アメリカ現地時間の29日午後9時ごろ(日本時間の30日午前11時ごろ)、ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港で、滑走路への進入中だったアメリカン航空のグループ会社PSA航空の旅客機と、軍用のヘリコプターが空中で衝突し、いずれも近くのポトマック川に墜落しました。
旅客機は中西部カンザス州ウィチタを出発し、レーガン・ナショナル空港に向かっていたアメリカン航空の5342便で、乗客60人、乗員4人が搭乗していました。
アメリカの首都ワシントン近郊の空港で、乗客と乗員あわせて64人を乗せた旅客機とアメリカ軍のヘリコプターが衝突し、いずれも近くの川に墜落しました。地元の消防の責任者は「生存者がいるとは考えていない」と明らかにしました。
この事故について、ホワイトハウスのウォルツ大統領補佐官は30日朝、FOXテレビに出演し、これまでに30人以上の遺体を収容したと明らかにしました。
また、30日朝(日本時間30日午後9時半すぎ)から当局による記者会見が行われ、地元の消防の責任者は「あらゆる努力は尽くしたが、現在は救助活動から遺体の収容作業に移っている。現時点でこの事故による生存者がいるとは考えていない」と述べました。
同じ会見でダフィー運輸長官は、墜落した旅客機の一部は3つの部分に分かれた状態で発見されたことを明らかにしました。その上で、衝突の直前まで旅客機とヘリコプターは通常の飛行経路をたどり、管制官との交信もできていたという認識を示しました。
また、衝突したヘリコプターについてアメリカ陸軍は、南部バージニア州にある陸軍の施設のUH60ヘリコプターだと発表し、ワシントンのバウザー市長は、ヘリコプターには3人の乗組員が乗っていたと明らかにしています。
フィギュア 元世界チャンピオンの夫妻も搭乗か
旅客機の出発地だったカンザス州ウィチタでは、今月26日までフィギュアスケートの全米選手権が開かれていて、NBCテレビはアメリカのフィギュアスケートの団体の話として、乗客には選手権に合わせた育成強化合宿に参加した選手やコーチ、それにその家族が含まれていたと伝えています。
さらに、ロシアの有力紙「コメルサント」は、墜落した旅客機にロシア出身のフィギュアスケートの元世界チャンピオンで、現在はアメリカでコーチをしている夫妻が乗っていたと報じました。
2人は妻のエフゲニア・シシコワさんと夫のワジム・ナウモフさんで、ソビエトとロシアのフィギュアスケートのナショナルチームでペアの選手として活躍し、1994年には世界選手権のペアで優勝。
近年はアメリカに拠点を移して、フィギュアスケートのコーチをしていたということで、息子のマクシムさんは、フィギュアスケートのアメリカ代表の選手だと伝えています。
衝突した瞬間 空中で大きく爆発
アメリカのCNNテレビは、旅客機とアメリカ軍のヘリコプターが衝突した瞬間とみられる映像を伝えています。
映像では、着陸しようとしていた旅客機が、画面の左側から飛行してきたヘリコプターとみられる物体と衝突すると、空中で大きく爆発し、オレンジ色の光が写っています。
ワシントン市長 約300人態勢で捜索
ワシントンのバウザー市長は、30日未明に記者会見し、ヘリコプターには3人の乗組員が乗っていたと明らかにしました。そして「今の焦点は人命救助であり、われわれ全員がそれに集中している」と述べて、救助活動に全力を挙げる考えを示しました。
墜落現場となったポトマック川では警察や消防など、およそ300人態勢で捜索と救助活動が続いているということです。
また、会見でワシントンの消防の担当者は「生存者はいると思うか」と問われたのに対し、「それは分からないが救助活動を続けている」と答えました。
アメリカのABCテレビによりますと、事故当時の気温は10度で旅客機が墜落したポトマック川の水温はおよそ2.2度だったということです。
また現場付近では、風速11メートルから13メートル程度のやや強い風がふいていたということです。
