大河ドラマ「光る君へ」

躍動せよ!平安の女たち男たち! 創造と想像の翼をはためかせた女性 紫式部

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題字・書道指導 根本知さん ~まひろが道長へ送る、秘めたる想いを題字に込めて

「ひらがな」の発達により紫式部による長編小説『源氏物語』や、清少納言による随筆『枕草子』などが誕生した平安時代中期。大河ドラマ「光る君へ」の題字は、「仮名」を得意とされ、主演の吉高由里子さんをはじめとした俳優のみなさんへの書道指導も担当される根本知さんが書かれました。制作の過程や一つ一つの文字に込めた思いなどについて伺いました。

大河ドラマ「光る君へ」題字

――どのような過程を経て、題字が決定したのでしょうか。

題字のオファーをいただいたのは、書道指導としてチームに加わってからでした。題字と書道指導は違う方が担当するものだと思っていたので、とても驚きました。決定までに相談の場を4回、設けていただきました。まず1回目は、私から希望して“私がどのくらいの書風を書けるのか”を紹介させていただきました。筆や墨を変えることでさまざまな表現ができることをお見せしたかったんです。
これに伴い指定されたのは、「横書き」ということです。理由を伺ったら、「テレビは横型なので、題字を画面に大きく表示するには横書きのほうがいい」とお話ししてくださいました。しかし、正直悩みましたね。私は仮名を得意としており、基本は縦書きなんです。横書きだと字をつなげにくくて…。しかも「光る君へ」は、漢字・仮名・漢字・仮名の順じゃないですか。せめて間に仮名が2つ並んでいれば、そこで文字をつなげて平安時代らしさを出せるのに、私の得意としていることができないんだなと。でもすぐに、漢字の「漢」には男という意味もあるから、基本的に女性が使う仮名と、男性的な漢字の双方を、しっかり意識して制作したほうがいいんだろうなとは思いました。ですので「光る君へ」の題字は、漢字に寄り添った仮名ではなく、また、仮名に寄り添った漢字でもない、両者が入り交じったような感覚で書くことを目標にしました。
しかも、1回目にお見せしたときには「読めません」とも言われてしまって…。例えば、「光」。初めは草書体で書いていたのですが、「火」に見える可能性があると指摘を受けました。でも、提出した案の中でも「この雰囲気は好きです」と言っていただけたものがありましたので、2回目はそれを煮詰めたものをお持ちしました。

――2回目では、どのようなところを工夫されたのでしょうか。

字が潰れてはいけないとか、読みやすくなければならないなど、気をつけるべき点が改めてわかったので、それを踏まえて試行錯誤を重ねていきました。その中でも、1回目にお見せしたときに「る」と「へ」についても「読めない」と指摘を受けていて、この仮名の2文字をどのように表現するかを、特に悩みました。たぶん平仮名の中で最も格好がつかない2文字が「る」と「へ」だと思うんですよ(笑)。変な形をしているんですよね。
まず「る」ですが、現在の「る」は2画目が左側に長くて下で丸くなります。けれども、平安時代の「る」はどちらかというと数字の「3」に近い雰囲気なんですね。私としては現在の形の「る」は書きたくありませんでした。しかし、それでは「見慣れない」と指摘をいただきましたので、2画目を左に出し過ぎることなく平安時代の「る」を匂わせながら、でも読める、という間を取った形で書きました。
次に「へ」ですが、平安時代の「へ」はカギカッコのような「へ」ではなく、現在の「つ」のような横線が入るんですね。私は14歳から仮名の世界にいるので、それが当たり前になっているのですが、やはり一般的ではないんです。そこで、左側を短くし、右側を長くするように書きました。
さらに、3回目に見せたときに「ポップに書いていただけませんか」との相談がありました。ですが、「みなさんがいうポップってどんな感じだろう」と…。そのときに、ふだんは音楽を聴きながら作品を書いているという話をしたんです。

――どのような音楽を聴かれているのでしょうか。

私はずっと、ちあきなおみさんの曲を聴きながら作品を書いているんですね。例えば、「雨に濡れた慕情」とか。母がスナックのママをしていて、ちあきなおみさんの曲をよく歌っていたので、とても親しみがあるということもあるのですが、仮名は和歌に取り入れられるものなので、リズムを感じながら安心したいという思いが自分の中にあるのかなと思います。
仮名文字は毛先が命で、文字を書いたときに出るピンと張った1本線のことを「命毛(いのちげ)」というのですが、これがキレイに出るかどうかが仮名のすべてなんですね。かなり神経を使うことなのですが、ちあきなおみさんの、のどが大きく開いたところでピーンと細い音を出して歌われるところが私の仮名の書き方の理想な気がして、高校生のころからずっと、ちあきなおみさんの曲を聴きながら書き続けています。
漢字を書くときは男性の曲を聴きたくなるので、ナット・キング・コールですね。今回は仮名と漢字が交ざった題字だったので、ちあきなおみさんとナット・キング・コールの曲を聴いていました。
この話をしたところ、みなさんが考えるポップなミュージックをいろいろ教えてくださって、それぞれの「私が思うポップはこれ」というのが、音楽を通じてわかりました。言葉ではわからなかったタッチが、音楽でわかるというのは発見でしたね。改めて「書はリズムだな」と思いました。

――では、4回目ではどのような相談があったのでしょうか。

本当は3回目で終わるはずだったんです。けれども、ここで私が勝手に縦書きの題字も持っていったんですよ。やっぱり「縦も見てもらいたい!」という思いがありまして。それは私がただ楽しく書いたものだったのですが、「縦もいいね!」と言っていただけて、時間はなかったのですが、あと1週間、頑張らせていただくことになりました。そこからが、また大変でしたね。悩みに悩んで。そんな中、演出の方からお電話をいただき、アドバイスをいただいたんです。「筆法とかをすべて抜きにして、まひろ(紫式部)が藤原道長に対して、恋心とは簡単に決めつけることができない秘めたる思い、ソウルメイトとしての信頼、そして、志を託すような思いが入り交じった中で恋文を書いたとして、その最後の宛名を道長様ではなく『光る君へ』ともし書いたとしたらどんな題字になるかを見てみたいです」と。
震えましたね。その言葉を経て書いたのが今回の題字です。つかみどころのないものに対して手を伸ばすように、まひろと道長が入り交じるような感じで、最後の「へ」の線も止まっているように見えるけれども、空中でハネて最初の「光」の一画目に戻るように、すべてを一筆書きで書いているようなイメージで書き上げました。

――「光る君へ」をとおして、“書”の認識がどのように変わることを期待されていますか。

私は博士号を取ることで展覧会書道から退いたわけですが、それは、違った道で仮名の表現や日本の書道の良さを伝えたいと思ったからなんです。美しい字で手紙を書きたいと思ったときに、みなさんは字を大きく書いて練習されることが多いかもしれませんが、実際には小筆を使う機会のほうが多いと思います。「光る君へ」をとおして「小筆」の重要性が伝わり、全国の書道教室に「小筆のクラス」ができることが私の夢でもあります。小筆の需要が増えて、小筆のクラスができれば、暑中見舞いや年賀状、芳名帳、手紙などを手書きにしようという方が増えてくれるのではないかなと。それが一番の望みです。
   
   

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