大河ドラマ「光る君へ」

躍動せよ!平安の女たち男たち! 創造と想像の翼をはためかせた女性 紫式部

共有

作 大石静さん ~恋愛と権謀術策が渦巻くスリリングな物語に

脚本を担当する大石静さんは、実は平安時代よりも戦国武将の石田三成に強い関心があったといいます。そんな大石さんに今回、詳細があまり残っていない平安時代をドラマにする難しさやおもしろさ、従来のイメージを破る藤原道長の描写像、主人公・まひろ(紫式部)を演じる吉高由里子さんの魅力などを語っていただきました。

――「光る君へ」の脚本の執筆オファーが届いたときのお気持ちをお聞かせください。

2006年に「功名が辻」を担当させていただいてからしばらく、「また大河ドラマを書きたいな。次は石田三成がいいな」という思いがあって、NHKでお仕事をさせていただくたびにアピールしていたんですが、ぜんぜん相手にしていただけず、月日が流れ「もう大河はないな」と諦めていました。なので今回またお話をいただいたのは驚きでした。
正直、今でもずっと石田三成の目線で物語を書きたいと思っているんですけれども、2020年に光秀を描いた「麒麟がくる」が放送され、お話をいただいた当時には2023年の「どうする家康」が決まっていましたから、私の気持ちがどんなに石田三成でも、さすがに戦国時代ばかりはありえないですよね。そして提案されたのが、まさかの紫式部。すごいところに行くな~!と思いました。
とはいえ私は、平安時代のことは紫式部が『源氏物語』を書き、清少納言が『枕草子』を書いたという程度の知識しかなく、いろいろ送ってくださる資料を読んでも、最初は何がおもしろいのかわかりませんでした。けれども少しずつ勉強を始めていくと、「紫式部という人はただものじゃないな」と思うようになりました。しかも、生没年含め詳しい記録がほとんど残っていません。「良いように考えれば、自由に書くことができるのではないか」「おもしろいかもしれない」とだんだん思い始めて、正式に仕事をお受けしました。

――紫式部のどのようなところを「ただものじゃない」と感じられたのでしょうか。

例えば清少納言の『枕草子』は、日常の風景であったり宮廷での何気ない出来事などが、センスのいい言葉で軽快に書かれていますが、自身の教養の高さを自慢するような話も多くあります。また、女房として仕える中宮定子を褒めたたえ、朝廷を批判するようなことはありません。一方で紫式部は自己否定の回路を持っていますし、『源氏物語』の行間において独特の人生観や政権批判、文学論も書いています。『枕草子』も『源氏物語』も同時代に書かれたものですが、文学作品としての奥行きや立体感がまったく違うと思うのですよ。そういったところが、紫式部はただものじゃないと思う所以(ゆえん)です。彼女の人生哲学のような部分はなるべく掘り起こして、ドラマの中で描いていきたいと考えています。

まひろ(吉高由里子)

――まひろ役の吉高由里子さんの印象を教えてください。

「光る君へ」では、演出のお考えで登場人物はほとんどメイクをしていません。それゆえか俳優さん一人一人の持ち味は際立って見えます。
最初の衣装合わせの時、そこに立ち合ったスタッフ一同、平安時代の衣装に身を包んだ吉高さんを見て、これはうまく行くかも、と思ったと聞きます。私は写真で見たのですが、その平安的な雰囲気に驚きました。今回のまひろという役柄は、かなり気難しい女性です。自我が強く、思うように行かない人生に常に苛立っており、ひと言多く発言をしてしまったり、ウソをついたりもするので、私も自分で脚本を書きながら「ヒロイン、これで大丈夫?」と思ったりしていました(笑)。ですが、吉高さんが演じるとその気難しいところが絶妙にチャーミングに見えるんです。彼女の人柄がまひろを中和してくれて唯一無二の紫式部になっています。最高のキャスティングでした。

――執筆をしながら感じる平安時代のおもしろさや難しさを教えてください。

大河ドラマの醍醐味(だいごみ)の一つとして、物語の中で描かれる戦(いくさ)に至る過程や駆け引きがあると思います。けれども平安時代は、平和を良しとし話し合いによって事を収めるという価値観があったため、基本的に大きな戦は起こっていません。また、貴族たちは血を見ることを嫌っていたので、死刑を執行するようなことはなく流刑が最高刑でした。例えばラブストーリーを一つ描くにしても、戦国時代であれば落城のような大きな出来事にパーソナルな人間模様を織り交ぜて、複雑な歴史の流れを見せていくのがステキだったりするのですが、平安時代ではそれができません。
どう勝負したらいいのかかなり悩みましたが、いろいろと書籍を読んだり、時代考証の倉本一宏先生にお話を伺ったりしていたら、この時代には同族内での激しい権力闘争があったことを知りました。平和そうに見えて、実は裏で権謀術策が渦巻いている。そういったところもグイグイ押し出していけば、戦がある時代に匹敵するくらいスリリングに描けるのではないかと思っています。

――執筆にあたって足を運ばれたゆかりの地はありますか。

京都に行っていろいろとゆかりの場所を巡らせていただきましたが、中でも一番グッときたのは藤原道長のお墓です。公にはされていないのですが、さすがNHK、突き止めてくれて訪ねたのです。彼のお墓はなんてことない普通の住宅街の中にあって、こんもりとした小さな森のようになっており、鍵がかかっていました。そこに立った途端、全身の血が騒ぐというか、ゾクッとして「道長がいる」と思いました。そして彼に「書け!」と言われているような気分になりました。今もあの時のあの感覚に背中を押されて書いています。
あとは、道長が書いた『御堂関白記』が現存しているので、それを見せていただいたのですが、字が下手でかわいいのです(笑)。それを見たときに、「うわ、道長だ~!」とうれしくなりましたね。
   

――「光る君へ」における藤原道長は、どのような人物として描きたいと思われていますか。

道長は、「この世をば わが世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思えば」という歌のインパクトのせいで、傲慢で嫌なヤツというイメージが強く定着していると思います。けれども今回の道長は、日本の長い歴史の中における傑出した政治家の一人として描きたいし、実際にそうであったと思うんですよね。当時のことをいろいろと調べていくと、道長は周りの貴族たちから頼られているし、慕われてもいるんです。彼が傲慢な貴族であったというのはあくまでも通説ですので、そのイメージとは違う道長像を「光る君へ」では描いていきたいと考えています。

藤原道長(柄本佑)

――まひろと道長との関係は、どのように描いていこうと思われていますか。

まひろと道長とでは身分がまったく違うし、本来は随分離れた立ち位置に二人はいたであろうと思います。けれども、人生の初めのころから二人のつながりが何かしらないと、物語を1年間描いていくのは難しいと思ったので、プロデュ―サーや演出と知恵を絞りあって二人の関係を構築しました。序盤は通常の大河ドラマよりラブストーリー要素が強いかもしれませんが、一方で当時の政治劇も色濃く描きます。権謀術策と恋愛をうまく絡めれば、よりスリリングなドラマにできると思って頑張っています。ご覧くださるみなさまがハマってくださることを祈りながら。

 

全特集 リスト