塩野瑛久しおのあきひさ
俳優
1995年生まれ、東京都出身。2012 年にデビュー。13 年、『獣電戦隊キョウリュウジャー』にレギュラー出演した後、舞台「里見八犬伝」、映画『HiGH&LOW THE WORST』などに出演。ドラマ『Re:フォロワー』『不倫をコウカイしてます』『ぼくの人格シェアハウス』では主演を務める。NHK では、創作テレビドラマ大賞『佐知とマユ』、正月時代劇『陽炎の辻完結編~居眠り磐音江戸双紙~』などに出演。大河ドラマ『光る君へ』では一条天皇を演じる。
- 50音
- 「し」
僕が演じた一条天皇は、竜笛(りゅうてき)がうまいことで有名で、撮影でも演奏するとのことだったので、クランクインの前にかなり練習しました。初めは鳴らすことすら難しく、いっぱい練習すればいいということでもなくて、とにかくリラックスすることが大事。ひと言で言うなら、“心の内が出る”楽器でした。
一条天皇は、定子(高畑充希)を生涯愛し続けたと言われています。事前に史実を調べている段階では気づけなかったのですが、現場に入って演じてみると、苦しい時間が多かったんですよ。周囲の貴族たちとの関係や民のための決断と、定子への想いがここまで反発し合うものなのかと思いました。僕は定子を一途に思うことだけを意識し、高畑さんのすばらしい演技から2人の関係性を膨らませていただく感覚で演じていました。
僕はほとんどの場面で座っていて、自分より目上の人がいないので避けなくてはならない所作も少ないのですが、ゆったりとした時間が流れているような空気感が欲しいなと思いながら演じています。自然な人間らしい話し方と、帝の高貴な雰囲気を融合させる難しさを感じました。
天皇を演じる役者にとって、御簾(みす)の存在はとても大きいです。公卿の役の皆さんが並んでいるとき、僕は御簾の中に入ってしまうのですが、向こうからは僕の姿が見えないらしく、あいさつをしても全然目が合いません。「帝って孤独なんだ」と感じる日々でした。
だからこそ、御簾を越えてきた人とのお芝居は、やっと人間らしく会話ができて、よりいっそう心に染みる時間でした。特に母の詮子(あきこ/吉田羊)が夜、制止されるのをふり切ってみずから一条に進言した場面が印象に残っています。心の距離がぐっと近寄った瞬間で、吉田さんの勢いと緊迫感を思い出すと、とても感慨深い気持ちになります。
出演が決まったとき、企画書を見ても「どういう風に進んでいくんだろう」とあまり想像がつかなかったんです。そこで過去の放送回をいろいろ見せてもらったのですが、町田啓太さんがお芝居を交えながらすさまじいスピードで社会情報を解説されていて。「この番組、すごいな」と思いながら新鮮な気持ちで楽しませていただきました。
『光る君へ』の収録が始まってすぐのタイミングで、「短歌」を解説する回に出演しました。番組の中で僕が詠んだ「大役と初出演の重圧を背負って渡るは愛満ちる河」という歌は、僕がSNSに投稿していた大河ドラマへの意気込みをまとめていただいたものです。
この短歌、『光る君へ』の脚本を担当されている大石静さんのラブロマンス感も出ていますよね。大石さんの脚本を読んだのは『光る君へ』が初めてでしたが、演出の皆さんや役者に委ねてくれる余白の部分も含めて、とてもおもしろいと思いました。共演者の皆さんが「どう表現すればいいんだ!?」と言いながら楽しそうにしているのがよくわかります。
僕自身、言葉遊びが好きなので、短歌も自分と遠いものだとは思っていなかったんですよ。でも、短歌の起源や、どういった時代の変化があって流行が起こったのかといった経緯は、見ていてとても勉強になりましたし、今もまたSNSを通して短歌が流行っていることも新しく知ることができました。
視聴者参加型のミステリー番組で、僕は途中で殺害されてしまう小劇団のリーダー・浅井を演じました。浅井を殺した犯人の謎だけでなく、番組全体がとても複雑な仕組みになっていて、本を読んでいる段階では実はあまり理解できていませんでした。現場に入って撮影が進み、完成して初めて「こういうことになっていたのか!」と全ぼうを知ることになりました。
死体の演技は、いつどんな画角で撮られているかわからないため、とりあえず呼吸を止めてじっとしなければなりません。証拠映像は登場人物がスマホで撮った設定なので、長回しも多かった分、大変だった覚えがあります。
撮影は泊まりがけだったのですが、宿がドーム型で、ドラゴンボールみたいだったことが思い出に残っています。おもしろい形で印象的だったので、自分のSNSでつぶやいたほどです。
僕の顔のホクロの位置が変わっていることから、証拠映像が反転していることが判明し、それがきっかけで謎が解明します。番組の放送時間に、リアルタイムでホクロの位置に気づいた視聴者の方がメッセージを投稿すると、それが探偵たちに届いて事件解決に…いまだにちょっとわからなくなります。追いつけた方、いたのでしょうか(笑)。
鈴木道場の門弟を演じ、山本耕史さん演じる磐音(いわね)に四刀流で挑むという役どころでした。もともと僕は、舞台で六刀流のお芝居をして、それを知った演出の方が、「四刀流で行こう」とおっしゃってこの形になったんです。
でも舞台のほうは、一本一本が軽くて柄も細い。このドラマでは、ふつうのサイズで、何ならちょっと重めの刀を4本渡されまして(笑)。われながらすごいことをしていたなと思います。放送時、視聴者の方々からもSNSで「びっくりした」とツッコミをいただいた記憶があります。
四刀流は僕の役だけなので、ひとりで稽古を受けました。実は殺陣師の方も、四刀流には手をつけたことがなかったようで…。「僕は六刀流をこうやっていました」「その持ち方からこう変形させて戦うんです」とお見せしたら、「それで行こう」と言っていただけました。
さらに本番はとにかく足場が悪くて、コンディションとしては最悪の日でした。本当はもうちょっと上手くできた気もします。でも、このシーンのおかげで耕史さんがとてもおもしろがってくださり、仲良くしていただくようになりました。大きな出会いをくれたことに感謝している作品でもあります。
初めて出演したNHKのドラマで、マユ(広瀬アリス)の恋人を演じました。撮影中は、広瀬アリスさんの表現力のすばらしさに驚かされた記憶があります。二人が部屋にいるシーンの撮影の合間に、アリスさんが歌を口ずさんでいた思い出がよみがえります。久しぶりに当時の自分の演技を見返してみて、まだまだ若いなという気持ちはありますが、思ったよりはちゃんと演技できていました(笑)。
僕が演じた亮介は、マユが妊娠したことを知りながらいなくなってしまう、軽薄なキャラクター。本人が未熟で悪気がないのが一番の要因なので、「悪役を演じるぞ」という心意気よりは、命の大切さに向き合ってこなかった無自覚な印象を心がけていました。
このとき、役づくりのためにナンパを経験してみようと思い、初めて一人でクラブに行ってみたんですよ。女性に声をかけようと、ものすごく顔を近づけても全然話している声が届かないし、疲れてしまってそれを機にちょっとクラブが苦手になってしまいました。「もういいや」って…。
振り返ってみると、若い女性の貧困や妊娠、育児放棄という重いテーマを扱った挑戦的なドラマでしたね…。今まで見たことがないくらいのリアルな出産シーンは印象に残っていますし、こういう作品にしかないドラマティックな迫力を感じていました。その中に参加できたことはとてもうれしかったですし、僕にとってはリハーサルを初めて経験したこともあって、ドラマを丁寧に作ることのすばらしさを学んだ作品でした。