物語を紡ぎ、最終回の放送を終えた「光る君へ」。長期間にわたる執筆を終えた今の思いや、まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の別れをどのように描きたいと思ったのか、平安時代を舞台とした大河ドラマを制作して感じたことなどについて、脚本を担当した大石静さんに語っていただきました。
――執筆を終えられた今のお気持ちをお聞かせください。
つまんないです(笑)。ひとつの目標に向かって、みんなで走り続けているときこそが楽しいんだなと思いました。脱稿直後は「ゆっくり眠りたい」と思ってダラダラ寝ていたんですけれど、3日もしたら「全然幸せじゃないな」と思い始めて。自分が何もしていないと、映画を見に行ったりしても心がいまいち動かないんですよ。だから私は何かやっていないとダメなんだと思って、本当は今年いっぱいは休養するつもりだったのに、早々と次の仕事の準備を始めました。休むことが美徳みたいな世の中で、時代遅れなことですが(笑)。
――夜に執筆をされるというお話を伺ったのですが、大河ドラマならではですか。
昔から夜型です。昼間だと宅配便がきたり、電話がかかってきたりするじゃないですか。そうすると集中が途切れるので、自然と夜型になっていきました。今回は特に平安時代ですからね。宅配便を受け取ったあとに、すぐ頭が平安時代に戻らないのですよ。それでどんどん夜型が激しくなっていきました。昼夜逆転しすぎるのも良くないとは思いますけども。
――「光る君へ」チームの印象はいかがでしたか。
まず、吉高(由里子)さん、柄本(佑)さんが、芝居が見事なだけでなく、穏やかなお人柄で、現場は常にいい雰囲気でした。同世代の役者が多いこともあり、みんなとても仲良しで。
それと美術チームがつくる圧巻のセットが、みんなをひとつにしているところがあったと感じます。「平安の衣装を着てあのセットの中に立つと、本当に千年前にタイムスリップしたような気持ちになる」と役者たちが言っていましたし、「ここで役として生きるんだ」という士気を高めてくれた美術セットでした。役者も私も演出家も、このセットに負けない仕事をしなければと思ったはずです。
チーフ演出・中島由貴さんのゆるぎない情熱も、みんなの心にしみわたったと思いますね。ブレない妥協しない姿勢は、ホントに美しかったですから。
――序盤から晩年にかけての道長の変化をどのように捉えていらっしゃいますか。
「まひろとの約束を果たす」「揺るぎない権力を持って、まひろの望む世の中を目指す」「直秀のような死に方をする人がいないような世の中に」という心根は、最初から最後まで、まったく変わっていません。でも晩年は、逆に何もなしえなかった自分の無力さに苛(さいな)まれ、実資や公任に批判され、娘達三人には反発され、とても虚(むな)しい気持ちになっていると思って描きました。
――まひろと道長の別れは、どのように描きたいと思っていましたか。
道長が死ぬときにまひろがそばにいるようにするには、どうすればよいか? みんなでさんざん知恵を絞りました。視聴者の方たちが、倫子がいつまひろと対決するかを気になさっているようでしたので、これを早々にやると、他の大事なエピソードも弱まってしまうと思い、最終回まで待ちました。
倫子に「あなたと殿はいつからなの?」と聞かれて、まひろは一瞬ひるみますが、すぐ「この際、言ってしまえ!」の心境となり、幼いころから惹(ひ)かれ合っていたと語ります。倫子はそんなに長い歴史を二人が共有していることに衝撃を受けますが、最後には嫡妻の貫禄を見せて、まひろと道長を会わせます。
道長が病み衰えた姿をまひろに見せたかったかどうかは、何とも言えませんね。「帰れ」と最初に言ったのは、そういう意味です。でも結局自ら手を出してまひろを求め、まひろに「もう生きることはよい」と弱音もいつものように見せながら、死んでいきました。まひろも幼いころの三郎を思わせる物語を語りながら道長を見送れて、ある種、人生の完結を見たと思います。来世で一緒になってほしいと願い、お線香を焚(た)きながら、二人の別れを書きました。
――平安時代を舞台にした大河ドラマを制作した意義を、どのようなところに感じていますか。
私も今回脚本を担当するまで平安時代のことをまったく知らなかったので、千年前の日本の出来事を知れたことはステキな経験でした。このような機会がなければ、「紫式部」と『源氏物語』は知っているけれど、ちゃんと読んでみることもなかったでしょう。摂関政治とは何かとか、このドラマを書いてよくわかりました。この気持ちは、多くの視聴者の方と同じだと思っています。楽しみながら、知らないことを知り、さらにもっと知りたいと思っていただけたなら、このチャレンジングな企画をやった意味はあると思います。
お子さんから年配の方まで、平安時代が身近になったなら、うれしいですし、この窮屈な時代に、千年前のプリミティブな人間のパワーを感じていただきたいと思って書きました。あと考証の先生の中に「文字の上での研究が、ドラマによって立体的に立ち上がり、これまで見えなかったことも見えた」とおっしゃってくださる方もあり、それもうれしい思い出です。