大河ドラマ「光る君へ」で描かれるのは、千年以上読み継がれる長編小説『源氏物語』の作者・紫式部の生きた時代。吉高由里子さんが、主人公・まひろ(紫式部)を演じます。雅(みやび)やかな貴族文化が大きく発展した平安時代中期は、“日本らしい”美しさが花開いた時代です。
今回のドラマでは、藤原道長など時代を動かした高名な貴族たちが大活躍します。華麗な世界を描くため、美術セットのあちこちに平安時代ならではの美意識を込めました。
ドラマの美術チームが打ち出したデザインコンセプトとは…。
◆◆ デザインコンセプト ◆◆
「平安絵巻の世界を色鮮やかによみがえらせる」 「平安らしさの追求」
紫式部が著した『源氏物語』を絵画化した国宝『源氏物語絵巻』は、12世紀前半に制作されたと考えられ、現存する日本の絵巻の中で最も古い作品といわれています。時代の経過とともに現在は色があせてしまっていますが、制作された当時はとても色鮮やかなものでした。そんな美しい当時の平安時代をよみがえらせて視聴者のみなさんにタイムスリップしていただけるように、セットや小道具、衣装などの随所にもさまざまな工夫やこだわりをちりばめています。
――ドラマの登場人物が際立つ色彩を
当時の貴族は、季節に合わせて服装の色の組み合わせを変えて、オシャレを楽しんでいました。しかし登場人物の衣装を季節に合わせすぎてしまうと、みなさんが同じような色合いになってしまい、平安絵巻で見られるような美しい世界をお見せしたいのにもかかわらず、映像として必ずしも色鮮やかではなくなってしまいます。このため季節に伴う色の組み合わせについてはあまり厳密にはなり過ぎないように、藤原道長の家族は寒色系、源倫子の家族は暖色系というように、ざっくりと色分けを行っています。
主人公・まひろについては、「まひろ(紫式部)が紫をまとわなければ、ほかにまとえる人はいない」と考え、紫のものを身に着けてはいますが、まひろが紫式部と呼ばれるようになるのは、まだまだ先の話です。このため、最初から紫を出し過ぎないように人物設計が行われています。まひろの衣装のどのようなところに紫があるのか、また、その色がどのように変化していくのかにも、ぜひ注目してください。
――本物を見て細かなディテールまでをセットに注ぎ込む
平安時代の町並みや建物を再現するため、その面影を残した寺社や庭園を美術チームが実際に訪れて取材し、細かなディテールにもこだわってセットなどに反映しています。例えば、奈良の法隆寺を訪れて平安時代中期でもそのまま使用できる門を参考にしたり、丸柱を研究するために同じく奈良の薬師寺を訪ねたりと、平安時代よりも前の時代に建てられたものでも、平安絵巻の世界をよみがえらせるためにその一部が参考になるとわかれば、実際に足を運んで本物を目に焼き付けたうえで、セットなどの制作に生かしています。
また、現存する京都御所は幕末に建て替えられたものであり、建てられてから200年近くが経過しています。これをそのまま「光る君へ」のセットにすると平安時代のものとは少し面影が異なってしまうため、建築考証の三浦正幸さんや風俗考証の佐多芳彦さんに当時と現在とでどこが違うのかについてもアドバイスをいただき、それを踏まえたうえでドラマセットとして作り上げています。
――絵巻物が伝える「白木の丸柱」を“エラストマー”で再現
美術チームのこだわりの一つが「白木の丸柱」です。『源氏物語絵巻』をはじめ、『年中行事絵巻』、『伴大納言絵巻』など、当時の姿を今に伝える絵巻物では美しい白木色の丸柱がよく描かれています。時間の経過とともに柱などの建材は徐々に茶色く色づいていきますが、建てられた当初は美しい白木色。そこで「光る君へ」では、建てられてから10年くらい経過した色合いを目指して、内裏(だいり)や上級貴族の屋敷などのセットを制作しています。
そのために今回採用されたのが、“エラストマー”という素材です。この素材は、木材を削った際の跡だけではなく、木目の表情まで細やかに拾うことができる優れものです。そこで、宮大工さんに当時も使用されていた槍鉋(やりがんな)で丸柱を1本削っていただき、その型で制作した“エラストマー”の丸柱に塗装を施してセットに使用しています。この“エラストマー”は砕いてさまざまなものに再利用することが可能であり、環境にもできる限り配慮をして、ドラマ制作を行っています。
――ロケによるスケールの大きい世界観
平安時代中期の京の町並みや大内裏(だいだいり)の朱塗り建築の世界は、京都の平安神宮などでロケを行い、撮影しています。既存の建物を生かしながら、平安時代のさまざまな要素を新たに加えることで、人々の往来や大規模なイベントなど、スタジオでは不可能なスケールの大きい世界観を創り出しました。
美術チームが屋根裏や床板などの細部に至るまで徹底的にこだわり、色鮮やかによみがえらせた平安時代中期で紡がれる主人公・まひろの物語を、存分にお楽しみください。