35 関係解消

「よしよし……、頑張ったね。お兄ちゃん」

「…………」


 夜の十時、今日はいつもより少し早くベッドに来た。

 普段ならもう少し居間でテレビを見たりするけど、今日はずっと気になることがあるっていうか、隼人のことを完全に無視したのは初めてだったからさ。ずっと俺のことを無視していたくせに……、一花が前にいる時は俺を必要としている。


 その利己的な態度に吐き気がした。


 とはいえ、一人しかいない友達と絶交をするのはそう簡単なことじゃなかった。

 もちろん、隼人とはもう話をしたりしないけど、長い付き合いだからちょっと引っかかる。どうして……、そこまで一花に執着するんだろう。諦めるのがそんなに難しいのか、一花じゃなきゃダメな理由でもあるのか、普通の女の子だろ? 一花も。


 そしてちゃんと俺の話を聞いて、それを受け入れたらこうならなかったはずだ。

 でも、あのアホはそうしなかった。

 お前が一花を諦めないから、ずっと意地を張るから、俺たちの関係も壊れてしまったんだ。俺のことを友達だと思ってないかもしれないけど、少なくとも俺は……大切な友達だと思っていた。


 今まで———。


「心配しないで、あいつはもう俺の友達じゃないから」

「うん! 今日のお兄ちゃん、すっごくカッコよかった! あのしつこい先輩をそう簡単に無視するなんて!」

「一花のためだからさ」

「でも、お兄ちゃん……まだその関係について悩んでいるように見える」

「えっ? ど、どうして?」

「長い付き合いだから、すぐ忘れられないよね? そしてあの時……自分の話を聞いたらこうならなかったはず……とか、考えていたよね?」

「どうして……、分かるんだ……。何も話してないのに」

「お兄ちゃんは分かりやすい! すぐ顔に出るからね。そして優しい私のお兄ちゃんならきっとあの先輩のことで悩んでいるはずだとそう思っていただけ」


 やっぱり、一花にはすぐバレてしまう。

 これを女の勘って言うのか。鋭い、一花には敵わないな。


「お兄ちゃん、知ってる? それはお兄ちゃんのよくない癖だよ」

「そ、そうか?」

「優しいのは私もいいことだと思う。でもね、みんなに優しくなる必要はない。お兄ちゃんのその優しさが今自分を苦しめている。人に嫌なことを言うの苦手でしょ? その一言を言うためにどれくらいの勇気が必要なのか、私は知っている」

「確かに……、そうだな。話をする時にいつも相手を意識していたような気がする」

「でしょ? だから、私以外の人には優しくならないで。そっちの方が楽だから」


 そう言いながらさりげなく俺のパジャマを脱がす一花だった。

 そしてゆっくりボタンを外しながら話を続けている。


「もちろん、私以外の人を全部無視してってことじゃない。必要以上のことを言わないでってことなの、簡単だよね?」

「よく分からない。俺の言い方に問題でもあるのかな?」

「うん、お兄ちゃんは優しすぎる。そしてその優しさは本来私の特権だったからね。幼い頃のお兄ちゃんは他人より私のことを優先してくれたけど、中学生になってから少しずつ『友達』という関係に気を取られてね」

「それは———」

「知っている。お兄ちゃんが何を考えているのか、ちゃんと知っている。でも、それ私より大事なの? お兄ちゃん」


 脱がしたパジャマの上着を床に落として、さりげなく俺をベッドに倒した。

 そして何気なく俺の体に乗っかる。

 まだ電気を消してないから、このまま俺の前で脱ぐとやばいことが起こるかもしれない。それになんであそこに座っているのか分からないけど、俺は早く冷静を取り戻さないといけない。そうしないと……、妹に欲情した変態になってしまう。


