「コヨーテエンゴースト」についての考察

歌詞の捉え方、それも人それぞれ。
ヒトリエの『コヨーテエンゴースト』について考えてみる。

                *

1. wowaka 氏の歌詞に見られるもの

『コヨーテエンゴースト』の歌詞を考察する前に。
特にアルバム『HOWLS』の多くの歌詞の根底に感じるもの、端々に見て取れるものがある。それらは『ai/SOlate』にもある。

まず、見られるものとして「仏教的な思想、死生観」がある。
例えば
・輪廻転生
・肉体は魂の容れ物
・生と死の垣根の低さ、表裏一体
・100%確実なものはない
・今ここにある世界も虚構かもしれないという感覚

そのほかに見られる傾向として
・生きているという現実感の薄さ
・生きている理由・意味、 存在理由・意味を探している
・生きている理由、意味を言い聞かせている
・何とかぎりぎりの所で踏みとどまっててこの世界、世の中、現世に生きている(人間をやっている)(自殺願望ではなく)
・止めることのできない虚無感
などが見られる。

以上のことを前提に考えていきたいと思う。


2.『コヨーテエンゴースト』

『コヨーテエンゴースト』に登場するもの。
2番は「幽霊」。
1番は「人間」。

電車に「いっせいのせ、で飛び込ん」で死んだ2番、
死ななかった1番、
と最初の頃は思っていた。

「一線超えた二人」だが、死んだのは自分だけという「哀しい夜に薄情なあたし」なのだから。この「一線」は生と死の一線と取って良いと思う。wowaka氏の歌詞はどれを取っても、言葉の韻や選択が計算し尽くされている。
編曲に見られる対位法が歌詞に対しても行われている可能性があると考えると、1番から2番という内容の流れで歌詞を書くのではなく、1番と2番を対比させながら、内容の大筋から外れない中で、言葉を選びに選んで、歌詞を書いているのではないかと考えられる。その為に直ぐには意味が取れなかったり、取りづらい事も起きる。
そう考えると、歌詞の流れからでなく、全体から捉えて一緒に死への境界線を越えた二人という設定もあり得るのではないだろうか。しかしながら、「一線越えた二人」であっても、死の「一瞬」にはどうしようもなく「独り」なのだ。

この「人間」と「幽霊」はある種の擬人化であるように思う。
『コヨーテエンゴースト』の擬人化は何か。
それは生と死であると考えられる。

1番と2番のサビ部分の歌詞で、1番は生が死へ、2番は死が生への憧れの様なものを語っている。
生は死が、死は生がなければ存在しない。二つは表裏一体である。
1番は「人間」の「あたし」=生
2番は「幽霊」の「あたし」=死
それが擬人化されていると考えられる。

wowaka氏は言葉も音楽さえも超えて行ったところに行きたいと実際に言っており、それらは様々な歌詞にも見られる。それは生と死も超越したところであるというのが歌詞に見られる。『コヨーテエンゴースト』では擬人化された生と死の語らいの様な形で、お互いに見惚れ・認め、サビの部分では互いへの思いを告白する。お互いがカウンターパートのような存在で、生は死が、死は生があってこその表裏一体のものであるのだ。

wowaka氏は生も死も乗り越えた所に行きたかったのではないだろうか。『ポラリス』以外の歌詞にそういった内容は顕著である。『ポラリス』はアニメの主題歌用の曲であることもあるが、まずアルバム『HOWLS』で『ポラリス』を先行発売した後にインドを旅して、その後に残りの曲を書いたと聞く。益々、『ポラリス』とそれ以外の歌詞の傾向が違う理由が腑に落ちる。インドに行き、生と死が隣合っている事を肌身で感じ、その思いと確信を強めたのではないかとも想像できる。

彼の歌詞には言葉についての言及がしばしば見られる。
『コヨーテエンゴースト』にもそれはある。1、2番共に早口で語られる部分である。
誰もが一度は感じるであろう言葉の無力さ。
面白いのは、言葉の無力さを痛感しながらも「それでもあたしが縋っていたのはまた言葉でしかなかった」と過去形で結果論を言うのが幽霊側であるということ。
そして、これだけ巧みに計算された言葉を尽くして表現しているのがwowaka 氏であるということ。

常々言葉を超えたいと言っていたwowaka氏。
言葉は無力であると感じながらも言葉でしか表現できないジレンマ。
言葉の無力さを超える為に言葉を尽くす。
そんなwowaka氏が見えてくる。

