pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴

【東方】同じ花なら愛する指に手折られたい - 過酸化水素ストリキニーネの小説 - pixiv
【東方】同じ花なら愛する指に手折られたい - 過酸化水素ストリキニーネの小説 - pixiv
8,361文字
【東方】同じ花なら愛する指に手折られたい
君を好きになってもいいかな?
1621666,889
2012年1月3日 17:02



 うちにある最も大きい置時計が正午を告げた。心臓を叩くような重厚な低音が大図書館に響き渡る。

「なんでここには時計が無いの」
「図書館に時計は不必要」
「なんでさ」
「図書館とは読書の空間。読書はすべてから自由でなければならない。何ものにも縛られてはならない。時間もまた然り。時間に拘束された読書など、本来の読書の在るべき姿からはかけ離れているのよ。よって必要が無い。必要が無いものは置かない。必要なのは知識の詰め込まれた本とそれを読む為の少しの空間、そして知識を得るべき私自身。それだけがここに在れば良いのよ」
「あー、はいはい。わたしが悪うございました」
「判れば結構」

 うず高く積まれた本の山の中に、埋もれるようにして知識をあさる本の虫の頭だけがこちらから見えた。
 ここに長時間いると時間間隔が狂いそうだ。地下深くで窓も無く外の光も届かないわたしの自室にさえ、時計はある。とかく自由なこの魔女は、どうやら時間という概念からも解放されているらしい。
「それで、妹様にしては随分長くここにいるのね。お目当ての本が見つからないのかしら」
「まぁね。具体的にこういう本って決まってないから、余計に探しにくいのだろうけど」
「あら、ここには古今東西どんな本でも眠っているというのに。何を御所望なの?」
「……笑わないでくれる?」
「笑われるような恥ずかしい本などここには無いわ。すべからく皆素晴らしい本達よ」
「じゃあ、……」

「若い女の子と会話出来るようになる本」
「ぶはっ」

 ほら見ろ、笑ったじゃんか。


 ◆


「やっぱりさ、わたしには無理だったんだと思うよ。誰かと建設的な関係を築くなんてさ、引き籠りニートで根暗なわたしには土台無理な話だったんだよ。しょうがないんだって」
「どうしたのよ、どうしたのよ。いつになくネガティブじゃない」
「わたしがネガティブじゃない時があった?」
「無いけど」
「じゃあほっといて」
「相談したいのか放っておいて欲しいのか、どっちよ」
「どっちも……」
「面倒くさい子ねぇ」

 わたしの髪を撫ぜるお姉様の指先から、クランベリーの甘酸っぱいにおいがほのかに香った。
 クランベリージャムのロシアンティー。勿論ジャムは、あのメイドのお手製だ。
 クランベリーは、わたしが好きな果物。ロシアンティーは、最近お姉様がハマッている紅茶の楽しみ方。

 あぁもう。
 こういう気遣いが、厭になる。
 あのメイドは何も悪くないのだけど。何が悪いのかと言えば、わたしの性格が駄目なのだろうし。
 憂鬱だ。
 ジャム瓶のふちを舐めるくらい好きなクランベリージャムも、完璧なメイドの気遣いも、猫に触るように触れてくるお姉様の指先も。
 全部が全部、今日は脳味噌ミキサーの中でフルシェイクされて憂鬱のジュースが出来る。お味は最悪。狗でも食わない。あのメイドは食うかもしれない。
 あぁもう。

「何がそんなに気に入らないの? 何がそんなに不満なの?」
「別に気に入らないとか、不満がある訳じゃないんだよ」
「咲夜とデキてるんでしょう?」
「さささささ流石にななな何も出来てないよ?! そんなオトナの階段のぼってないよ?!」
「赤ちゃん作った? なんて誰も聞いてないわよ。どうやって作るのよ。魔法か。……付き合ってるのスラングよ」
「おっおおお、お姉様がややこしい言い方するからぁ」
「貴方、賢い割にこういう俗語知らないわよね」
「そっ、それに、付き、合って、る……なんて……同性同士に使う表現じゃないでしょ……っ」
「うわーなんか妹のこんな一面をこんな状況で見たくなかったわーなんか彼氏を家に連れて来られた父親の気分だわーうわー萎えるわー」
「何言ってるか判りませんけど……」
「妹を応援したい大人な私と、妹を取られたくない子どもな私とがグングニル持って一騎打ちしてんのよ」

