「40-16÷4÷2」の答えは?
一般に上で述べたように、一意性を示す証明では、「条件を満たす2つのものがあったとすると、実はそれらは等しくなる」という証明法は一つの方法である。
算数で習う「計算規則」は次のものからなる。
・計算は原則として式の左から行う。
・カッコのある式の計算では、カッコの中をひとまとめに見て先に計算する。
・×(掛け算)や÷(割り算)は+(足し算)や-(引き算)より結びつきが強いと見なし、先に計算する。
ようするに、この計算規則では、3つの規則を守れば、答えは一意的に定まるということである。
実は「ゆとり教育」が始まった21世紀になった頃、IT立国になったインドと日本の算数教科書を比べてみたことがある。
日本の教科書では、最初に計算規則を教えて、すぐに計算練習に移っていた。一方、インドのそれは最初に、計算規則がないと答えはいろいろと出ることを以下のように例示する(正解はエ)。そして、だからこそ計算規則が必要だと理解してもらってから、上記の3つの規則の紹介に移るのであった。この方が、規則の重要性がよく理解できるのである。
40-16÷4÷2
=24÷4÷2=6÷2=3……(ア)
40-16÷4÷2
=24÷4÷2=24÷2=12……(イ)
40-16÷4÷2
=40-4÷2=36÷2=18……(ウ)
40-16÷4÷2
=40-4÷2=40-2=38……(エ)
40-16÷4÷2
=40-16÷2=24÷2=12……(オ)
40-16÷4÷2
=40-16÷2=40-8=32……(カ)
「因数分解、素因数分解」の一意性
素数とは、2,3,5,7,……のように、1とそれ自身以外では割り切れない数のことである。算数で学ぶ素因数分解は、たとえば
60=2×2×3×5
のように、素数の順番を除いて、素数の積として一意的に表せる。
実は、これの証明は高校数学でも学ばない。しかし、高校数学+αとして考えると学ぶことができるので、拙著『新体系・高校数学の教科書(上)』の補章で述べておいた。ちなみに本質的には、その証明法は前出の誕生日当てクイズの一意性の証明と同じで、素因数分解を2通りに表せる整数があるとして、実はそれはたった1つの表し方になることを示すのである。
中学や高校では、
xの2乗-5x+6=(x-2)(x-3)
のような因数分解を学ぶ。
実は因数分解も素因数分解と同じように、一意的に表せる。この一意性の証明は、大学の専門的な代数学にある「素元分解整域」というものの世界での一意性の証明に頼れば示せる(拙著『今度こそわかるガロア理論』を参照)。