中宮として一条天皇(塩野瑛久)を懸命に支え、最期まで献身的に寄り添った藤原彰子。女房として仕えるまひろ(吉高由里子)をどのように思っているのか、一条天皇と定子(高畑充希)の皇子・敦康親王(片岡千之助)は彰子にとってどのような存在なのかなどについて、演じる見上愛さんに伺いました。
――時間の経過とともに彰子が自分の思いを言えるようになってきましたが、特にきっかけとなった出来事は何だったと思いますか。
幼いころは自分の気持ちをどのように表現したらいいのか、その手段がわからなかったのだと思うんです。「余計なことを言ってしまうくらいなら黙っておこう」というような考えもあったと思います。でも、まひろが一条天皇に対していろいろと意見を言ったり、『源氏物語』が宮中で広がっていく姿を見るうちに少しずつ変化していったのかなと。中でも、第35回でまひろが、「あなたは自分のことをこういう人だと決めつけているけれど、私が知っている中宮様はこんな人よ」と話してくれて、勇気を出して一条天皇に告白したシーンは大きな一歩を踏み出したきっかけになったと思います。
私としても、彰子が自分の気持ちを初めて人にしっかりと伝えたシーンだったので、印象深いです。
――彰子にとってまひろはどのような存在だと感じますか。演じる吉高由里子さんの印象も教えてください。
女房さんたちはみんな本当に尽くしてくれて、気を使ってくれていると思うのですが、やはり中宮と女房という立場の差を感じるんです。けれどまひろは、もちろん尽くしてはくれているけれども、本音を包み隠さず話してくれて、「中宮だから」という接し方ではなく、“ひとりの人間”として見てくれることが信頼につながったと思います。
吉高さんは、本当にすごい女優さんだなと思います。撮影スケジュールが詰まっていたり、セリフ量がすごく多いときでも疲れた顔ひとつ見せずに、常に現場を笑いであふれさせる人間力がすばらしいですし、お芝居をするとセリフひとつひとつがすんなり響いてくるので、心が動かされてばかりです。
――彰子の心を動かす存在としては敦康親王もキーパーソンだと思うのですが、彼にはどのような思いを抱いているのでしょうか。
敦康親王がまだ小さかったころは、息子のようであり、弟のようであり、“守るべき存在”として大切に接していたと思います。そしてその過程で、なんとなく敦康親王が自分に向けてくれている想(おも)いにも気づいてはいるけれども、彼の将来を考えたうえで、ひたすら優しく、あまり距離が近づきすぎないように意識して接しているような気がしますね。
敦康親王がいてくれたから広がった世界もあるし、抱いた感情もあるので、どうか立派に成長して、ゆくゆくは一条天皇の志を継ぐような東宮になってほしいと心から願っていたのですが…。
――その願いは、左大臣・道長によってはねのけられてしまいましたね。
そうですね。ここまで自分が信頼されていないとは思っていなかったので、ショックでした。帝(みかど)の中宮は自分だし、お父さんがこのまま暴走していくかもしれないと思うと、「どうにか止めなければ」という気持ちが大きかったです。
彰子としては、帝が大切にしてきた思いや考えが無視されるようなことが起こって悲しさや怒りを感じたというのももちろんありますけど、それ以上に、自分の周りだけの問題ではなく、国全体の問題として感じている部分も結構あったのではないかなと思います。
――彰子から見た一条天皇は、どのような人物でしたか。
優しい方ですよね。「民の心を鏡とせねば、上には立てぬ」というセリフがありましたけれど、それはきっと過去に定子さんにゾッコンで政治をおろそかにしてしまったことがあるからこその償いの意味もあるのかなと思うんです。そういうちゃんと悔い改められる強さとか、民と同じ目線で物事を考えようとする心の広さみたいなものを彰子に対しても感じました。最初は「彰子に嫌われている」と思っていたみたいで、目も合わせてくれない時期もあったのですが、それでも時々、「大事ないか」とか「元気か」と声をかけてくれていたので、本当に優しい方だったと感じています。
―― 一条天皇の最期をどのような思いで見届けましたか。
悲しみと、絶望感とで、何も先が見えなくなるような、信じられないような思いになりました。すぐには受け止められなかったですね。私も一条天皇もお互いに心を開けない期間が長かったからこそ、思いを打ち明けられるようになって、心が通じ合うようになってからは、志を共有して良き夫婦になれるだろうという最中(さなか)での死だったので、本当に悲しかったです。