「前後」と「後先」が逆になる件
今回は、ポルトガル語がどうのこうのという以前に、
日本語が西洋の言葉とは如何に違うか
といった点について書きたいと思います。
少しでもポルトガル語を習った方なら、
「前」は「frente」
「後ろ」は「atrás」または「trás」
と習ったのではないでしょうか。
ですから、
「家の前」なら、「em frente da casa」、
「ドアの後ろ」なら、「atrás da porta」
などと表現します。
一方、
「次のミーティングは明後日でいいですかね?」
「いや、もっと先でいいんじゃない?」
といった会話で、「もっと先」を、ポ語では、
「Mais para frente.」
伯葡語:【マイス・パラ・フレンチ】
欧州葡語:【マイシ・プラ・フレントゥ】
と、「frente」という単語を使います。
パッと見、
「ああ、『frente』って『先』という意味もあるのね」
で済んでしまい勝ちですが、
冷静に考えてみると、
「あれっ?『frente』って、『前』だったよな…。
でも日本語で『もっと前』って言ったら…
えっ、反対じゃん!」
ってことになりますよね。
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この問題が実生活で見受けられるのが
本や資料や写真のアルバムなどを皆で見ながら
目的の行や解説や写真を探しているときです。
日常会話に不自由しない程度の
日本人ポルトガル語話者が
パラパラとページをめくっているところ、
葡語話者に
「Mais para frente」
伯葡語:【マイス・パラ・フレンチ】
欧州葡語:【マイシ・プラ・フレントゥ】
と言われて、つい
「frente」という言葉に
「あ、前って言った」
と反応して、
既にめくったページを
めくりなおし始めてしまい、
ポルトガル語話者に
「Não! Mais para frente! Frente!」
(ちがうよ、もっと先、先!)
などと言われているシチュエーションを
私は幾度も目撃しています。
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実はこの問題、時間軸に照らし合わせてみると
意外と分かり易い、
日本人特有の言語スタンスに原因があります。
たとえば日本人は、
目の前に時間軸を歴史の年表の如く
頭に思い描き、
「○○はもっと前、△△はもっと後に起こったこと」
などと表現しますが、
西洋人は自らを時間軸に置いて
進行方向を基準に前か後ろかを
表現しますから、
同じ「○○はもっと前、△△はもっと後に起こったこと」
という文の場合、
「○○はもっと前(mais para trás)、
△△はもっと後 (mais para frente) に起こったこと」
という使い方になり、
冒頭で挙げた
「前」は「frente」
「後ろ」は「atrás」または「trás」
という説を
見事に裏切ってしまうわけです。
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一見頭が混乱してしまいそうな話ですね…。
それでは、次の状況をイメージしてみて下さい。
1.「リンゴがあなたの(目の)前にある」
と
2.「リンゴがあなたの後ろにある」
この二つの状況がイメージできたら、
今度は自分が年表の上にいて、
年代が新しくなる方向、
つまり未来の方向を
進行方向にしていると
想像して下さい。
そして
あなたが立っている地点に対して
3.「ひとつ前の時代」
と
4.「ひとつ後の時代」
がどこにあるかを想像してみて下さい。
「ひとつ前の時代」は、あなたの背後にあり、
「ひとつ後の時代」は、あなたの目前にありますよね。
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欧米諸語を学ぶ際は、
このことに限らず、日本語と比較してみると、
そもそもの話者のスタンス、
つまり
「話者の身の置き所」が
根本的に違ったりすることがあり得るということを
肝に銘じて取り組むのが望ましいと思うのです。
外国語をこのように見るようにすると、
欧米人が主観的なことをバンバン言い通せることも、
日本人が、つい客観的に考えた挙句に口ごもって
上手くディベートで言い返せなかったりすることも
なんとなく納得いくような気もしてくるのではないでしょうか。



コメント
1なるほど~今日も勉強になりました!
ありがとうございます☺