第10話

文字数 4,130文字

第十章 プライドを取り戻せ

知人の配信者による法的措置は、匿名という穴の中でぬくぬくと過ごしながら誹謗中傷三昧だった卑怯者達を順調に引きずり出していく。 法的措置を検討されるほど酷い誹謗中傷を繰り返し、彼の人生を、家族を、未来をオモチャのように気軽に壊そうとしておきながら。
自分達がしでかしてきたことの報いを受ける段階になって謝罪もせずに逃亡を図ろうとしている様子は、私のアカウントからでも丸見えだった。

私が受けてきた誹謗中傷や嫌がらせ被害など、彼が受けてきた辱めを思えば蚊に刺されたようなもの。 本当にささやかで恥ずかしくなるが、こっそりと差し入れをしておいた。
この差し入れが、法律で引きずり出された卑怯者達へのしっかりとした責任追及の足しになってくれたら幸いだ。 ただ、それだけでいい。

 私が最も問題視しているのは、小者すぎて法律の網から漏れている無名の匿名アカウント達だ。

良識とは敢えて逆の主張をして自分を目立たせたかったのか、好きな配信者を守りたかったのか知らないが。 今まで散々調子に乗ってこちらを攻撃してきておきながら、この期に及んで逃げられるなどと、どうして勘違いできるのか?

陰でコソコソやっていた嫌がらせがバレた加害者が、追い詰められた果てに取る行動はただひとつ。 アカウントを削除し、全ての証拠を抹消すること。

だから、私は規模の大小に関わらず証拠を収集して、まとめ続けてきた。身勝手な理由で誹謗中傷に加担した事実を、ずっと残しておくために。会ったこともない他人の何もかもを壊しかけておきながら、何食わぬ顔で生活し続けるなんて、許さない。

相当悪質な事をしでかしたアカウント達は、全国ニュースにまで行きつくかもしれない。
そのニュースを見た時に、自分がしでかしてきた事を思い出して恥じるといい。

あちら側から抜けようと思えば、いつでも抜けられたはず。
必要なのは、勇気と決断だけだった。

今まで面白半分に自分がしでかしてきた事が、どれほど相手を傷つけてきたか。
その行いが、それほど罪深いことだったか。
そこに向き合おうとせず、自ら道を引き返す決断もできず、弱者の仮面を被って被害者を装いながら逃げようとする弱くて醜い人間達の戯言に、私が耳を貸すことはない。

『何の役にも立たない魚拓を収集し続ける、無力で多弁なカモミール』

絵文字までつけてせせら笑ってご満悦なところ申し訳ないが、その反応こそ[証拠を収集されたら都合の悪い側である]と自白しているも同然だ。

こちらを馬鹿にして嗤っているつもりだろうが、嗤われているのは自分達であると、そろそろ気がついたほうがいい。 痛々しくて、とても見ていられないから。ただ、弱く見えるだけ。

『どうでもいい自分のことで、無駄な時間を費やすなよ』

助言めかした命乞いは無駄だと言っておく。
声の大きい者達の背後に隠れて、コソコソとこちらに石を投げつけてお楽しみだった分際で、何を言っているのか。

「匿名ではあなたを散々攻撃したけれど、本当の私は弱くて憐れな存在です」
「謝りたくないし、今までしてきた事の責任も取りたくありません」
「証拠がそちら側に残るのも嫌です。 弱い私には、何も求めないで!」
「……私を許さない? 弱い私を許さないなんて、酷い!」

匿名掲示板やSNSで、他人の悪口や誹謗中傷を書き込んでおきながら。
「書き込みをスルーできない方が悪い」だとか「言論の自由」だとか、とにかく被害者に責任転嫁したい人間達の思考をまとめると、こんなところだろうか。

書きながら、吐き気がした。

この話ももうすぐ終わりだから、どんなに頭が悪くても理解できるように、はっきり書いておいて差し上げよう。

バレたくないのなら、最初からオフライン環境でやれ。
鍵つきだろうがなんだろうが、インターネットに掲載した時点で、いつかはバレる。
それが、早いか遅いかだけの違いだ。自分が考えていることを、どこで、どのように表現するかは各自の自由だ。敢えてオフライン状態にしておくことも含めて。

まず、そこの判断を間違えて他人を傷つけておきながら、なにが表現の自由だ。
笑わせてくれるな。

形が大きかろうと、小さかろうと。 被害者にとっては、等しく投げつけられた石でしかない。
自分を傷つけた、憎い存在でしかない。 それを投げつけてきた人間も含めて、だ。

ストレスが、孤独が、上手くいかない自分の人生が、などと言い訳をしながら許しを乞われた側が、どんな気持ちになるか。

そこに考えが及ばない時点で、被害者側からしたらお話にならない。
あとひとつ間違えたら、死ぬところだった!

誹謗中傷は、人を殺す。

誹謗中傷が社会問題になっている今の世の中で、それを知らないとは言わせない。
もし、自分には関係ないと思いながらインターネットやSNSを利用しているのなら、それはとても危険なことだ。 運転免許を持たずに自動車を運転しているのと変わらない。

ルールを守るからこそ、自由が認められる。
何の責任も負わない自由など、暴力と何が違おうか?

