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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
23 小都市リセルティア
243/267

23−10



——ひぃやぁあぁぁぁぁぁっ!!!(|||_|||)


 私が心の大絶叫で実況中継してみると、只今、計り知れない速さで東通りを爆走中。

 左腕にオルティオくん、右腕に私を抱え、クライスさんは門に向かって猛ダッシュをしている所だ。


「っ、っ、っ…!?」


 という、声にならない悲鳴をのんで、オルティオくんは必死な顔で彼の左肩に抱きつき、私も「うぎゃあ!!」と叫びたいのを耐えつつ右肩にしがみついている。うっかり顔を動かすと爽やかで甘い香りが漂い、見ようによっては首筋に顔を埋める己の姿に、うわわわわわわ(///△///)と焦るのだけど。

 じりっと小さく身じろぎすれば、彼は落とす心配などを考えたのだろうか、ね。まぁ、普通にギュッとやられて、再び口から何かが漏れる。

 致し方なく背後を見れば、駆け抜ける景色の中に例の赤羽根のチームの姿。

 続いて、見かけぬもうひとチームが普通に走る様子が映り。

 ハッとした彼らの顔に本気の文字が宿った瞬間、クライスさんは何かを避けて通りの右の軒先に高く跳躍、更にもう一つ何かを避けて10点並みの捻り技を出し、元の通りへ舞い戻る。

 視界がぐるんと回った先に、悪戯な人の姿が映り。何か…遅延か麻痺的な状態異常を繰り出す気配に、クライスさんはほんの一瞬、そちらの方へ意識をやると。

 何語だろうか。舌を巻くような美しい発音の後。


「———天元の呪よ、彼の者に宿れ。カオティック・カーズ」


 と呟いた。

 その間にも三撃目を避け、跳躍スキル発動の気配。

 着地点に浮かび上がった束縛系の円陣を見遣り、するりと蔓が伸びた瞬間。


「ファントム・フレア」


 で焼き尽くす。

 私は蔦が伸びてきたから束縛系と思ったのだが、あれ?もしかして、円陣の意味、読めちゃったりしてました?と。専門職なレプスさんなら、魔法陣の構成言語でどんなものなのか分かるだろうが、もしやこの人も理解してるの??な勇者の脅威を思い知る。

 さて、彼が植物系の束縛魔法を打ち負かし、無事に着地の予定地点に降り立ち、駆け出すと、背後で前者の呪いの魔法が発動し終えた景色が見えた。この世界の神霊に認められている勇者な人の、まさかの“呪い魔法”だが、オオオ…な不気味声を上げうるムンクな集団が、春一番の魔法の使い手、クライスさんは避けたけど、おそらく彼も状態異常を発動してきただろうお人に、寄ってたかって嫌な空気を醸し出している光景が。一発で「あぁ、呪われてるね」が分かってしまう状態だ。

 すぐにチームの仲間2人がそんな彼へと駆け寄ったのだが、勇者の呪いの魔法は怖い。「大丈夫か!?」とその人物に触れたかどうかという瞬間、オオオ…なムンクに乗り移られて一人、二人とその場に伏した。


——あの呪い、感染系でもある訳ね…。


 と、私は心で涙を流し。

 まさか感染す(うつ)る呪いというのがこの世に存在したのか…と。今更な残酷加減を遠めに見遣り意識を逸らす。

 この人、マジで仕事になると容赦とかないのね、と。まぁ、善良な子女のチームを妨害するのも相当アレだが。

 そんなこんなで攻撃を躱し、こちらからの仕返しレベルを大まかながら把握した頃、通りを走る我々に標的を定めた2つのチームは、賢明な判断を下し深追いするのを諦めた。

 クライスさんにはあの程度、造作もなかった事なのだろうが、往来を行く人々の目には華やかな演武と映ったらしい。今更ながら後ろの方でワッと歓声が湧き上がり、満更でもなかったのだろう、全く顔は見えないけれど、クライスさんがそれに対して薄く笑ったような気がした。




 結局のところ。

 私達、アリアス・ルートを引いたチームは、堂々の第三位。

 惜しくも優勝は逃したものの、誰からも憎まれなさそうなおいしいポジションを頂いた。

 四位からは賞金が出ない雰囲気だったので、そういう意味ではぎりぎりだったが、オルティオくんは満足そうだ。二位、三位はチーム・リーダーが壇上に登るだけだったので、大人に混ざって少年が恥ずかしそうに佇む姿は、多くの参加者たちの肯定感を促した。

 表彰が終わってこちらの方に駆け寄ってきたオルティオくんは、まずは首からさげられた銅のメダルを見せてくれ、目録が入った紙を同じように広げて見せた。


「あの、三等分とかで…いいですか?」


 と伺う姿に、私も、もちろんクライスさんも苦笑の返事。


「依頼料だけでいいですよ。とても楽しかったですから」


 返せば、隣のクライスさんも「最初に言った通りだ、俺はなにも要らない」と。他の人も聞いているので明言はしないけど、そう語っていそうな物腰で頭を撫でた。

 それでも納得できそうにない少年の耳元に、大丈夫です、この人は高収入な方なので、と。出入りを考えたなら遥かにイシュのが高収入だが、やろうと思えば国さえ築ける勇者職様なのである。それより、この人の仕事の無事を祈っていてください、と。それこそ、こそっと呟いたのだが、あるいは聞こえていたのかも。

