征一郎さんは、歯がなくても肉が食べられるだけでなく、歌も歌える。歯がなくても歌を上手に歌える方法を研究しているそうだ。
そんな手間をかけるよりも、入れ歯を付ければいいのではないかと思った。しかし改めて考えると、日本では入れ歯を1本つけるのに何万円もかかり、口いっぱいに入れ歯をつけるなら数十万円はかかるに違いない。
征一郎さんは果たしてこんな大金を用意できるだろうか。
少年時代から持ち続けてきた反骨精神
征一郎さん自身が語った長い髪とひげの「3つの理由」のほかに、もう1つ、付け加えたい。
一般的に、他人からの揶揄や忠告をよそに長髪を貫く男性には、自分自身の主張や表現に加えて、反抗精神や社会規範に挑戦する性格を持っている人が多いと思う。
征一郎さんの幼い頃から大人までの成長過程を知れば、彼の言動の多くはこの精神と性格に駆られていることが分かる。
私は彼の少年時代の写真を見たことがある。その時も髪は長かった。
年を取るにつれて髪型が変わってきたが、ロングヘアという点では変わらないようだ。もちろん髪だけでなく、反骨反逆の精神も変わらない。
征一郎さんはホームレスになって以来、世間から多くの軽蔑の眼差しを向けられ、社会の不公平さを経験してきた。
特に、ホームレス向けの施設の問題について不満と怒りが大きい。赤羽公園で以前、ホームレス仲間たちを前にこんな演説をしたこともあったという。
「政府は私たちに『施設に入れ。それが国の生活保護を受けるための条件だ』と言った。しかし、本当に施設に入ったホームレス仲間の中には、悪い人たちにいじめられたり、搾取されたりして、追い詰められ、自殺した人も出たのだ。
それに、警察は法律執行の旗印を掲げて、何度も公園からホームレスを追い払った。その挙句、行く所がなくなって道端で倒れた高齢のホームレスもいた。
このような行為は殺人未遂と何の違いがあるだろうか――」
[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。
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