に一瞬「ふ」と笑みを向けると。


「魔竜の腕輪に関しては、遊びの一環だ。過去、様々な職業を体験してきたが、まぁ、職を極めれば自分にしか出来ない事をしてみたくなるだろう?それで、その時もアル・ケイオスとは皮を賭けて戦った。基本、俺は優しいからな。アルが竜化した時にしか拝む事はできないが、丁度尻の辺りから円形に皮を剥がせてもらった。大ダメージを与えるならば、そこを狙えば確実だな」


 そうして再びクツクツ笑う。

 目の前の魔王な人は、牛乳紅茶(ミルクティー)色も健在で、口ぶりもそのままだけど。なんとなくレックスさんがレックスさんじゃなくなったようで、どこか一抹の寂しさをぼんやり感じていたのだが。


「じゃあ、今生の“レックス”さんは、どんなスタンスなんですか?」


 と。

 もし、これが死亡フラグなら、出来る限りは聞いておきたい。

 そんな大それた欲求がフと首を擡げ始めた。


「そうだなぁ」


 彼は前置き、思案する様子を見せて。


「ただの遊び人、だな」


 と。


「あれだけの文明を壊し、この時代を導いたんだ。少し、休息が必要だろう?———だから、魔王は一度眠った。今生は、眠れる王(ドルミール・レックス)だ。魔法発動の適正を持たず、ただ物理攻撃のみで、冒険者ギルドなる組合を登り詰めるため。純粋に、この世界を、神々が創りたもうた“ダンジョン”を楽しむために。そのためには、できるだけ困難である方が良い。努力のしがいがあるからな。だが、何の能力も持たずにやるのはつまらない。アリアスの塔に挑んで得たとベルには伝えたが、本人なんだ、まぁ、似たようなものだろう。大賢者(それ)を辞める時、唯一引き継いだのが“ステータスの可視化能力”だ」


 “レックス”は一度、アリアスで得た能力、レベルはもちろん、その他、勇者から奪った特殊スキル諸々を、真っ新な状態にして【種族:人】として歩み始めた。


「だが、望むような成長を果たすには、ステータスの地(ベース)を固める必要がある。賢者が死んでおよそ千年。全てとは言わないが、そのくらいは費やした。おかげで、五公とタメを張れる程度には、頑丈な体だよ」


 言い終えて、ニッと笑ったレックスさんは、これまで目にした事が無いほど嬉しそうな様相で。

 なるほど、そう言われてみれば、ドルミールとは「眠る」とか「眠りの」とかの意味があったな、と。前世の言語と似たような、発音と意味を持つ言葉がこの世にあるのか———と。そう簡単に得心をした私がさりげにお茶を汲む。


「ストイックですね」


 ややあって、口をついて出たその言葉。


「土台作りに千年近く時間を費やすなんてこと……普通の人には出来ませんって」


 一応、魔王な彼というのも“魔人”の括りである訳で。しかし、普通の魔人ではない訳なんだけど…とも。


「でも…取りようによってはアレか。凄く、贅沢な………」


 言いかけて。

 ふと、彼が零したセリフが、脳裏を過っていったのである。

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