スワローズネストはホワイト企業です
連続更新、本当は三連続のつもりだったけど思ったより手こずってしまい泣く泣く二話連続更新です
すまない……本当にすまない……
◇
「この二日僕含めた社員全員死ぬ気で頑張って一週間くらい連休作らない?」
AR関連のベンチャー企業であり、近年メキメキと頭角を現して今や上場企業の仲間入りも秒読みと目される「スワローズネスト」。
VRの全盛期を迎える少し前、ARという拡張された現実に商機を見出した初代社長津羽目 鏑より事業と思想を受け継いだ二代目社長津羽目 風矢……初代が剛腕ならば敏腕と言うに相応しい二代目社長、年末の一言であった。
「………えーと、社長?」
「ホラ、ウチは確かに急成長してるけどまだまだ規模的にはそんなにだろう? 大口の仕事も済んだばかりだしここらで一丁死ぬ気で働いて年末に長めの休暇とかどうだろう? って話でさ……」
「良いと思います社長! ついでに正月にまた社員旅行しましょう! 今度もベガスで!!」
「多摩さんはちょっと黙ってて?」
風矢の手腕を疑うような社員はスワローズネストには存在しない。
貪欲かつ着実に規模を広げつつも無謀な拡張には手を出さない。
社員一人一人の技術力の価値を正しく認め、使い潰すのではなく長く良く使う方針。
そして何よりあのユートピア社との取引を成功させる類い稀な交渉術。
学生時代の頃から優れた才覚を見せていた人物とは聞いていたが、初代社長の頃からスワローズネストに所属する古株の社員達も先代と同等の信頼を置くことができる人物。
それが津羽目 風矢という男………だが、時折妙な提案をすることもある。今回もまた、その「妙」に分類される突然の長期休暇宣言に幹部に相当する立場にある社員達も困惑を隠せない。
「社長……もしかして自分が何か年末に用があるからとかじゃないですよね?」
「ははは、まさか」
「でも社長、昨日なんかメール見てものすごいニヤニヤしながらカレンダー見てませんでした?」
「多摩さん、次の社員旅行はマカオにしようか」
「社長の選択には何一つ間違いはありません! 社員全員分のライオットブラッド買ってきます! 経費でいいですか!?」
社内で「間違いなく有能だが結婚したら貯金がいつの間にか消失してそう」と評判(?)の女性社員が目に「カジノ」の三文字を輝かせながら走り去っていったのを見送りつつ、改めて風矢は口を開く。
「まぁぶっちゃけるとさ……その、シャンフロでイベントラッシュというか……」
「そこだけ聞くと自分の都合で社員酷使する酷い社長ですね……」
とはいえJGEでのAR技術の一任、スクラップ・ガンマンの発表などの大きな事業を全て無事に成功させたことでスワローズネストは忙しくなったのは事実だが……その二つが完了した事で多少仕事に余裕ができているのもまた事実。
そう、例えば……社員全員で二徹して頑張れば、今年分の仕事を全て終わらせることができるだろう。
「ですが二代目、その口ぶりだと普通に正月休みありますよね?」
「う゛……」
「ていうか年末に二日三日出勤するくらいなら「二十日辺りから三ヶ日まで全部休みにしようか!」とか言うつもりじゃないですよね?」
「ふふふ……冴嶋さんは父の代からウチで働いているからかな、僕の考えることが手にとるように分かるんだね……」
「それはもう、割と重要なところで大雑把になるのは先代そっくりですよ」
スクラップ・ガンマンの開発にあたり、口を出されると面倒なので両親に世界一周旅行のプレゼントという非常に平和的な追放手段を取った風矢であったが、やはりそれは間違いではなかったと改めて思う。
もしこの場に父がいれば、このようになんやかんやの流れで長期休暇を強行することは難しかっただろう。今アメリカの方らしいのでまだまだ猶予はある、少なくとも今年中に帰ってくる事はない。
「それにほら……やっぱり皆さん、年末はプライベートでもやりたい事は多いだろうし?」
「まぁ、そりゃそうですけど……」
「正直ありがたい気持ちはありますけどぉ……」
休めるならば、そりゃあ休みたい。少なくともホワイト企業を自認するスワローズネストに所属する社員達は仕事=手段として受け入れることができている。だが同時に、自分こそがスワローズネストを支えているのだと言う自負もある。
幹部クラスともなれば、目先の休み以上に半月近く会社を機能停止させて大丈夫なのかという心配の方が先に来る。
「一応現行のプロジェクトが一つだけで、新規の契約は来年に回せる。つまり二日くらいで仕上げれば休みが手に入るわけだよ」
流石に新たに入ってくる要件まで無視するわけにはいかないが、それを差し引いても実現不可能ではない。そして恐らく社員のほとんどはこれに賛同するだろう。
「いやぁ……出来るか出来ないかで言ったらまぁ出来るんだろうけど……」
「流石に今の規模で連絡窓口まで機能停止は不味くないですか?」
「メールに誘導するメッセージを残せばいい」
あれはどうするのか、それはこうする。しかしあれもある、そこは来年でいい。
まるで最初から答えを用意してきたかのように、淀みなく「年末長期休暇」を実現するべく弁舌を存分に駆使する風矢。社員達の目には社長の舌が二枚に見えたとか見えないとか。
決定打は、経費でエナジードリンクの箱を四箱担いで帰ってきた社員の血走った目。かくしてスワローズネストは聞く者が聞けば正気を疑いつつも羨望の眼差しを向けざるを得ない年末長期休暇に向けて、死への全速ダッシュを開始するのだった……
……
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◇
「やぁ………バイバアル。こっちは全部片付けた……………ごめん、夜まで寝させて。夜になったら王国でも恐竜でもなんでも、気が済むまで周回する、から、さ……」
『……ノイズかかってんのか? 声がヤベェくらいカスッカスなんだが』
「はは、は……地声、だよ……今の、ね」
追伸
来たる12月17日にコミカライズ版「シャングリラ・フロンティア」二巻が発売します!
一巻同様、硬梨菜が色々書き下ろしていますがシャンフロのあのシーンやこのシーンが大魔導師級漫画家不二涼介先生によって実体化しています!
みんな!よろしくね!!