財力はあるのに、服役囚の父は…
渡辺さんの話を聞き、福島に向かうことにした。穂積服役囚の両親は、白河市の外れ、かつては表郷村だった郊外に住んでいた。
事前に登記簿謄本で調べると、420平方メートルもある敷地は親族の畑だったようで、平成10年にその親族から買ったものだった。あくまでも支払い義務があるのは穂積服役囚だ。だから、家族には法的な支払い義務はない。だが、本人が支払わないなら、せめていくばくでも誠意を見せてもいいのではないだろうか。支払わないとかたくなに思っているならその気持ちを知りたい。
そんなことを車を止めて思案していると、プロパンガスを積んでいると思われる軽トラックが止まった。
「おはよう」
男性が家に向かって声をかけると、ランニング姿の小太りの男性が顔を見せた。車の脇を通った際に顔を見ると、穂積一服役囚と顔がよく似ている。
近くの市営住宅の敷地で井戸端会議を20分ほどすると、また戻ってきた。近くに人がいないことを確認して車を降りた。
「穂積さん」
「はい」
男性は人の良さそうな顔をこちらに向けた。
「息子さんが犯した殺人事件の取材で来たのですが」
名刺を渡して来意を告げると、一瞬にして顔が曇った。
「弁護士に任せてあるから…」
振り絞るように男性は声を出した。