「ねえ、どうしてすぐ答えてくれないの?」

「一花より大事なのはない……よ」

「そうだよね? だから、私もひまりちゃんと絶交したの。お兄ちゃんがあの先輩と絶交したから、私も大切な友達を捨てないと……ね?」

「別にそんなことしなくても……」

「いらない。どうせ、友達という関係はいつ消えるか分からないくだらない関係だからね? 私は、私のそばにお兄ちゃんがいてくれるだけで十分。だから、私だけを見てお兄ちゃん。もう他人のこと……、考えないで。目の前にいる私より大切な人いないでしょ?」


 そう言いながら着ているパジャマを脱ぐ一花だった。

 やばい、その細い体とエロい下着が見えてくる。思わず目を閉じてしまった。

 そして一花の話通り……、友達という関係はいつ消えるのか分からないくだらない関係だ。俺は隼人のために頑張ったけど……、結果がこうなってしまったのは俺のせいじゃない。できないのは、どれだけ頑張ってもできないことだからさ。


「うん。俺に一花より大切な人はいない……」

「そうだよね?」

「てか、どうして俺の前で堂々と脱ぐんだよぉ……」

「お兄ちゃん、こういうの好きでしょ?」

「そ、そんなこと言ってねぇよ!」

「ねえ〜、目開けてよ。私を見て!」

「わ、分かったよ!」


 頬をつねる一花に目を開ける、そしてすぐ前に一花の顔がいた。

 やばい、唇がすごく近くて、本当にやばい。


「ふふっ。お兄ちゃん、体は素直だね? 可愛い♡」

「こ、これは不可抗力だ! 誤解だよ! 誤解!」

「嘘は通じないよ?」


 そしてニヤニヤしている一花が、脱いだズボンを床に落とした。

 また……、下着姿……! それに……いつもエロい下着ばっかり履いている……。

 それがすごく恥ずかしくてまた目を閉じてしまった。冷静を取り戻さないといけない! 無……! 何も考えるな。


「ねえ、こっち見てよ」

「恥ずかしいよぉ、一花」

「ええ。毎晩見てるくせに、今更?」

「でもぉ……」

「ねえ、お兄ちゃん! 私と約束をしよう」

「えっ? 今?」

「うん!」

「どういう……、約束かな?」

「今日から友達を作らないこと、そして他人と連絡先を交換するのも禁止。もし、連絡をしないといけない状況だったら、私にその内容を送ること! 一分以内に確認するから。難しくないよ、簡単な約束だよね?」

「…………」


 なぜか、すぐ答えられない俺だった。


「あっ、また! どうしてすぐ答えてくれないの? やっぱり……、私より大切な人ができちゃったのかな? お兄ちゃん」

「そ、そんなことない! 誤解すんなよ!」

「そう? じゃあ、約束して! そうだ、指切りをしよう」

「あっ、う、うん……」


 そのまま一花と指切りをしたけど、正直……ずっと悩んでいた。

 このままでいいのかと、一花の顔を見ながらそう思っていた。俺が一花に何も言わず、隼人とくっつけてあげようとしたのは100%俺のミスだ。でも、本当にそれでいいのか? 一花が自ら自分の友達関係を壊して、俺とこんな約束をするのは本当にいいことなのか? 分からなくなってきた。


「約束だよ? そして……、うん!」


 俺の前で両腕を広げる一花、それは……抱きしめてってことだよな?