突然現れるコヨーテ。コヨーテとは何者なのか。
生の方であるのは分かるが、1番の「あたし」ではない。
では、何者か。
それは人間全般、または歌っている自分──wowaka自身であるとも取れる。この世を彷徨い、抗いながらも生きる正解を願い、唄いたがる(生きたいと願う)像が見えてくる。

2番のサビ部分で「ヒューマンの型で〜」にあるように、生の時代は辛かったと告白している。現実は嘘ばかりだけれど、脚を引き摺ってでも、自分の生、生き方が「正解、正解」である事を願っている。
どんな状態になろうとも何とか生きようとする人間が見えてくる。

wowaka氏の歌詞には「唄う」という言葉がよく出てくる。
実際に唄うというそのままの意味で使っていることもあるだろうが、そこに「生きる」という意味も持たせて表現していると考えると腑に落ちはしないだろうか。そこには幽霊に見惚れてはいるが、まだ生きていたいという強い気持ちが見て取れる。

この曲から見えてくる風景。それはこんな世、現世に抗いながらも、自分の生を真摯に生きようとするコヨーテ、私達、wowaka氏。


3. タイトルについて

このタイトルには二重の意味があるのではないだろうか。
まず、考えられるのは「コヨーテ and ゴースト」で、「and」を「エン」にしたもの。

wowaka 氏の歌詞はもちろん計算され尽くして書かれているが、タイトルも計算されている。すぐには意味が取れなかったり、幾つにも意味が取れるものもある。そして、多くのタイトルはどうやら見た目もちゃんと考えられていて『コヨーテエンゴースト』も左右のバランスが上手く取られている。「and」の意味である場合もバランスのために「エン」としたかもしれない。
この様に1つの意味は「コヨーテとゴースト」であると思う。

が、実際、歌詞の1番と2番は「人間」と「幽霊」で、「コヨーテ」はサビの部分に出てくるので、人間と幽霊という単純な対比とは違うタイトルになっている。
wowaka氏は英語をカタカナで表す時には流通しているカタカナで記している。「coyote」と「ghost」も日本で流通している日本語になっているので、「and」も日本語で「アンド」と書いていないのは何故か。

そして、もう1つの意味は何か。
「エンゴースト」という造語を考えたのではないだろうか。
接頭語の「en」には「〜化する」という意味がある。
「enghost」という単語は英語にはないが、wowaka氏が「enslave」の様に「幽霊化する(幽霊にさせる)、幽霊の様に囚われる、虜になる」といった様な意味を持たせて造った言葉であるとしたら、分かち書きでない、全てカタカナにした理由が見えてくる。

「en」のつく単語は多くが他動詞だが、自動詞の場合もある。
「enghost」という造語動詞の活用形を現在形、過去形、過去分詞形全て同型と wowaka 氏が定義したと仮定する。
他動詞だとしたら、「エンゴースト」の後に何も目的語がないので普通の主語+動詞ではないと分かる。となると、タイトルの後に主語が違う主文の文章が続くと仮定したら、「coyote (being) enghost」という文章ができ、「コヨーテは幽霊化されて...」と解釈することができる。または、「coyote was enghost〜」から新聞の見出しタイトルの様に「coyote enghost」=「コヨーテは幽霊化された」にしたとも考えられる。

また、自動詞だと考えると、「enghost」の形なので過去形であるとでき、「コヨーテは幽霊となった」と捉えることもできる。
しかし、前述した様に「enghost」は実際にはない単語である。『Sleepwalk』や『November』の様に英語表記タイトルもある中で、この曲が英語表記でなく「・」なしのカタカナ書きにしてあるのは「エンゴースト」という造語で、「アンド」と二重の意味を持たせるのにカタカナが都合が良いからではないだろうか。

以上の様に、『コヨーテエンゴースト』のタイトルは「コヨーテとゴースト」と「エンゴーストされたコヨーテ」の二重の意味があると推測される。この推測から自分なりにタイトルを翻訳するのも面白いかもしれない。

                *

今も取り憑かれたかのように『コヨーテエンゴースト』をずっと聴いている。私にとってこの曲は曲、アレンジ、歌詞、全てが完璧で、何度も聴いて新たにすることもある反面、何度聴いても「わかり切ること」はない。

ライブで一度だけ『コヨーテエンゴースト』を聴いた。
忘れることができない。
もう一度聴きたい。

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