 そう言ってお姉様は明後日の方角を見つめながら、これ見よがしにため息をついた。
 足がわたわたとせわしなくぶらついている。お姉様が何か我慢したくない事を我慢している時の仕草だ。

「咲夜とうまくいってないの?」
「何がどうなってるとうまくいってると判断して良いのか、まずそこから悩みどころだけどね。まぁでも、咲夜は悪くないんだと思うよ。別に何かあった訳じゃないし」
「じゃあどうして貴方はそんなつまんなさそうな顔して生活してるわけ」
「咲夜とどう接して良いのか、判らなくなっちゃって」

 本当はお姉様とこんな話はしたくなかった。
 だって、本来、こんな話はお姉様にすべきではない。自分の妹と信頼を置くメイドとの関係があまり芳しくないなんて、聞いていて楽しい話題では決してないのだから。お姉様が聞きたくないような話をしたいとは思わない。わたしは誰かと話をするのがそんなに得意じゃないから、猶更そう思う。話をする以上は楽しい話題が良いし、話していて実のある会話が良いと思う。
 でも、わたしにはお姉様しかいないから。
 安心してどんな話題でも振れる相手なんて、お姉様以外に誰もいない。いつでも誰かの眼を気にしてうろうろしているわたしには。

「元々、誰かと深い仲になろうと思った事なんか無かったから」
 お姉様と咲夜が一緒にいる姿を見ているだけで良かった。しあわせだった。ふたりがふたりでいる背中が、いっとう大切だったのに。
 咲夜の気持ちに触れてしまった。咲夜の想いを知ってしまった。
 そしてそれを、――しあわせだと思ってしまった。
「咲夜はわたしに色々してくれるけど、わたしがしてあげられる事なんか無いし」
 遠くから見ているだけで満足だった花を、摘み取ってしまった。
 それはわたしなどではなく、お姉様の為に咲いている花だったのに。
 気まぐれに、たまたまこちらを向いていて。気まぐれに、たまたま香りがこちらに届いただけなのに。
「咲夜はやさしいから、わたしの事、可哀想だって思ってくれたんだよ。好きなんかじゃないんだよ。咲夜はまだ若い人間だし、すごくやさしいから、可哀相を好きだと勘違いしちゃっただけなんだ。だから、だから――……」
 花はすぐ枯れるから良いと、わたしが壊すまでもなく消えてしまうから好きなのだと、そう思っていた筈なのに。
 大切な花を、お姉様だけの花を、わたしが壊そうとしているのではないか?

 だから、わたしが壊してしまう前にいなくなって欲しい。
 わたしの知らない場所で、しあわせになって欲しい。
 わたしの傍ではなくって、お姉様の傍がおまえのいるべき場所なのだと。

「前言撤回」
 今までになく冷たい口調で、お姉様が言った。
 さっきまでの笑顔はなくなって、厳しい眼でわたしを見ていた。
「貴方みたいな子に、咲夜をあげたくない」
 それは、本当にどうしようもない否定だった。どうしようもなく、わたしの心臓をえぐった。
「咲夜に今の貴方をあげたくないし。咲夜もフランドールも、まだ私のものよ」


 ◆


 日課の植物園巡りをしていると、一輪、ほとんど元気を失っている花を見つけた。咲夜がくれたセントポーリア(花言葉は「小さな愛」。咲夜の影響ですっかり花言葉に詳しくなってしまった)で、葉が焼け爛れてしまっていた。これはいけない、と鉢植えに入れて美鈴のもとへ持って行った。
「あちゃー。セントポーリアは直射日光に弱いんですよ」
「パチュリーの作った人工太陽じゃきつ過ぎるんだね」
「ですねぇ。私の部屋の窓際なら丁度良い日光が当たると思うので、肥料やりながらしばらく様子見ましょう」
「お願い」
「というか、日光無しでも育つ魔法でもかけたんじゃなかったですっけ」
「なんか、それだと新しい花持ってくる度にしなきゃいけないじゃん? で、咲夜がひっきりなしに新しい花持ってくるからパチュリーが厭になって、いっそ人工太陽作るーって言い出したっていう経緯」
 今では人工太陽がさんさんと輝いている。ただ、わたしの都合で消したりつけたりという調節が出来ないので、寝ようとしても隣の部屋が煌々と光を放っていてちょっと寝にくい。
「って、妹様、大丈夫なんですか」
「何が? 人工太陽? ぎりでいけるよ」
「吸血鬼凄いですね……」
「お姉様だって日傘一本で天然太陽の下出歩くしねぇ」