[言論の自由]が保証してくれるのは、自分の思考を表現する、そこの部分のみ。

その表現が他人の権利や尊厳を傷つけるものであった場合、自由は何の盾にもなってはくれない。 それを弁えられないなら、インターネットやSNSを使う権利はあっても向いていないから、純粋な情報収集以外の目的で使わないほうがいいと思う。

『匿名掲示板や、SNSは、元々そういう場所だから』

何度でも言おう。
技術とは、可能性を広げ、夢を繋げるもの。
決して、他人を誹謗中傷するための、他人を散々誹謗中傷しておいてその報いから逃れるための道具などではない。

今の匿名掲示板やSNSが、人が簡単に傷ついて病んでしまう場所になり果ててしまっているというのなら。 それは、元々無色透明だった場所を汚染させるような使い方をしてきた、全ての人間達の責任だ。

匿名掲示板やSNSそのものが悪いのではない。
それらはあくまでも道具、責任は自分の権利や自由ばかりに胡坐をかいて使い方を誤った、私達人間にある。

インターネットやSNSをどう使うかは、私達人間に委ねられている。
今の環境が汚染状態だからといって、自分が追加の汚染物質を更に投げ込んでもいい理由にはならない。まして、身勝手な理由で汚染物質を投げつけられて怒っている人間に対して「そういう場所に来た自分が悪い」と言い放つなんて、とんでもない話だ。

「スルーできないお前が悪い」などと、加害者の寝言にしか聞こえない。

加害者が書き込みさえしなければ、誹謗中傷は存在しない。
誹謗中傷が存在しなければ、そもそも被害者が傷つく必要はなかった。
そんなことすら理解できないような愚か者に、インターネットを使う資格はない。

理解していながら、それでも加害がやめられないのなら、それはもはや依存だ。
積もり積もった書き込みが、いつか誰かを殺してしまう前に、一刻も早くインターネットから隔離されてほしい。

今まで多くの夢を、可能性を、心を繋いできたインターネットを、人殺しの道具なんかにしないでほしい。

道具に罪はない。
罪があるとするのなら、それは、私達人間が背負うべきもののはずだ。

今回の誹謗中傷被害の裏で、約五年もの間抱え続けてきた、別の誹謗中傷被害がある。
敢えてここではこれ以上詳しく語らないが、誹謗中傷をされた側だけが全てを背負って生きていかなければならないのは、本当に理不尽だと思う。

誹謗中傷されて開示請求に踏み切ったとしても、加害者の利用環境によっては特定までいかない場合もあり得ること。権利の侵害が認められたとしても、その賠償は笑えるほど少ない場合が多いこと。

今のこの世の中の状況の何もかもが、加害者を甘やかして、更に調子に乗る原因を作っていると思う。

誹謗中傷が悪だと理解しているのなら、誹謗中傷をしでかして裁判沙汰になったような人間に、ネット回線を契約する自由を認めないでほしい。

「開示請求で正体が発覚してみたら精神的に問題がある人物でした、経済的に苦しいので謝罪も賠償もできませんが、大目に見てください」

決死の思いで開示請求に踏み切った被害者の前で、そんなことを言う奴がいるなら、ネット回線もろとも全ての端末を始末するか、完治したと医師が認めるまで病院に入院して治療を受け続けるか、選ばせてやればいいと思う。

顔も知らない他人に死ぬ思いを味わわせておいて、自分の病を言い訳に責任から逃れようとするなど、厚顔無恥以外に何と言えばいい?

今、誹謗中傷に苦しんでいる、気の毒なあなた。
もし、ここを読んでいるのなら。
どうか、自分の命を粗末にすることだけは。
それだけは、どうか思いとどまってほしい。

加害者には、あなたの命の価値は理解できない。

匿名に隠れて他人を誹謗中傷することが、いかに罪深いことか。
そんなことも理解できない程度の頭の人間達に、たったひとつしかないあなたの命をくれてやる価値なんかない。 悪口で他人の価値を無理やり引き下げて、自尊心を保っているような弱くて醜い人間達の戯言に、耳を貸す必要なんかない。

あなたは、誹謗中傷されて当然なんかじゃない。
そんな人間は、この世の中にひとりも存在しない。

[あなたを叩いてもいい理由]をでっち上げて、あなたを叩かないと自分が保てないちっぽけな人間のために、あなたが傷つかなくてもいい。

全てはあなたではなく、あなたを叩いている誰か自身の、弱さの問題なのだから。

私も、あなたも、誰も、理不尽に傷つけられても仕方がないほど、安い存在ではない。

生きている限り、人は何度でも変われる。
大事なのは、変わろうとする意志と覚悟。
それさえあれば、どんな事があっても生きていける。
踏みにじられたプライドを、取り戻せる。

誰に、どんなに踏みにじられようと、自分を愛してくれた人を信じて生き続ける。
自分を愛してくれる人達の願いに、思いに背かず、誠実に生き続けること。
それこそが、プライド。

与えられた命を途中で投げ捨てることなく、最後の最後まで生き抜く力。

悪行を照らす鏡を掲げ、陰湿な悪意に拒絶を告げよ。
さぁ、プライドを取り戻せ!

【完】
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