「事件をなかったことには絶対できない」加害者に問いかける遺族 傷つけられても心情等伝達制度を使う理由 #令和の人権
保護観察官の告白 加害者の「一から出直し」は被害者側に反感
保護観察官として加害者の更生を本分としながら、被害者の心情にも耳を傾け続けてきた一人に、法務省近畿地方更生保護委員会・事務局次長の西崎勝則さん(54)がいる。 保護観察官は、犯罪や非行をした人の社会生活の中での立ち直りを保護司などと協力して指導・支援する。保護観察所は現在、全国に50カ所ある。 西崎さんが保護観察所の被害者担当官となったのは、保護観察中の加害者に被害者の心情を伝える「心情等伝達制度」をはじめとした、更生保護における犯罪被害者のための制度が始まった2007年のこと。 「被害者担当官となるまで、私は、保護観察は、加害者の更生のためには、その人たちの問題のある部分も受け止めて寄り添うことだと考えていました。その考えは今も変わりませんが、他方で、目の前の加害者の更生を願うあまり、意識の中で、その向こうにいる被害者の存在を、どこか遠くへ追いやっていた自分がいました」 西崎さんは、被害者担当官となって以後、被害者遺族の集会に参加するなどして、犯罪被害に遭った人の実情や気持ちを直に知るようになる。「衝撃でした。それまで味わったことのないものでした。被害者の声を聴けば聴くほど、加害者の更生に携わる立場だからこそ、被害者の声に耳を傾け、仕事に生かさなければならないと思うようになりました」 西崎さんは「かつては自分も、加害者に『すべてを忘れて一から出直してがんばるように』と指導したことがあるんです」と吐露する。しかしそれは、被害者側から見れば反感しか湧かない。 被害者遺族の会に参加した当初は、自分が「加害者の支援側の立場」であることを明かすべきか迷い、話し合いの輪に入ることができなかった。しかしある時、自己紹介を求められ、「実は」と恐る恐る名刺を差し出した。すると、「あなたみたいな人がこういう集まりに来てくれることが大事なんだよ」と歓迎された。以来、行政官の知識を生かして犯罪被害者のさまざまな相談に応じ、次第に頼られるようにもなった。 筆者の知る限り、西崎さんほど頻繁に犯罪被害者遺族の集まりに足を運んだ行政の人はいない。被害者支援を考えれば、司法行政との連携は欠かせないが、両者の間には溝があった。その溝を埋めるのに、西崎さんのかかわりが貢献したことは間違いない。 西崎さんの勤める職場は法務省保護局の所管で、矯正局所管の刑務所や少年院で始まった新制度に直接関係する立場ではないが、被害者と加害者の両方に接してきた西崎さんは、新制度を冷静に見ている。 「被害者にとって、加害者の指導を刑務所が行おうが、保護観察所が行おうが、国がやっていることに違いはないんです。新制度を利用することで、被害者が、加害者の贖罪意識が不十分だと思えば、その不満は国に向けられるのです。また、新制度によって、加害者自身も、指導にあたる刑務官らも、被害者や遺族の思いを突きつけられます。そこで生じた課題を、今度は保護観察が(加害者をどう更生させるかという)宿題として受け継ぐことになります。真に被害者のための制度とするためには、それぞれの役割をしっかりと果たしていく必要があります」 ◇ 連載最終回の第3回では、殺人などの生命犯の遺族の思いや、制度の導入を主張した研究者や所管する法務省矯正局にその意義と目的を聞く。 --------- 藤井誠二(ふじい・せいじ) ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。著書に『「少年A」被害者遺族の慟哭』『殺された側の論理』『黙秘の壁』『沖縄アンダーグラウンド』『路上の熱量』など多数。近著に『贖罪 殺人は償えるのか』。 --- 「#令和の人権」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。日常生活におけるさまざまな場面で、人権に関するこれまでの「当たり前」が変化しつつあります。新時代にフィットする考え方・意識とは。体験談や解説を通じ、ユーザーとともに考えます。