「既に日光無しでも生きてゆけるようになってしまった花々はどうなるんでしょうね」
「さぁ。咲いてるから大丈夫なんじゃない?」
「まぁ、花は生命力に溢れてますからね」
「そうなの?」
「意外ですか」
「花って、生命力からは縁遠い存在だと思ってたけど」
「そうでもありませんよ。必ず種子を作って、未来を子に託します。したたかなんですよ」
「そっかぁ」

「したたかで綺麗で、まるで咲夜みたいだね」

 自分で言って、数秒後にはとても後悔した。もはや咲夜はわたしのトラウマフレーズである。
 昨日のお姉様との会話とか全部思い出して厭になってきた。正確には、厭というか辛くなってきた。
「どうしたんですか、妹様」
「あー、うん……美鈴さ、なんか面白い話してよ」
「いきなり無茶ぶりっすか」
「この世の絶望すべてをなぎ払うような爆笑必至ネタで頼む」
「ハードル上げ過ぎでしょ。無理ですよ。こんだけハードル上げてネタ言ってもシケ笑いしか出ないですよ」
「しけたー」
「まだ何も言ってませんって」

「いやさぁ。ほんと、どうやったらひとと上手く会話出来るようになるんだろね」
 冗談めかして言ってみたが、それはまさしくわたしの本心だった。
「妹様は会話が上手い方だと思いますけどねぇ」
「あぁうん、お世辞でも嬉しいよ美鈴」
「お世辞言うならお嬢様に言いますって。お給料あのひとから出るんですし」
「なんだこの生々しいフォロー」
 冗談か本気か判断が分かれるところである。
「妹様ご自身が思う程、下手とは思いませんよ。これは本当」
「どうでもいい事はいくらでも言えるんだよ。でもやっぱり、話してると凄く疲れるししんどいし厭になってくるし、心から言いたい事はなんにも出て来ないし」
 独り言なら得意なんだけどな、と笑った。美鈴は笑ってくれなかった。
 美鈴は、思ったより真剣な顔をしていた。

「そういうものですよ。言いたい事言えない時もあるし、言っちゃいけない時もある。言わなきゃいけない事も言えないで、どうでもいい事ばっか言っちゃって、言わなくていい事言って駄目になる。誰だってそうでしょう。それで厭になっても、明日になったらまた誰かと言葉を交わしてる。みんな誰かと関わりたいんですよ。そうやって失敗しながら、時々こぼれる本当の言葉を拾いたくてまた言葉を重ねてる」

 話していると凄く疲れるから、すぐに部屋に引っ込んでしまう。騒がしいのが苦手で、引き籠ってばかりいる。壊してしまうのが怖くて、何もしなくても勝手に消えてしまうものばかり愛でようとする。
 そんなわたしでも、毎日誰かと一言二言でも声を掛け合うし、紅魔館の中ではどこへでも行くし、お姉様と咲夜の並んだ背中を愛している。
 わたしは、関わりたいのではないか。
 あたたかい何かに、時々逃げ出しながら、それでもおそるおそる手を差し出しているのではないか。
 そしてみんな、わたしから逃げずに笑いかけてくれるのだ。

「言わなくていい事ばっか言ってどうしようもないわたしだけど、それでもこうやって美鈴と話してるのは、美鈴と関わりたいからなのかな」
「そうだったら嬉しいなぁ。だって私はもっと妹様とお会いしたいし、お話ししたいですもん」
 それに、と美鈴は付け足した。
「さっきの言葉は、言わなくていい事なんかじゃないと思いますよ」
「さっきの言葉?」
「咲夜さんの話」
「あぁ、……どう、だろね」
「それこそ、本当の言葉ですよ。妹様」
 そうして、にっこり笑ってくれた。
「お世辞でも、本当に嬉しいよ」
「お世辞じゃありませんよぅ。妹様にお世辞言ってどうすんですかぁ」
「じゃあ、お姉様に言っとくよ。美鈴はお姉様のご機嫌伺いにお世辞ばっかり言ってるらしいよ、って」
「ぎゃーん! やめてください! お世辞言ってません! 全部本心です!」

 誰かと話すのはとても疲れるし、わたしにとっては普通のひとが思うより簡単な事ではないけれど。
 それでもやっぱり楽しいと思うから、こうして言葉を交えるのだろう。


 ◆


「本日は何色に致しましょう」
 咲夜はいつも聞いてくれるが、わたしの答えがあの日から変わった試しはない。
「咲夜の、好きな色」
「では、本日は桔梗色にしましょうか」

