「事件をなかったことには絶対できない」加害者に問いかける遺族 傷つけられても心情等伝達制度を使う理由 #令和の人権
渡邉さんが新制度の開始を知ったのは2022年の秋。当初は利用に消極的だった。 「相手が相手だから、何を言っても響かないだろうという諦めの気持ちがあったんです。でも20年以上経って加害者も反省をしているかもしれないとほんのちょっとだけ期待したんですが……見事に裏切られました」 2024年6月、渡邉さんは制度利用のため刑務所へ赴いた。刑務所内の一室で、被害者担当刑務官男女1名ずつと向き合い、1時間半にわたって思いのたけを話した。あらかじめ話す内容を箇条書きにしており、それも手渡した。刑務官が聴取した内容をその場で文書にし、渡邉さんも確認した上で「心情等録取書」が作成された。 後日、刑務官が加害者に書面を読み聞かせるかたちで、渡邉さんの心情が伝達された。 翌7月、渡邉さんのもとに「心情等伝達結果通知書」が届いた。 その時の様子をテレビ局が取材していた。渡邉さんは通知書を開封すると、文章を目で追ったあと、数秒沈黙した。「どういうことなんでしょうね……」。そう漏らすと、怒気を含んだ声で吐き出した。「ふざけるなって……」
筆者が取材に訪れたのは、この4カ月後。封書を開けた時のことを改めて聞くと、渡邉さんは「よく覚えていない」と言う。それぐらいショックだったということだろう。 渡邉さんが「心情等録取書」に込めた問いかけは、「裁判中は無罪を主張していたが、刑が確定して受刑していることについて、どのように感じているのか」「今どういう思いで刑務所にいるのか」というものだった。返答は次のようなものだった。 [再審請求で棄却されたから、全部認めるしかないし、これ以上争ってもしょうがない] [過去のことは忘れて、今できることをやりたい。人生をやり直すことを考えている] 渡邉さんは憤る。 「はらわたが煮えくり返る思いでむかむかして……。何が、過去のことは忘れて今を生きたいだ、人生をやり直したいだ、と。お前にやり直す人生なんかないよと思って読んでいました。車ではねてパニックを起こし、娘を刺したという事実はようやく認めましたが……」