一方、トランプ大統領は30日、自身のSNSに「旅客機は空港に向けて申し分のない、いつもどおりの針路だった。ヘリコプターは長い時間、旅客機に向けて直進していた。これは防げたはずだったとみられる悪い状況だ。良くない」と投稿しました。
旅客機 軍用機が接近し航跡消える
航空機が発信する位置情報などをもとに航跡などを公開しているホームページによりますと、衝突した旅客機は日本時間の30日午前10時48分ごろ、レーガン・ナショナル空港近くのポトマック川の上空で、別の機体と接近したあと、航跡が消えていました。
この別の機体はアメリカの軍用機と表示されています。
当時、旅客機は空港に向かって南から北に飛行していたのに対し、軍用機は北から南に向けて飛行していて、航跡が消える直前は旅客機の右側から軍用機が接近していました。
航跡が消える直前の旅客機の高度はおよそ105メートルで、時速はおよそ210キロと表示されています。
一方、軍用機は航跡が消えるおよそ9分前の日本時間午前10時39分ごろ、レーガン・ナショナル空港の北西およそ17キロの地点で航跡が表示されたあと、ポトマック川に沿うようにしながら南下していました。
衝突前後の管制官のやりとり
航空無線の音声を収集し公開している民間のウェブサイトには、旅客機と衝突する直前とみられる陸軍のヘリコプターと管制官のやりとりが記録されています。
それによりますと、管制官がヘリコプターに対して「旅客機が見えているか」と尋ねたうえで、「旅客機の後方を通過してください」と伝えています。
これに対してヘリコプターのパイロットは「航空機は見えています」と応えています。
衝突はこの直後に起こったとみられ、その後、別のパイロットが「いまのが見えたか」と尋ねたり、管制官が着陸しようとしていた航空機に「ゴーアラウンド」と呼びかけ、着陸をやめるよう指示したりしているのが確認できます。
旅客機の航跡は
航空機の位置情報などを公開する「フライトレーダー24」のデータによりますと、旅客機は中西部カンザス州ウィチタの空港を、アメリカ中部時間の午後5時38分に出発しました。
旅客機は出発からおよそ2時間で、首都ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港に近づくと、一度、空港の南側へ飛行したあと、東部時間午後8時39分ごろ、180度旋回して北向きに針路をかえ、着陸に向けて高度を下げていきました。
同じ時間帯に複数の旅客機がこの空港への着陸に向けて飛行しているのがわかります。
その後、旅客機は一度、やや東寄りに針路をとったあと、西寄りに緩やかに旋回して降下を続けましたが、東部時間の午後8時48分ごろ、空港の東側のポトマック川付近でデータが途切れています。
専門家「航空機の数が非常に多い空域」
陸上自衛隊のヘリコプターの元パイロットで、ワシントンの日本大使館で防衛駐在官などを務めた山口昇さんは「レーガン・ナショナル空港は国内線を中心に旅客機が頻繁に離着陸していて、日本でいうと羽田空港みたいなところだ。非常に手狭で、駐機場の数が限られ、何かトラブルがあると別の飛行機が上空で待たされることがよくある」と話しています。
また「ヘリコプターにとっては市街地上空の飛行を避けるため、ポトマック川沿いが一番使われる経路になる。軍用民用問わずに旅客機の航路の下を、多くのヘリコプターがはうような形で飛んでいる」と指摘しています。
そのうえで「航空機の数が非常に多い空域なので、危険な要因を低減する、事故を防止するための対策は何重にも講じられているはずだが、今回は針の穴を何個も通り抜けていくようにして事故が起きてしまったのではないか」と話しています。
旅客機元機長「周囲見ていれば避けられたか」
全日空の元機長で航空評論家の井上伸一さんは「事故当時の映像を見ると、旅客機もヘリコプターもライトをつけていて、管制官からのアドバイスなどをきっかけに互いにそれぞれの方や周囲を見ていれば避けることができた可能性がある」と指摘しました。
