栄東・開成… 中国にルーツ持つ受験生が中学入試に 入学者の1割も

編集委員・宮坂麻子 北京=斎藤徳彦 本間ほのみ 石川瀬里

 中学受験シーズンが本格化している。そんな中、難関校の入試会場で、近年、見かけることが増えているのが、中国にルーツを持つ受験生の親子だ。入学者の約1割を占めるという進学校も。日本の私立中高にも国際化の波が打ち寄せている。

 埼玉県の中学入試初日の10日、進学校の栄東中学へ続く道には、「東大クラス」など約80人の定員に約5千人の受験生の列ができた。その中から中国語の話し声がちらほら聞こえてくる。

日本の中高一貫→日本の難関大→海外へ?

 息子を送り出したのは、14年ほど前に中国から来日した横浜市の女性(37)。夫も中国出身で、息子は日本で育てた。第1志望は、神奈川県内の東大合格者数トップの聖光学院中(横浜市)。中学受験を選んだ理由は「子どもの未来が不安。中学から良い環境に入れたいから」だ。中国では勉強第一の風潮があるといい、「日本の大学は数もあって選択肢が多いし、入試でも総合型とか学校推薦型とかいろいろあって、勉強以外の強みも評価してくれる。日本は子どもが少ないから、中国で大学受験をするより競争が激しくない」。大学入学後も見据える。「中国では海外大へ留学できる大学も限られるが、日本はどの大学も留学制度が充実している印象がある。日本の大学に進学して、英語圏の海外大学へ留学できれば」と話す。

 同じ塾に娘を通わせる中国籍の女性(42)は、渋谷教育学園渋谷中をめざす。前哨戦で栄東中の受験に来た。「中国の中学、高校は勉強を重視する姿勢が強く、部活動もない。日本の方が管理されず自由にのびのび過ごせそう」という。海外大進学も視野に入れている。「子どもの数が多い中国は競争が激しい。日本の方が海外大もめざしやすそうに思う」

「日本の学校は楽、近いし、安い」

 中国から来日した複数の父母らと保護者控室にいた女性(43)は「日本の公立小学校の勉強はとても楽」という。娘が2歳の時、IT企業に勤める夫と来日。小3から中学受験塾に入れた。東大か、海外大か、大学の進路は決めていないが、とりあえず栄東中の東大クラスの合格をめざす。「子どもをできるだけいい大学に入れたいのは日本も中国も同じ。欧米の大学をめざせるのは中国ではもっと上位の富裕層。日本は近いし、学費も安い」。

 保護者の出身地は、北京、山東省、遼寧省など様々。教育目的だけでなく仕事で来日した人も多い。時期も子どもが生まれる前、幼児期などそれぞれ違う。日本語が話せない保護者もいた。

栄東・開成は1割? 「国際文化理解からも良いこと」 

 栄東中の入試担当者は「塾などの模試会場として教室を貸すと、控室のあちこちで中国語が聞こえる。年々増えている印象。国籍調査などはしていないが、入学者の1割程度は、両親もしくはどちらかが中国出身の生徒ではないか。特に『東大クラス』は多い」という。

 栄東中だけではない。開成中学も「台湾、香港、中国にルーツのある生徒は増加傾向で、1割弱はいるのでは」という。同校では、前回の入試から「一条校」(学校教育法第1条に定める学校)ではない学校の児童も一般受験を認めた。その結果、インターナショナルスクールや中華学校の児童が公立小などに転校せず、直接受験する例も出てきたという。

 野水勉校長は「欧米の高校・大学では以前から中国の人も多く、日本がやっと国際的になってきたとも言える。多様な生徒がいることは国際文化理解の面からも良いこと。勤勉で英語力が高い生徒も多く刺激になる」と言う。一方で、外国にルーツのある生徒の保護者を対象とした保護者会では、行事や部活より成績を気にする声があがるため、「中高生活で得られるものは勉強以外にもたくさんある。あたたかく見守って欲しい」とお願いしているという。

