まひろ(紫式部/吉高由里子)が女房として仕える中宮彰子(見上愛)の住まい・飛香舎(ひぎょうしゃ)は、後宮の殿舎の一つで、壺(中庭)に藤を植えたことから「藤壺」ともいわれています。大河ドラマ「光る君へ」で建てられた内裏(だいり)・藤壺の、女房たちの局(つぼね)に関する美術についてご紹介します。
◆◆ デザインコンセプト ◆◆
「藤壺」の北側にある女房たちのバックヤード。およそ二間角の部屋が横一列に並び、各部屋は用途に応じて引物(ひきもの)や壁代(かべしろ)で仕切られ、それぞれ1~2名で使用する。「吹抜屋台(ふきぬきやたい)」と呼ばれる平安絵巻に特徴的な室内の様子などを俯瞰(ふかん)する構図をイメージし、ドローン撮影が可能な設計をした。
廂(ひさし)には着替えスペースや化粧スペースなどがあり、後宮に上がったまひろは『源氏物語』執筆のために、道長の計らいで特別に個室を当てがわれた。ここでも「藤壺」を象徴する藤の壺(中庭)を背景に、紫雲柄の几帳(きちょう)や御簾(みす)の紫野筋などで、藤色=紫をキーカラーにした調度品で装飾。三日月の硯(すずり)・竹文様の水差し・牛車(ぎっしゃ)の筆置き・兎(ウサギ)の文鎮などの文机(ふづくえ)周りの筆記用具は、“ドラマの重要なキーアイテムである月”と“希代のストーリーテラー紫式部”、それらを結ぶ『竹取物語』をモチーフに、装飾スタッフが厳選したこだわりの飾りである。
――横一列に並ぶ女房たちの部屋
彰子に仕える女房たちが寝泊まりをしたり、支度を整えたりするバックヤードは、彰子が過ごす生活空間とは襖障子(ふすましょうじ)を隔てた「藤壺」の北側にあります。
母屋(もや)内は、柱2本ごとに区分けされた部屋が横一列に並んでおり、各部屋は1~2名で使用します。
【引物と壁代】
各部屋は、用途に応じて引物や壁代で仕切っています。当時の「藤壺」がこのようであったかはわかりませんが、何かしらの道具で仕切っていたであろうと考え、引物や壁代を用いました。「光る君へ」では、芝居がしやすくなり映像もより映えることから透け感を大事にしており、主には引物というレースカーテンのようなもので部屋を仕切っています。
けれども、プライバシーの確保も行なわれていたでしょうから、寝る際などには、壁代という透けない幕を下ろせるようにデザインしています。
【吹抜屋台】
屋内描写に際して、屋根や天井を省き、柱と梁(はり)を残して斜め上方から俯瞰(ふかん)するように描く手法を「吹抜屋台」といいます。平安絵巻に特徴的なこの特殊な建築描写を、映像として視聴者のみなさまにご覧いただきたいと考え、室内の様子などを俯瞰する構図をイメージしてドローン撮影が可能な設計を施しました。
各部屋は引物や壁代で仕切られていますが、これらが取り付けられた柱の上部はあえて壁をなくし、ドローンが横一列に並んだ部屋を横断するための通り道を確保しています。
――三日月の苔(こけ)の山の上に立つ松藤
「藤壺」の北面の壺(中庭)にも、彰子が過ごす南面の壺と同様に、砂ずりの藤が松に絡みついた松藤をあえてシンボルツリーとして配置しました。北面の壺はまひろが日常生活を送る空間であることから、松藤を支える苔の山は三日月の形としています。「光る君へ」では、月を眺めるまひろや藤原道長の象徴的なシーンがたびたび描かれており、北面の壺にも月をあしらっています。
――『源氏物語』執筆のために用意されたまひろの部屋
中宮彰子に女房として仕えながら内裏で『源氏物語』を執筆することを道長から依頼されたまひろには、女房のリーダー格である宮の宣旨と同等の部屋が用意されており、柱2本ごとに区分けされた二間角の空間を一人部屋として使用することを許されています。
部屋の西側は執筆スペースとなっており、机や書棚などが配置されています。まひろの部屋にも紫雲の几帳が置かれていますが、彰子の生活空間にあったものとは異なり、こちらには蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)は施されていません。
【筆記用具】
装飾スタッフのこだわりが詰まったまひろの筆記用具。筆置きとして使用しているのは、牛車の置物です。もともとは筆置きとして作られたものではありませんが、当時の人たちもこのような小さな置物を個々の使い方で生活の中に取り入れているのではないかと想像を膨らませ、牛車の置物をまひろの筆置きにしました。
また『源氏物語』には『竹取物語』に言及した部分が何度か見受けられ、紫式部が『竹取物語』を重んじていたことが伺えます。そこでまひろの筆記用具には『竹取物語』を想起させる要素があしらわれており、硯には三日月が彫り込まれ、水差しには竹文様が施されています。
【書棚】
書棚には紙や巻子が整頓して置かれていますが、紙の上にあるのは兎と三日月の文鎮です。
青い布で包まれているのは、越前和紙です。「光る君へ」では、越前和紙は青い布で包まれて保管されているという設定にしています。
【檜扇(ひおうぎ)】
道長がまひろに褒美としてプレゼントした檜扇。表面には幼いまひろと三郎が出会った思い出のシーンが、裏面には中宮彰子の高燈台にも蒔絵としてあしらわれていた蛾(ガ)が描かれています。
――女房たちの着替え&化粧スペースを兼ねた北廂
当時、廂は廊下(ろうか)としてだけではなく、部屋としても活用されていました。「藤壺」の北側の廂には、中宮彰子に仕える女房たちの着替えスペースと化粧スペースを設けています。
西側にあるのは、着替えスペースです。唐櫃(からびつ)の上には色とりどりの絹や糸束が置かれており、衣服に香をうつすための伏籠(ふせご)や裁縫道具などの調度品が並べられています。各自の部屋で着替えることもありますが、北廂のスペースで女房たちが着替えをしたり、衣服の手入れを行ったりができるようにしています。
一方、東側は化粧スペースです。櫛(くし)、鋏(はさみ)、鏡、盥(たらい)、泔坏(ゆするつき)などのさまざまな化粧道具が並べられています。
――女房たちの生活を再現
「藤壺」の北側は、女房たちが起床してから身支度を整えるまでの一連の芝居が行えるようにデザインされています。再現された平安時代の後宮における女房の生活を、ぜひ映像でご覧ください。
① 蔀戸(しとみど)を上げて明かりを取り込む
② 着替えをする
③ 顔を洗う
④ 髪の手入れを行う
ちなみに、「藤壺」の北側と南側は、同じセットを一部飾り替えて収録しています。柱を抜いたり、壺の松藤を組み替えたりと、北側と南側がまったく同じには見えないようにさまざまな工夫を行いながら「藤壺」を表現し、撮影に臨んでいます。