吉高由里子さん演じる主人公・まひろ(紫式部)や柄本佑さん演じる藤原道長など、大河ドラマ「光る君へ」を彩る登場人物の衣装人物画のデザインを担当された諫山恵実さんに、デザインの制作過程や込めた思いなどについて伺いました。
――オファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
連続テレビ小説「スカーレット」(2019年)でお世話になったチーフ演出の中島(由貴)さんが「光る君へ」の取材で京都に来られた際に食事に誘っていただいたのですが、「『光る君へ』ですか! 大変じゃないですか」などとおしゃべりをしていたら、「衣装人物画を誰に頼むか迷っているのだけれど、やりませんか?」とお話をいただいて! 「光る君へ」が制作発表されたときには、自分事になるとはまったく思っていなかったので、“すごい冒険に出会ったな”と驚きました。
――衣装人物画デザインとは、どのようなお仕事をされているのですか。
カラーコーディネートですね。登場人物に合わせて、“かさね”の色目などを提案させていただく仕事になります。発案された方の意向を受けて衣装を書き起こす作業を何度か担当させていただいたことはありますが、ここまでガッツリとした衣装の仕事は「光る君へ」が初めてです。探り探りではあるのですが、提案させていただいた色を衣装に反映してくださっているのを目の当たりにし、自分がこの作品に関わらせていただいているんだなと実感し始めている感じです。
平安時代の色使いは“果てしない”というイメージがあり最初は怖かったのですが、勉強をしていくと決まりごとも結構あるのだとわかり、少し安心しました。また、季節感を出していくとなると使える色が限られるため、その中で人物ごとの個性をはっきり立たせるのは難しいなと感じていたのですが、いろいろと相談をさせていただく中で“季節感はいったん忘れ、人物ごとにテーマカラーを決める”という方針となり、かなり自由度が増したので助かっています。
――主人公・まひろは、どのようなイメージでデザインをされているのですか。
まひろのテーマカラーは「紫」というのが決まっていて、「紫」をいかすようにデザインしています。宮中での女房衣装についてはこれから話を詰めて進めていくところなのですが、オレンジ系の色を当てると「紫」が映えるのではないかと考え、序盤の衣装では「紫」を差し色としてオレンジ系に合わせました。一族で雰囲気を統一したいなとは思っていて、ちやはをはじめ、まひろの家族はオレンジ・黄色系でまとめています。
私は理屈っぽいので、当初は必要以上に文献などに縛られがちでした。けれども、制作統括の内田(ゆき)さんが「女の子がネイルを楽しむような感覚で、袖に集まった色で個性をアピールしたり、ウキウキする楽しさっていいよね」とお話ししてくださり、以降は純粋に「かわいい!」「きれい!」「美しい!」と思うことをやっています。正直、昔の色の感覚に、私がどこまで情緒的に落とし込めているのか不安はあるのですけれど、制作したデザインは風俗考証の佐多(芳彦)先生がご覧になり、「ちょっとくすみすぎているよ」「これはこの時代の色ではないよ」などとアドバイスをくださるので、安心感がありますね。「この時代、『片身替わり』OKだよ」とも教えていただけたので、安倍晴明の装束ではかなりワイワイと相談しながらデザインすることができました。「片身替わり」というのは、すべて一色ではなく、例えば左の袖だけ色を変えたりすることなのですが、自由度が増してとても楽しかったです。
――役柄の年齢や立場によっても違いを出したりしているのですか。
絶対的な規則ではないとは思いますけれど、年齢が増していくほど落ち着いた色合いにするという意識は持っています。立場に関しては、「だんだん派手になっていくタイプ」「最初からシュッとしたセンスのあるタイプ」というように人それぞれだとは思いますが、基本的には私が考える上品さを大切にしています。立場が上がっていくにつれて、これ見よがしに紋が入っていくというようなことではなくて、光の加減で上品な雰囲気や衣の美しさが映えるようになればと思います。
――諫山さんが思う、平安時代の装束の魅力はどのようなところにありますか。
色の発想がすばらしいですよね。デザインでは見えるところだけを提案させていただいていますが、出来上がった衣装を実際に着用されているのを拝見すると、裾が分かれたところのドレープの中にさらにグラデーションができたりしていて、「こういうことか!」となります。当時の人々が、ちょっとした四季の移ろいであったり、旬なものであったり、葉っぱにたまる露ひとつで“かさね”の色目を思いついていたのは、すごい解像度でモノを見ていたからこそだと思いました。すごい美意識。平安時代の色の合わせ方って、「なんでこの色とこの色でこんなにまとまるのか」と思わされるものが、たくさんあるんですよ。匂いの“かさね”も徹底して上品なグラデーションになっていて、かっこいいです。
――たくさんの衣装をデザインされていると思いますが、「ここを見てほしい」というポイントはありますか。
カラーコーディネートを見るだけでも、とても楽しいと思います。主要登場人物以外でも、女房の方々からお付きの従者に至るまで、ひとりひとりがかわいいです。「ああいうのもありか!」と自分の好みの色合いを探しながら、ご覧になるのもおもしろいのではないでしょうか。