 「女子御三家」とされる都内の私立女子中学も「この10年ほど中国にルーツがあると思われる生徒が一定数入学しており、今は1クラスに数人程度」という。

公立小の「外国人児童」10年で2倍

 文部科学省の学校基本調査によれば、公立小学校に在籍する日本国籍を持たない「外国人児童」は、2024年5月時点で約9万人で、この10年間で2.1倍に。中学の「外国人生徒」も公立は約3万3千人で1.6倍、私立は約2千人で2.1倍になった。東京都港区など中学受験者が多い地域の教育委員会によれば、中国にルーツを持つ公立小学校の児童は「増加傾向」という。文京区は、外国籍児童が5年間で2倍以上に増え、特に「3S1K」と呼ばれる中学受験者も多い4校は、「学力レベルが高い」などと中国の家庭にも人気が高いという。ホームページの一部情報を中国語で掲載する小学校もある。

中国の過酷な高校受験 普通科高校への進学は6割

 中国にルーツを持つ児童が増えている背景の一つに、中国の受験競争の過熱ぶりが指摘される。中国では、一般的に中学受験はないが、高校に入る時には「中考」と呼ばれる試験が待ち受ける。23年度に、普通科高校の募集人員の合計は中学卒業生の約6割にとどまった。かつては経済的な事情で進学をあきらめる例も少なくなかったが、経済成長を果たした今は、ほとんどの子が普通科高校を目指すようになった。

 進学コースからふるい落とされたくないという切迫した思いから、親も巻き込んで競争に駆り立てられる。大学入試に有利とされる有名校に入るためのレースは都市部・地方を問わず熾烈(しれつ)だ。小学校低学年時から、授業時間外も学校で早朝から深夜におよぶ「自習」に励むのが定番となっているという。

 埼玉県で、中国系の子にも英語や国語などを教える学童保育を経営する付立華(ふりか)さんによると、幼児や小学校低学年で学びに来る子の大半は、小3、小4にはサピックスや早稲田アカデミーなど中学受験塾に入って有名中学に進むという。オンラインの授業には県外からも参加があるという。

SNSで情報入手? 入学後に戸惑う家庭も

 付さんはこう指摘する。「中国で過酷な大学受験を経験した親が、海外のIT企業などに勤めるようになっている。共働きが当たり前で、多くが一人っ子のため祖父母からの援助もあり、子どもの教育にお金をかけられる。日本語が上手でなく、日本の教育の情報は十分に得ていないけれど、SNSなどで、日本で塾に入れて頑張らせれば有名中高から有名大に進めると思っている人も少なくない」

 中国発のSNS「小紅書」には、保護者が投稿したと見られる子どもの中学受験塾サピックスなどの模試結果の画像が多くあがっている。渋谷教育学園幕張や開成、灘などトップ校の合否判定結果がうつる画像には、こんな内容のコメントも。「(中国へ)帰国中、多くの友人から教育への悩みを聞いた。小学生で中学を受けるか、中学生で高校を受けるか……。比べてみると、日本のこの(中学受験の)方式はやはり簡単だ。努力すれば中高一貫に入れて自由な4、5年を享受できる」

 中国で中学教師もしていた付さんによれば、中国は学校が大量の課題を出し、成績が下がれば親を呼び出し、遅くまで残して厳しく指導する。一方、日本の難関中高は自由な校風の上、成績も進路選択も本人と家庭に任される。「中国と同じようにしてもらえると勘違いして入学後に戸惑う家庭もある」と明かす。

 また、中国での高校受験を避けて小学校高学年や中学生で来日したものの「国語」の壁が高く、中学受験、高校受験にも対応できない子もいる。いまはそうした年齢の高い子たちも教えている。自身の子も昨年、中学受験し、関西と関東ともに男子トップ校に合格し、通わせている経験からこういう。「子どもに自分より良い将来を望むのはどの国の親も同じ。日本は少子化、人手不足、円安なので、日本に来て受験する家庭はまだ増えると思うけれど、子どもに適した受験時期、学校を選ばなければ、心に傷をつけることにもなりかねない。日本の学校教育や受験を正しく知って欲しい」

少子化で「入り口も出口も国際化していく」

 中学受験、高校受験に詳しい安田教育研究所の安田理代表は「日本は私立大学の6割が定員割れしているが、私立中高もこれから少子化で厳しくなる。中国だけでなく、インターナショナルスクール生など英語もできて海外大や国内難関大への進学が見込める生徒を求める傾向は、いま以上に強まるだろう。入り口も出口も国際化していくのではないか」としている。

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この記事を書いた人
宮坂麻子
編集委員|教育・こども担当
専門・関心分野
教育・こども
斎藤徳彦
中国総局長
専門・関心分野
国際経済、中国の経済・政治