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(長いです)
選択的夫婦別氏制度の導入に関して、国民民主党榛葉賀津也幹事長は「成人男女である夫婦の別姓は理解している」とした上で、「子どもの問題を真剣に考えなければならない」「政局や選挙の道具にすべきでない」と述べた。
まさに、「氏」に関しては「政局や選挙の道具」とされ、十分な議論がないまま、法案作成者たちですら「不完全、不満足」と認識していたにもかかわらず成立した例が過去にもあり、そのことへの懸念を私は論文や記事でたびたび発信してきた。
何より、たとえ賛成する人であっても、子の氏もそうだが、予想される影響や、どのように戸籍に書き込まれるのかも含めて、具体的なことについては十分な情報にアクセスできているとは言えないのではないか。
(↑特に二重氏)
それは法案成立後に考えればいい、と言いきれたら良いが、法学者も指摘するように、どんな制度設計をするかで、だいぶ違う。
だからこそ、国民の理解は必要だ。
党内議論を進め、国民との情報共有をしていきたい。
「子の氏」を巡り、戦後最も大きな動きは1976年成立の婚氏続称である。
これはそもそも、離婚後、母親に引き取られることの多い子どもが、旧姓に戻った母親と氏が違う、もしくは子ども自身が母親と同じ氏に変更したために親の離婚が周囲に知れ、子に不利益等を及ぼすことがないようにと設けられた制度である。
当時は親の離婚によりいじめ等にあうことが社会問題化しており、法改正を求めて200万人の署名が集まった。
そして、1976年5月、離婚後、届出だけで結婚時の氏をそのまま使用できる「婚氏続称」が成立した。
その背景には前年のメキシコでの世界女性会議で女性の権利拡大への流れが生まれ、国内でも上記のような法制定への運動が起こったこともあるが、それよりも大きかったのは「ロッキード事件」である。
選挙を前にして女性票を獲得せねばならないと考えていた自民党・三木内閣はまさに政局を意識しながら、拙速に法改正に進んでいく。ただし、超保守派の稲葉法務大臣は後ろ向きだった。
大きく政局が動く中で、会期末近くの5月11日に審議入り、ごく短時間の質疑が行われた後、「婚氏続称」は5月21日に成立する。この間,5月13日には第1次3木おろしが表面化している。そして、三木総理は解散権すら行使できないまま、12月に衆議院は任期満了選挙となる。
この改正は女性に関わる戦後最も大きな民法改正だったにもかかわらず、三木武夫総理も、稲葉修法務大臣も自身の実績として「婚氏続称」は一行も書いていない。
「呼称上の氏」を用いたこれらの立法は、成立前から戸籍をより複雑にする等の課題が指摘されており、特に「婚氏続称」については性急な立法過程に対する反発もあり、成立直後から批判や懸念が示されている。
法制審議会身分小委員会の委員長代理を務めた唄孝一氏は提案の経過に手続き的疑問を持ち、法制審議会の委員に「言っておきたいこと」という一文を送付している。
また、委員として「婚氏続称」の議論に参加した谷口知平氏は「立法というものが政治の勢いによって成り、常に不完全、不満足のままに、従って多くの矛盾や疑問が次々現れてきそうに見える状態のままになされるものであることを体得した」とした上で「この改正が日本の婦人の地位向上に、一歩を進めたものと考えてよいか、あるいは日本女性の後進性を温存するの結果を生じないか、この改正の社会的効果を見守りたい 」としている。
法案作成に重要な役割を果たした当事者さえ「不完全、不満足」と認識していたにもかかわらず、上記のようにこの法案は政局がらみで成立した。
「不完全、不満足」との批判が多かった部分は「呼称上の氏」(民法上の氏ではなく、いわゆる「あだ名」のようなものby法務省が戸籍に記載される)を立法により承認し、二重氏を認めることとなってしまったことだ。
「婚氏続称」の成果はもちろんあり、現在では離婚した人の約半数近くが利用していることを考えれば、必要とされる法律である。しかし、続称する婚氏は、「民法上の氏」ではなく「呼称上の氏」にすぎない。民法上の氏は、離婚によって旧姓に復しているとされる(戸籍編成は「省略」しているとのこと)。767 条はなお強制的な変更の痕跡を残した規定で、「夫婦別姓」が可能になったとしても二重氏で対応する場合は同様の問題が残る。
つまり、二重氏を容認した現在の「氏」のあり方は女性たちの地位向上や、多様な家族のあり方を支え、さらには個人の氏名権を十分に保護するものへの波及となり得たのだろうというとそうではないのだ。
むしろ、その際に決まった「氏」のルールは「日本女性の後進性を温存する」結果となり、ジェンダーギャップ指数が先進国最低の状態である社会を固定化させる原因になっているのではないか。
立法過程とその内容を研究すればするほど、その思いは強くなる。
制度は外側だけを作ればそれでいいわけではない。また原理原則から「こっそりと」逸脱することで、実質別の問題解決を遅らせたり、妨げたりすることが起こる。
特に戸籍関係は複雑で一般にはわかりにくい。だからこそ、丁寧な議論が必要であると思う。
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