 最後に、貰った花束だけでも…オルティオくんはそう言って、私に白い花々で出来たブーケのような花束を、握らせて「ありがとう!」と言い家路についた。






「たまにはこういうイベントも、楽しいですねぇ」


 と。ぶっちゃけ満喫した私だが、会話が途切れてふと語る。

 リセルティア・フェスタ関係者による後片付けが続いているが、参加者たちには気怠げな夕刻前の時間。

 三位入賞の表彰などで軽食は取っていたのだが、ここは健全な十、二十代。割とお腹がすいていた。夕食を取りに行くにはかなり早い時間だが、それなりのカロリーを欲し、我らはオープンテラスが付いた飯カフェで落ち着いた。

 うわ、またしても見ようによったらデ、デ、デートじゃない…!?一瞬、激震が走ったが。クライスさんの「此処に座ればレプス達の帰りに会える」そんな冷静な発言により、私も「そうね!?」と落ち着いた。

 食事を終えて、見た目モヒートな薄口のお酒を飲む人が、横で「そうだな」と同意して。

 そういえば!と閃く私は、聞きたい事があったんです、と。


「あの時…えぇと、香炉のお店で。どうして正解を当てられたんですか?」


 そんなにディープじゃないけれど、それなりにオカルト好きな私が分からなかった問題だ。何故パンピー(…そういう時代を過ごしたのだよ。許しておくれ)なクライスさんに、答えが言い当てられたのか。できれば聞いておきたいという、ちょっとした情熱だ。

 さあさあ、種を明かしなさいな!とジッと様子を伺えば。クライスさんはそんな私に、本気で「ふっ」と吹き出して。


「簡単な事だ。“説明”を読んだ」


 なんでもない事のように言う。


「説明…って?」


 と今更ながら、分かっているけど問い掛け直せば。


「“勇者”はモノに触れる事で、そのモノの説明表記を目にする事ができるんだ。それで見えた説明中に、大賢者アリアスの愛した香炉に似た香炉、と」


 さも吟味するように時間をかけて偽装をしたが、実際は触れた瞬間に判断できたものだった。

 そんな風に呟いて、クライスさんは何処か愉快にお酒で喉を潤した。

 赤の他人の体力・魔力、今までも色々触って効果を教えて貰ってきたが、いざ目の前で確と言われると少し驚くものもある。ほんとに、勇者な職業って恩恵(ギフト)が半端ないですね…と。

 それって若干、ずるなんじゃ…?少しはそうも思いはするが、ギフトだって個人の能力。使わずして何とする。その部分を彼の方こそ思って笑ったような気がして、うんうん、好きだよそういう所、と。私も貰い笑いを浮かべた。

 まだ暫くこんな時間が続いていくかとおもいきや。


「おい!ベルリナ!!」


 と、聞き慣れたような少年の声がして。

 思わずそちらに振り向けば、ソロルくんの興奮が。


「お前!これ、凄いよ!!凄かったよ!!僕が心から欲したものだった!!!今度絶対お礼するから!!」


 と。いつもと異なる調子でもって、まくしたてる様子が見えた。

 彼の手にはいつぞやの“古い教典”が握られていて、そんな少年の後ろではレプスさんとシュシュちゃんが、あ〜、まだ興奮が冷めないよ、こまった子だね、全く、全く。言っていそうな、やれやれという顔をして立っていた。


「えーと、何があったんですか?」


 ソロルくんが興奮している事と、レプスさんとシュシュちゃんがやれやれと思っている事以外、何にも伝わって来なかったので仕方なく問いをかければ。


「これ凄かったよ!!キラキラ〜、バーン、だぜっ!?」


 と、何かがもの凄く退化したような返答しかなかったために。どうか、教えてください…と、レプスさんに視線をやれば、ははは、と声が帰ってきそうな若人を見る愛の目差しで。


「どうやら、全状態異常をカバーできる耐性魔法を、その教典から読み取った様でござるよ」


 と。

 それが真なら、この世界でも「反則なんじゃ?」と思えるような脅威の魔法能力だ。

 いや、でも、確かに、あげた時とか…状態異常を全部最初からカバーしたいと言ってたような…と。


「よ、良かったね、ソロルくん…(・・;)」

「おうよ!!ベルリナ!お前の事は一生大事にするぜ!!」


 うん、ありがとう。友としてよろしく…と思った私は、不意の殺気とソロル氏の急激な冷凍・硬直に。

 ん?と思って辺りをキョロキョロ、何故かイイ微笑をたたえるクライスさんに釘付けとなり、あっ、見ちゃダメだった!?と、サッと視線を町並みへそらす。


「そういえば、冒険者ギルドからクライス殿に言づてがあるそうでござる。できれば早めに顔を出して欲しい、とのことでござったよ」


 そして、ニヤッと笑ったシュシュちゃんと、ニコニコ顔のレプスさんにより引き摺られて行く少年は、十メートルほど進んでもずっと同じく凍ったままで。ふと、隣で立ち上がる彼がグラスを握り。


「そろそろ行く」


 と零すのを。


「あ、はいっ。お疲れさまでした!」


 と。

 じゃあな、と言われた私の方も、蕩けるような微笑に当てられ、テラス席でしばし硬直。

 お世話になっているのだろうお貴族さまの屋敷に向かわず、ギルド方向へ消えて行くのをぼんやりと眺めやり。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——いやいやいやいや!!クライスさんて、そんなキャラじゃありませんからっ!!!??


 相当。だいぶ経ってから、内心で叫んだ私の事など。往来を行く人々が気付く流れもある筈がなく。

 手持ち無沙汰になった私は、妙な照れも相まって、再び街の奥の方へとふらりと歩いていくのであった。

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