そして「旅客機が通過するところをヘリコプターが横切ろうとしたように見え、報道では訓練だったという情報もあるので、どういう訓練だったのかも注目される」と話しました。
衝突を回避する手段については「通常、旅客機やヘリコプターには衝突防止装置が搭載されていて、接近時には警報を発信するが、一定の高度以下では警報を出さない設定になっている。一部の報道で出ているヘリコプターの高度では警報が出ない範囲に入ってしまい、残念ながら2機とも作動しなかった可能性がある」と話しました。
また、旅客機は着陸の直前でパイロットは情報が入ってこない限り、着陸に専念する時間帯だったとしています。
今後の調査については「管制官からのアドバイスがあったのかどうか、また、ヘリコプターが訓練中だったのであれば管制官とどのようなやり取りをしてエリアに入っていたのか、このあたりを解明する必要がある」と話しました。
UH60とは
UH60は、全長がおよそ20メートルの中型のヘリコプターです。
人員の輸送や捜索救難活動などで使用され、アメリカ陸軍のほか、在日アメリカ陸軍や自衛隊にも配備されています。
トランプ大統領「防げたはずだ」
アメリカのトランプ大統領は事故を受けて声明を発表しました。
声明では「レーガン・ナショナル空港で起きた恐ろしい事故についてすでに十分な報告を受けている。初動の対応にあたっている人たちのすばらしい働きに感謝する。状況を注視していて、新たに詳細がわかり次第、情報を提供する」としています。
また、トランプ大統領は30日、自身のSNSに「旅客機は空港に向けて申し分のない、いつもどおりの針路だった。ヘリコプターは長い時間、旅客機に向けて直進していた。晴れた夜で旅客機のライトは明るく点灯していた。なぜヘリコプターは上昇も下降もせず、旋回もしなかったのか。なぜ管制塔は、航空機を見たかと尋ねるのではなく、ヘリコプターに何をすべきかを伝えなかったのか。これは防げたはずだったとみられる悪い状況だ。良くない」と投稿しました。
ヘグセス国防長官「本当に悲劇的」
ヘグセス国防長官は30日未明、SNSに「本当に悲劇的だ。捜索と救助活動は今も行われている。被害にあった人たちとその家族に祈りをささげる」と投稿しました。
そのうえで、国防総省などによる調査がただちに始まったとしています。
米 フィギュア団体「言葉では言い表せない悲劇」
アメリカのフィギュアスケートの競技団体は声明を発表しました。
声明では「ヘリコプターと衝突したアメリカン航空の5342便に複数の関係者が搭乗していたことを確認しました。これらの選手やコーチ、その家族は、カンザス州ウィチタで行われたフィギュアスケートの全米選手権にあわせて開催された育成強化合宿から戻る途中でした。私たちは、言葉では言い表せない悲劇に打ちのめされていて、被害に遭われた方の家族のことを深く思い、心から寄り添います」としています。
競技団体のホームページによりますと、旅客機が出発した、中西部カンザス州ウィチタでは、1月20日から26日までフィギュアスケートの全米選手権が行われていました。選手権には、180人以上の選手が参加していたということです。
また、選手権後には育成強化合宿が組まれることになっていて3日間の日程で若手の選手たちを中心にトレーニングが行われるということです。
日本大使館「邦人被害の情報なし」
首都ワシントンにある日本大使館はNHKの取材に対し「現在、日本政府として情報収集を行っているところです。現時点までに邦人の生命、身体に被害が及んでいるという情報には接していません。日本政府としては本件に関係する情報収集を続けるとともに、在留邦人の安全確保に引き続き万全を期していきます」とコメントしました。
石破首相「悲劇的な事故 心痛む」
石破総理大臣は旧ツイッターの「X」に「衝撃的な知らせに大変心を痛めている。この悲劇的な事故の被害に遭われた方々に心から哀悼の意を表するとともにお見舞い申し上げる」と日本語と英語で投稿しました。