曇天の夜空:ラスト・インターバル
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六秒。それが何やら笑顔で飛び込んできたプレイヤーの後ろにいたものを見て判断と行動に費やした時間の合計だ。
プレイヤーはまぁどうでもいいとして問題はその後ろにいるモンスターの大群だ、まさか奴の空腹を指摘した直後に餌が数を揃えて飛び込んでくるとは思わないだろう。
だが視点を変えよう、この突発イベントに俺が受け取れるメリットは存在するのかしないのか。
答えは「ボーナスタイム」だ。
「サンキュー! マジでサンキュー知らん人! そしてご愁傷様!!」
「え、は? ……えっ?」
既に意識から知らない人のことは消え去った。申し訳ないが実際にこの場からも消え去ることになるだろうしな。
奴と比較して初動に勝る俺がすべきは、六秒の中で行った聖杯とR.I.P.の使用に伴った栄養補給に他ならない。
そして知らない人よ、あるいはモンスタートレインを申し訳なく思っているなら気にしなくていいぞ。
俺も俺でナパーム搭載した戦車を引き連れているようなもんだからな。
「えっ、ちょ、ぎゃああああああああ!!?」
消耗したカロリーと可燃性粘液、それを補給する方法は捕食の他にはなく。そして今の"緋色の傷"に選り好みをする余裕はないはずだ。
恐らく俺と比較して初動に劣る"緋色の傷"が進行上に突っ立っていた知らない人……というよりも、棒立ちの「餌」に齧り付いている隙に俺は境光の宝剣とエアリアルPDを展開。
十種類かそれ以上の混成モンスタートレインの中からキルタイムが短く済むモンスターを判別しながら恐竜大行進の中へと飛び込んだ。
「馬鹿がよぉ! プレイヤーはゼロカロリーなんだよ!! ダイエットでもする気か兄弟!!」
見つけたぜ、普段はウザったい雑魚の大群も今この瞬間は満漢全席に見えるぜドラクルス・ディノトリアシクス!!
境光の宝剣は日中と夜間で性能が変わる二つ貌の剣。紅く輝く夜光刃はずばりシンプルな斬撃の飛び道具化、だがこの「飛ばす斬撃」はちょっと面白い性質がある。
「悉く死ね、そして悉く俺のバフとなれ……!!」
境光の宝剣には貯光とでも言うべきゲージがあり、日の光に当たるほど夜光刃の飛ばす斬撃の使用回数が増え、その逆に月の光を浴びせる程にもう一つの旭光刃の使用回数が増える………そう、増えるのは「回数」だけだ。
振り抜いた境光の宝剣から真紅の斬撃が放たれ、片手の掌になら乗りそうなサイズのディノトリアシクスの一体を容易く斬り裂いた。
境光の宝剣の能力は使用者のステータスに依存する……!!
スイングする際に参照されるSTRやDEX、TEC、そして何よりAGI……! 俺というプレイヤーが根本的に不足させている火力をR.I.P.のキル数に比例したステータスボーナスで補強! そして高まったステータスによって威力の上がった夜光刃の飛ばす斬撃でさらにキル数を稼ぐっ!!
「群れろ雑魚共!! 食事の時間だァーーーッ!!」
と、ここで"緋色の傷"が追いついてきた。オードブルとしてお出しされた知らない人が二号人類故になんの腹の足しにもならない寒天以下のゴミだったことで、もはや俺への怒り以上にのこのこやってきた餌共へ捕食者として血走った目を向ける。
どうやらトレインの狂乱にノってきたモンスター達もここに来て気づいてしまったらしい………あの知らない人は哀れに逃げる餌などではなく、己らを食卓の皿に連れて行くハーメルンの笛吹だったのだと……
「しゃあねぇ、どちらにせよデカブツは時間効率が悪いから俺の腹には収まらない。くれてやるよ……最終ラウンド前のインターバルだ、最後の晩餐は豪華にしなきゃなぁ!!」
俺は謙虚で少食なのでディノトリアシクスとディノラプトル辺りの小粒で十分だからサ………欲しいのはでかい肉の塊じゃなくて積み上げた屍の総数だ!!
夜光刃とて無尽蔵に撃てるわけではないが、しかしキルスコアの蓄積によってスイングの威力が上がれば飛ばす斬撃は複数の敵を巻き込んで飛翔する。
背後でトレインに混ざっていたサラブレッドトリケラの悲鳴が聞こえる。ミチミチミチブチゴキベギョッ!! みたいなとんでもない音がしているんだが何が起きてるんだろうなー、後ろ見る余裕ないから分からないなー。
奴もまた急速なエネルギー補給を行なっている、妥協すれば退くはこちらになるのだ。命を奪え! 悉く死に晒せ! この黒き喪服はその為の正装!!
「少なくともてめーは一匹たりとも逃がさん!!」
ドラクルス・ディノトリアシクスは掌サイズの恐竜が最低十数体の徒党を組んで襲ってくる群体型のモンスターだ。言い換えればそれは下限であって多い時は五十体、噂では百体を超える大軍勢で大型ドラクルス・ディノすら仕留めているなんて話もある。
今回トレインにいるディノトリアシクスはどうも二つの群れが合体したのかおよそ三十体、回転寿司かな? 根こそぎ死んでくれ。飛ばす斬撃によって三匹のディノトリアシクスが吹き飛び、3キルがスコアに加算される。
「もっと! もっとだ!!」
逃げるな! 背中に弾丸叩き込むぞコラ! もう叩き込んだけどな!!
いいねいいね、奴の鱗を貫く為に不足していたPowerの高まりを感じる。さぁここからが本番だ、武器を切り替えろ選手交代だ!!
……
…………
………………
あれほどまでに騒がしかったモンスタートレインは今や、屍すらも残らない静寂に上書きされた。生きている者はただ二つ。
何匹倒した? 四十から先は数えるのが面倒になった……だが、覚えていることは一つ。
「コイツを片手で振るには充分なキルスコアって事だ」
別離なく死を憶ふ。「サンラク」というプレイヤーのステータスにはあまりにもそぐわない特大剣は、しかし数多の死を吸って今やナイフのように軽い。
使用者への体感負荷を軽減する、という特異な剣はひとたび何かに叩きつけたならばその見た目通りの重圧をもって命を断つだろう。
だが対する"緋色の傷"もまた、インターバルを充実と共に過ごせたらしい。
俺が手を出さなかった中、大型のモンスターを片っ端から仕留めたらしい三つ頭の恐竜は、先程の疲労によるものとは異なる戦意と殺意、そして活力に満ちた白い吐息を吐き出していた。
流石にHPまでは完全回復していないと思うが、それでもスタミナに関してはリセットされたと見ていい。対する俺はR.I.P.のデメリット効果により実質的に回復の一切を自らの手で封じてしまった。
「上等、HPなんざ0以外は全部似たようなもんだしな」
HPなんて1か0の違いでしかない、あとは固定ダメージを素受けする時の必要量。だがこの戦いにおいて被弾のほぼ全ては致死量のダメージなのだからやはり体力など1あれば充分なのだ。
「夜明けは近いぞ"緋色の傷"、最終ラウンドだ!!」
次で終わるかな?