「それさぁ、咲夜の瞳の色と一緒だよね」
「まぁ、秘密にしていましたのに」
「あ、やっぱ意図的にやってたんだ。それだけ消費すんの早いしね」
「私の瞳がいつでも妹様の傍にありますよう、願いを篭めて色を重ねるのですわ」
「よくそんなクサい台詞言えるよ」
「妹様だけです」
「きゃあ恥ずかしい。たはは」
「本当なのに。酷いですわ」

 一瞬沈黙して、喉まで出かかった言葉を咀嚼した。言うべきかどうか考えた。
「お姉様を怒らせちゃったんだ」
 咲夜の言葉が欲しくて、言った。
「それはまた、どうして」
「咲夜はわたしの事を可哀相だって思ってくれただけで、それを好きだって勘違いしただけなんだよって言ったから」

 今度は咲夜が、沈黙した。
 わたしの手から、わたしの両眼に視線を移して。
 捨てられた犬みたいな眼だった。
 咲夜は何も言わなかったけど。
 その眼は幾億もの言葉より重大な意味を孕んでいた。
 瞬きひとつしないで。
 泣きそうな顔だった。
 怒りそうな顔だった。
 唇が震えている。
 言葉は、出て来ない。
 わたしを待っている。
 唇からこぼれた吐息が、行く宛もなく彷徨った。

「好きって、難しいよ。咲夜。わたしには、とても難しい。嫌いって感情を全部破壊して、残ったものが好きって感情? たぶん違うよね。ほら、わたし、誰かとこんな関係になった事なくって。お姉様の事は大切だし、正直わたし自身よりよっぽど大切に思ってる。この世の何を失ってもお姉様だけは失いたくないとも思ってる。でもやっぱり、好きとはなんだか違う。好きって、なんだろう? 咲夜がわたしにくれる感情って、それは何? どんなにおいがして、どんな味がするの? どんな音がして、どんな声をあげる? どんな感触がして、どんな色をしているの?」

 言わなくて、いい事なのかもしれない。
 でも、言わなければいけないと思った。
 これを言わなければ、わたしの本当の言葉は見つからない。

 咲夜はしばらく黙ったままで、捨てられた犬みたいな眼のままで、わたしを見ていた。ベッドに座っているわたしとカーペットに跪いている咲夜とでは、眼の高さが全然違う。咲夜をわたしを見上げるようにして、わたしは咲夜を覗き込むようにして。ふたりで沈黙を見つめ合っていた。
 ずきり、頭の奥の方が痛んだ。

「もしも、……」
 咲夜の眼に、さっと冷たい風が通ったように見えた。
 わたしたちは今とても近しい場所で瞳を重ねているから、手に取るようにお互いの気持ちが判ってしまうのだ。
 わたしの瞳に映る咲夜は、とても傷付いていた。踏みしだかれた花のようだった。それでもまだ、枯れていない。
 咲夜には判ってしまう。わたしの気持ちが、咲夜と違う事。咲夜の心にあるあたたかいものが、わたしには無い事。
 ごめんね、と言いたかった。言うべき言葉だった。けれどわたしは咲夜の言葉を待っていた。わたしの瞳から咲夜の瞳へ、ごめんねが伝われば良いとだけ願った。
「もしも、お嬢様と妹様が、どちらかは必ず死んでしまう運命にあったとします。どうしようもなく、そのお命が喪われてしまうと確定しているものとします。おふたりの能力を以ってしても、おふたりがおふたりとも救われる未来はどうしたって有り得ないのだとします。そして私に、どちらか片方だけを救える権利が、あるとしましょう。たくさんの疑問や矛盾はどうかお考えにならないで。そういう状況が、有り得たのだと承知してください。私は、おふたりのどちらかを救って、どちらかを殺す事になります」
 咲夜は必死だった。それが瞳からありありと判った。
 わたしはそれを冷たい眼で見ていた。咲夜の瞳に映るわたしはどこまでも、冷たい眼をしていた。

「私は、十六夜咲夜は、お嬢様をお救いします」

 おまえがそう言うって、知ってたんだ。咲夜。
 ぐらぐらと、眩暈がした。ずきずき、頭が割れそうに痛い。喋り過ぎたんだ、今日は。疲れきってしまったんだ。
 それでも、咲夜の言葉がまだ終わってない。