「何してるの?」

「あっ、うん! ご、ごめんね! でも、服は———」

「肌の感触が好きだから」

「そ、そうだよな……」

「お兄ちゃんの方から来て、私にはお兄ちゃんしかいない。そしてお兄ちゃんにも私しかいないよね? 私のことを……、もっと愛して」

「…………」


 その言葉には敵わない。だから、すぐ一花の体を抱きしめてあげた。

 ぎゅっと……、一花がそんなことを言わないようにぎゅっと……その体を抱きしめてあげた。俺にできるのはこんなことしかないからさ。


「そこが……ブラのホックだよ?」

「えっ……? ど、どうしてそんなことを教えてくれるんだ?」

「外したいなら外してもいいよ。私の話を聞いてくれたお兄ちゃんにご褒美をあげたいから」

「あのさ、一花」

「うん」

「念の為、聞いておくけど……。これを外したら……、どうなるんだ?」

「分からない……。せっかくだから、試してみて……。そのホックを外したら私はどうなるのかな? お兄ちゃん……」


 もちろん、知っている。ホックを外したらどうなるのか、俺は知っている。

 それを聞いた理由は自分が何を言っているのか、自覚させるためだった。

 でも、試してみてって……。


「しないの?」

「当たり前だろ? 今のままでも十分恥ずかしいのに……、俺がそんなことするわけないだろ?」

「素直じゃないね。お兄ちゃんは」

「ね、念の為に言っておくけどな! こいつが元気になったのは俺の意思じゃないから! 一花が悪いんだよぉ!」

「うん? いきなり何を言ってるの? お兄ちゃん」

「……な、なんでもない」

「ああ、そういうことなんだ〜。口は素直じゃないけど、体は素直だからね。お兄ちゃんは」


 くすくすと笑う一花にやられてしまった。

 やっぱり、知っていたじゃねぇか。


「私のこと……好きにしてもいいよ、お兄ちゃん」


 そして耳元でそう囁く一花に、すぐ彼女と距離を取ってしまった。


「禁止!」

「何を?」

「その……、エッチな言い方! 禁止だ!」

「お兄ちゃんにそんなことを言う権利はない。そしてこっち来て、私はお兄ちゃんとハグがしたいから。全然足りない、!」

「あっ……、分かった……」


 すぐ一花のところに来てさっきみたいにぎゅっと抱きしめてあげた。

 そうか、俺には……そんなことを言う権利なかったんだ……。


「ひひっ♡」


 めっちゃ喜んでいる。


「ねえ、ドキドキしている。お兄ちゃんの心臓」

「そ、そうだよな。一応、生きているからさ」

「私の鼓動も聞いてみて! 私もすっごくドキドキしているよ?」

「あっ、うん……」


 一花の胸に耳を当てて、心臓の音を聴く。

 すごい、本当だ。本当にすごくドキドキしている。


「これで私がどれだけお兄ちゃんのことが好きなのか分かるよね?」

「う、うん……」

「大好き♡ お兄ちゃんのこと、大好き!!!」

「俺もだよ、大好き」

「えへへっ」


 そしてさりげなく俺の首を噛む一花だった。


「一花……!」

「おいひい〜♡」

「もう……、そろそろ寝よう! 時間、遅いからぁ……」


 そのまま一花とベッドに倒れてしまう。

 やっぱり……、噛まれるのは恥ずかしいな。


「はーい! 気持ちよかった〜」

「まったく……。ほら……、こっち来てよ」

「うん!」


 一花が俺の方から何かやってほしいって言ったから、今夜は……俺が一花を抱きしめてあげることにした。普段は逆だけど、これからは俺がやってあげないとな。こういうのが好きだよね? 俺に抱きしめられている一花がすごく喜んでいた。


 これが愛……。


「ねえねえ、お兄ちゃん」

「うん?」

「私は気にしないから……、私のこと好きにしてもいいよ。ホックの外し方分かるよね?」

「そんなことしねぇよ! 早く寝ろ!」

「はーい! 今夜はお兄ちゃんに抱きしめられてぐっすり眠れそう〜♪」

「はいはい……」


 そのままさりげなく一花に腕枕をしてあげた。


「おやすみ、一花」

「うん、お兄ちゃんも〜」


 あの日の夜、俺はまた一花と約束をした。

 その約束がだんだん俺のことを束縛しているような気がするけど、それでも約束をするしかない。約束をした後の笑顔がすごく可愛かったから……、そして約束をすると安心するからさ。


「ううん……、お兄ちゃん好きぃ……。私と……、結婚してぇ…………」


 三十分しか経ってないのに、すぐ眠れたのか?

 しかも、寝言まで言ってるし……、可愛いな。


「…………ふふっ」

 

 一花のそばでこっそり頭を撫でてあげた後、俺もすぐ目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年2月2日 20:00

いつも甘えてくる妹が実は『義妹』だったことを俺はまだ知らない 棺あいこ @hitsugi_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画