奈良県御所市の火葬場整備工事で地元業者が受注できるよう便宜を図った見返りに計7500万円を受け取ったとして加重収賄罪に問われ、昨年末に1審大阪地裁で実刑を言い渡された元市議、小松久展(ひさのぶ)被告(72)=控訴。公職にありながら暴力団ともつながりを持ち、在職時は「市議会のドン」ともいえる存在だった。公判で明らかになったのは約10年前から続いた癒着の実態だった。
「それでいこう」
「火葬場の整備工事をぜひやらせてほしい」
1審の裁判記録などによると、御所市内の建設会社の元会長(75)=贈賄罪で有罪確定=は平成31年2月、被告の事務所を訪れ、こんなお願いをした。
自身の会社が火葬場の整備工事を請け負う代わりに、別の大型公共工事を同業他社に譲る-。そんな青写真を示すと、被告は「それでいこう」と応じた。その返答に、元会長は談合の成立を確信し、ほっと息をついた。
元会長らは被告の公判に証人出廷し、こうした談合が常態化していたと赤裸々に語った。
証言によると、同市内では土木、建設いずれの業者も年々減り、約10年前には、主な業者はこの建設会社と同業他社の2社のみになった。
いきおい2社間で受注調整が行われるようになり、話がまとまらない場合に「行司役」となったのが、両社の幹部に顔が利く被告だった。
火葬場の整備は、発注額が24億円を超える大規模事業だけに、被告の差配が必要だった。被告は同業他社に出向いて元会長の提案を伝え、合意を取り付けた。その後、談合を疑われぬようにこの同業他社もJV(共同企業体)を組んでいったんは選定手続きに参加するものの、途中で辞退するというスキームが両社間で決定された。
令和2年の市議会。被告は、元会長の建設会社を代表とするJVが火葬場整備事業の工事を請け負う議案に賛成。受注額の約3%に当たる計7500万円を建設会社から受け取った。
「ヤクザは頭打ち」で市議に…
市議会最古参だった被告。同じく証人として出廷した市幹部は「影響力があり、慎重に話を進めないと何をされるか分からない恐怖感があった」と述べた。
被告人質問では、市議としては異色の経歴を自ら明かした。
高校中退後に暴力団に所属。組に在籍しつつ、20代前半から家業の建設業を手伝うようになり、後の「行司役」に生きる業界人脈を広げた。
41歳だった平成6年の市議選で無投票初当選。「ヤクザとしては頭打ち」と感じていたときに、父親から「市議にでもなったらどうや」と勧められたのが転身のきっかけだった。
元暴力団員であっても更生した人は多数いる。しかし被告は市議になってからも反社会的勢力との関係を絶っていなかったようだ。
被告側は公判で、建設会社から受け取った金は賄賂ではなく、「借りただけ」と無罪を主張。被告の説明によれば、暴対法で事務所使用が禁じられ、立ち退かなくてはならなくなった旧知の暴力団に資金提供をしてあげたいと思ったのが「借金」の理由だという。
検察側は論告で、被告の言う「借金」という金銭受領の趣旨を否定しつつ、「特別職の公務員でありながら、暴力団関係者との関りを持ち続けていた」と規範意識の乏しさを指弾することも忘れなかった。
昨年12月10日の判決公判。大阪地裁は、被告側の主張を退け、建設会社から受け取った金は「議員としての職務上不正な行為に対する賄賂」と認定。「市議としての職務の公正さを失墜させるもので厳しい非難に値する」と懲役4年、追徴金5200万円(求刑懲役7年、追徴金5200万円)を言い渡した。被告側は判決を不服とし、控訴した。