「お嬢様をお救いして、妹様、貴方と共に死にます」
「死んで、どうするの……?」
「どうもしません。一緒に死ぬだけです」
「そんな事したって、どうしようもないよ。その場合、咲夜は無駄死にするって事だよ」
「貴方様はそう思われるかもしれません。でも、それが私の感情です。さっきの貴方様の問いかけの、私の精一杯の回答です」
「一緒に死ぬのが、好きって事?」
「私はお嬢様に御恩があります。私はあの方に尽さねばならぬ忠義があり、あの方に示さねばならぬ矜恃があります。あの方の身に降りかかる災厄は、私がすべて払わなければいけない。あの方が喪われる機会などあってはならない。生きていてもらわねばならないのです。それが私の忠心です」
「お姉様は幸せ者だね。良い従者に恵まれてる」
「お嬢様のいない世界に生きている意味はありません。けれど、妹様のいない世界に生きている理由はありません」

「好きって、難しいね」
「妹様、顔色が優れませんわ」
「あぁ、うん……ちょっと眩暈するだけ」
 世界が揺らぐ。耳鳴りもし始めた。あぁ、駄目だ。ひとと話し過ぎるとすぐにこうなる。
 なんでこんな、駄目なんだろう。

 どうしてこんな駄目なわたしを好きになっちゃったんだい? 咲夜。後悔するよ、きっと。
 わたしなんかと一緒にいたって、なんにも良い事ないんだぜ? 
 おまえの気持ちも判ってあげられないのに、どうしてそこまで想ってくれちゃうんだろうね? 
 でもね、咲夜。

 おまえと死ぬのも悪くないかなって、ちょっとだけ、思ったよ。

「咲夜ってほんと花みたいだね。――とっても、きれいだ」
 それだけ、ずっと言いたかったんだ。


 ◆


「話し過ぎて倒れるって、ちょっとそれは初めて聞くわね。小説の主人公でもそんな話は聞かない」
「ひととお喋りするの怖い病。発症者、わたしだけ」
「でしょうね。面白いわ。また調べてみよう」
「あー、その前にさぁ、パチュリー。ちょっと本探してくんない」
「何かしら。また若い女の子と会話出来る本? ぷーっくすくすくす」
「せめて隠して笑えよ。今度は全然別」
「あら、ここは古今東西どんな本でも眠っている秘密の楽園。何を御所望なの?」
「恋愛小説、ありったけ持ってきて」
「妹様が恋愛小説!」

 世にも珍しいパチュリーの大爆笑は、その後十分間程大図書館の中を響き渡ったという。


 ◆


 例のセントポーリアは息を吹き返したらしく、わたしの部屋に帰って来た。人工太陽の光は強過ぎるので、鉢植えに入れたままベッド横の暖炉の上に飾った。ここなら弱い光しか当たらないから丁度良いだろう。

「貴方、好きよねー。花。うちは花が好きな子ばかりだわ」
「女の子らしくて良いじゃん」
「まぁね。私も何か育ててみようかしら」
「お姉様には向いてないんじゃない? 大雑把だし、すぐ飽きるでしょ。あ、サボテンなら育てられそう」
「失礼な。サボテンくらい知ってるわ、あんまり水やりとか肥料あげなくて済むお手軽な植物でしょ」
「絶対合ってるじゃん」
「ふん。花なんか育てなくても結構。一番の花は私自身なのだし」
「うわなんか言ってるよあのひと」
「なんですって」
「いいやぁ何もぉ」

 まぁ、咲夜は花だと思うよ、と言いかけたが、これは言わなくていい事だろうと思って言わないであげた。お姉様の自尊心的に。
 セントポーリアを見た。まだいくつかつぼみが残っている。
 つぼみが芽吹く頃、わたしにも何か進展があれば良いな、と思いながら。とりあえず今は出来る事を色々とやってみようと思う。

 セントポーリアの小さな愛が花咲かせるその日まで。



【東方】同じ花なら愛する指に手折られたい
君を好きになってもいいかな?
1621666,889
2012年1月3日 17:02
コメント
真黒
真黒
レミリアがいい保護者してますね。恋とはよくわからないものですけどこういう考え方も良いかもと思いました。
2012年1月8日

ディスカバリー

好きな小説と出会える小説総合サイト

pixivノベルの注目小説

関連百科事典記事