愛する中宮・定子(高畑充希)と離れ、落ち着かない日々を送る一条天皇。天皇として貫きたいと思っている信念、母・詮子(吉田羊)への思い、左大臣・道長(柄本佑)をどう思っているかなどについて、演じる塩野瑛久さんに伺いました。
――今回はオーディションで一条天皇役に選ばれたと伺いましたが、出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
今まで大河ドラマも連続テレビ小説も何度かオーディションを受けていたのですが、役をいただけたのは今回が初めてです。正直、「僕はNHKさんにそんなにハマらないのか…」と諦めかけていたところだったので、すごくうれしかったのと同時に驚きも大きかったです。
――撮影に向けて準備したことはありますか。
まずはクランクインの前から龍笛(りゅうてき)をかなり練習しました。でも、いっぱい練習すれば上達するというわけでもなく、ある程度リラックスをして吹くことが大事な楽器なので、毎日自宅にいるときでも、目に入ったら何分か吹いてとにかく慣れるということを心がけました。
あとは所作事に関して言うと、やはり天皇という立場なので、優雅な歩き方と、ほかの人よりもゆったりと時間が流れているような空気感を意識しています。これまであまり発したことのないような言葉をスラスラと言えるように、話すスピードはゆっくりめに、一条天皇の人間らしさと帝としての高貴な雰囲気を融合させる難しさを感じながら日々頑張っています。
――平安時代特有の文化で興味深く感じていることはありますか。
御簾(みす)の存在はすごく大きいなと思います。僕からは公卿(くぎょう)のみなさんのことは見えているんですけれど、向こうからは見えていないらしくて。現場に入り「おはようございます」と挨拶をしても、「どこから聞こえているんだろう…?」みたいな感じになってさみしくなることがあるんです(笑)。「帝って孤独なんだな」と感じる日々ですね。でもだからこそ、あの御簾を越えて中に入ってきた人とのお芝居がよりあたたかく感じるし、心に染みるなと思います。逆に距離感がグッと近づくからこそ怖く感じてしまうこともありますけれど、何よりやっと人間らしく会話ができると思えてうれしくなります。
―― 一条天皇はどのような人物だと思いますか。
幼いころに即位させられたとはいえ、自分が天皇になったからには国を良くしたいという思いは強い人だと思います。でもやっぱり立場上いろいろと決めなければいけないことがありますし、支えてくれる臣下たち、そして民のことを思いたい気持ちと、定子への想(おも)いというものが、ここまで反発しあうものなのかと。結構苦しい時間が多いなと感じています。自分の中に信念をしっかり持っているつもりではあるけれども、うまくいかないことも多々あって、心のバランスが徐々に崩れていくのをすごく感じます。
――その信念とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
言葉にするのはすごく難しいのですが…。民のことをおろそかにしたくないし、政(まつりごと)をちゃんと遂行したいという思いもあるし、もちろん定子への愛も真実で、それらのことをすべて思って一生懸命考えた結論をいつも出しているつもりでも、周りの人たちに揺るがされてしまうので、葛藤しているという感じです。ひとつ「これ!」と決めた信念があるというよりも、自分の中で信じるものがいくつかあって、それを自分なりに悩んで考えて答えを出すのに、うまくいかないので心苦しいんですよね。
――左大臣として仕える藤原道長のことは、信じていますか。
信用はしています。道長が言うことに対して、「その発想はなかった」と思うこともありますし、必要な存在ではあります。でも優先度と言ってしまったら申し訳ないですけれども、やっぱり道長以上に定子の存在が自分の中で大きすぎて、定子が出家してしまって簡単には会えないとなるほど想いが強くなり、道長が止めようとしても、どんどん心が乱れていってしまうんですよね。公卿たちには「勝手な帝だ」と思われているのだとは思うけれど、一条天皇としては、いろいろな感情との板挟みで何をどうコントロールしたらいいのかわからなくなってしまっているのだと思います。
――母・詮子のことはどのように思っていますか。演じる吉田羊さんとのお芝居の感想も教えてください。
「光る君へ」での関係は、すごく複雑だと思います。愛がないわけではないし、それぞれの事情も知っているから、なるべく寄り添いたいとは思うけれども、僕としては母上が言うことに合わせたらそれはそれで自分の気持ちとの折り合いがつかなくて葛藤するんですよ。複雑な感情を抱えたまま、周りではいろいろな出来事が動いていって、それを裁かなければならないので難しいなって…。僕にも貫きたい意志がありますし、先ほど言ったように信念もあるので、それを母上に伝えているつもりですが、母上の中にも強い思いがあってそれを伝えてくるので、やっぱりその力には敵わないなと思ったり、とにかく複雑です。
吉田羊さんは、お芝居の力強さとお人柄の良さが本当にステキな方だなと感じています。特に第18回で詮子さんが「道長を関白にしてほしい」と直談判に来る場面がありましたが、詮子さんの思いが、僕が脚本を読んで想像していたよりも遥かに強くて、自分の中で思いがけない感情が湧き出てきました。僕はあの撮影のあとに、「今後好きな俳優さんは誰かと聞かれたら、吉田羊さんと答えよう」と決めました。本当にありがたい経験だと思っています。一条天皇が母上とお互いについて真剣に話す機会はあまり多くはないのですが、今後とある回で2人の思いがぶつかりあって激しく対峙(たいじ)する場面が登場します。その場面の迫力もまた凄まじいものでしたので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。