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『大賢者の杖を手に入れた』
西通りの【杖】の店にて、どこにも黒い羽根の要素が確認できなかった事、それを報告した後に、不意に肩の小鳥さんより深良い声が零された。
「おぉ!やりましたね!あ〜、良かったです」
ほっとしました…と返答すれば、「だが…」と先方は言いよどみ。
『どうやら、店で言い当てられると、代替品が渡されるようだ。俺たちのルートだと、オルティオが貰った“黒い羽根”だな』
あ、そういう仕組みでしたか。
確かに、道具を買うお金とか、荷運びとかどうするのかな?って。思っていたんですよね…と。
「了解しました。そのつもりで他の道具を当たります!」
『こちらもそうしよう』
そんな流れで通信終了。
丁度、目と鼻の先に露店のアクセサリーショップが見えたので、黒い羽根が飾ってないか、念のため視線を向ければ。
「いらっしゃいませ〜」
な笑顔輝く緑髪のお姉さん、どう考えてもアンバランスな羽根飾りを頭に乗せて。
「あの〜、フェスタの参加者なのですが。もしかして、青金石の首飾り、置いてないですか?」
と。
そろそろっと近づいて、私は彼女に問うていた。
一応、大賢者ルートです、とも伝えてみれば、どうやら合点がいったらしくて。
「では、どちらになさいます?」
と、お姉さんは少しだけ、意地の悪い笑みを浮かべてみせて、2つの青い宝石の付く首飾りを箱から出した。
思わず、えぇっ( ̄□ ̄;)!!となった私だが、そうなるのも仕方ない。
見せて貰った2つとも、男の人も着用可、なシンプルなデザインで。
どちらも割と大振りで、美しい青色だ。
違い、といえば紐の部分と、周りに少しだけ付いた銀の装飾品くらい。装飾品と語ってみても、シルバーリングが三つほど左右に通してあるかどうかで、大差ないものである。
ほとほと困ってしまって、一度顔を上げ天を仰げば。
「くすくす。貴女、可愛いわねぇ」
頑張ってね、と彼女は語り。
えっと…うん、あの、私って、中身がだいぶアレだけど…。が、頑張りますね〜…と。こちらは若干、苦笑を返し。
——えぇと…えぇと、アリアスさんの首飾りって…他に何て言われてたっけ?
記憶の限りを絞り出す。
いや、でも、他にって…。と、ぐるっと一周した頃に。つんつん、と頬を突かれ、思い出した小鳥さん。
ほんのりと光を纏う、幸せの青い鳥…。
空と海とを通わせる【青金石の首飾り】には。
幸運、を運ぶ魔法が込められていたという。
ラピスラズリは前の世界でも“幸運”と言われていたような気がする…し。
そしてこの世の彼の信奉者(シンパ)は、それに“空と海”との象徴を当てはめた。
何で“空と海”だったのか。単純に青いから?
でもきっと、ブルーサファイアな透明系の宝石などでは、表現されないだろう何かが…。
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「あ」
あっ!あるじゃない!!
「こっち!こっちを頂きたいです!!」
指差したのは、向かって右の方。
同じラピスラズリでも、こちらの方の石の模様は、下方に白い不純物、上方に黄鉄鉱の粒。白い模様は波のよう、黄鉄鉱は夜空の星を思わせる配置であった。混じり物は似ているけれど、石の表面付近に浮かぶ明らかな模様、配色を見れば。今は天と地、月とスッポン、よく用いられる比喩表現を引っ張ってくるほどだ。
緑の髪に黒い羽根の飾りを挿した店員さんは、「正解よ!」と笑顔で返し、オルティオくんが貰ったような黒い羽根を取り出した。
「ありがとうございます!」
ぺこっと頭を下げて、それを受けとろうと手を伸ばした時。
「あっ」
「あらっ」
タイミングよく春一番が吹き付けて、一瞬で高い空へと飛んで行ってしまう羽根。呆然とそれを見上げる私と店員さんは、お互い「あぁー…」な苦い顔を浮かべて笑い。
「大丈夫よ、予備があるから」
と。
今度はしっかり掴んで受け取り、そのまま鞄へ直行させた。
入った事を確認したら、お店から少し離れて入手の連絡。【青金石の首飾り】を手に入れましたよ!と。丁度、あちらも黒羽根の飾りの付いた魔石のお店を発見したので、これから入る所であったらしい。
これで残りは、【金の香炉】と【銀の方位磁石】となるが…。
物品が物品だけに、これは…街の奥。専門店だろうか、と。
一応、杖のお店を経由し、黒羽根を受け取ったアクセサリーショップの位置は、西門近くにはなるが。早足で門まで行って、そこからどうするか。
——仕方ない。地元民にお願いするか。
そんな所で落ち着いて。
やはりというか、西門までの西通り中に目当てのお店が無かったために、その辺の大型店で観光マップを入手して。私は、付近の地元民っぽい住人達をつかまえ歩く。程なく例の魔石店にて【聖炎石】を正解し、三つ目の羽根を手に入れたとのクライスさんからの報告が。
香炉ならお香の専門店でしょ。そんな話を得ていたために、「私はこのまま街の西側、お香のお店を当たってみます」と。クライスさんは了承の意と、方位磁石を売っていそうなお店の探索をする、そんな旨の言葉を零し通話を切った。
さぁて、目印の花屋さんとは…と、ジュースを売っていたお姉さんからの情報ならばあの辺り…。しっかりジュースを買わされたのだが、有力な情報だった。うん、美味しい。ジュース美味い。そんな頭でさっさか歩く。
そんな折り、道の反対側にてふと目に入った集団は、既に五本の羽根を持ち。
——あ、赤い羽根…しかも五本か…!
先、越されてる!?と焦るのだけど。
ルートが分かる最初の一本、出された五つの課題からして、まだ全部は集めていない。だから落ち着け!と心に語る。
その時、目前の集団に居た男性のうちの一人が、同じように“ふと”こちらに視線を合わせ。
「?」
ふっ、と笑ったような気がした…のは錯覚だったのか。
すれ違い、そのまま花屋を目指した後ろ姿を、その人が再び見ていた、だとかは全く気付かぬ事だった。