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なぜ老後に必要な資金は「ゼロ円」なのか 不毛な「2000万円問題」に終止符を

林修さんの番組からお声がかかり、専門家としてインタビューを受けました。

大きなお世話だけど、番組名、『林修の知りたいの、今でしょ!』の方が良くないか。何度聞いても覚えられない。

今回のお題は「老後2000万円問題」でした。
取材のオファーのメールを見て「まだやるのか」とウンザリしました。
「もうやめましょう、そのネタ」の意思表示の意味を込めて、

「老後に必要な資金はゼロ円です」

と回答しました。
「暴論」に聞こえると思いますので真意をまとめておきます。

不毛な「2000万円問題」

まず、「老後2000万円問題は幻だ」が私の持論です。
適当に作った数字が一人歩きして、本質からズレた論争がとっ散らかって収拾がつかなくなっている。
前提が幻なんだから、極端なことを言えば、そこから派生した話は全て不毛です。
不安を煽ってメディアやネットが「数字」を稼いでいる面が否めないので、今回のインタビューを受けるか、ちょっと迷いました。私なりのファイナルアンサーをまとめる良い機会かな、と考えてお受けしました。

「なぜゼロ円?」の説明は無料公開とします。
最後のロジカルではない本音はメンバーシップのメンバー限定に。
番組スタッフから投げられた質問に沿ってナンバリングをつけます。

①老後に必要な資金はいくらか

私の答えは「0円」です。
「2000万円問題は存在しない」が私の持論です。
「老後に備え、誰もが現役時代に2000万円貯めなければいけない」という分析はミスリードです。

②なぜその金額なのか

まず、2000万円問題とは、「公的年金だけでは月5万円の赤字が30年分続くから、約2000万円足りない」と言う試算です。
そもそも、これが乱暴かつ実態からかけ離れたものです。

以下、データはすべて2023年の「家計調査」。
「5万円の赤字」は試算時点の無職世帯のデータであり、しかも年金以外の収入を無視しています。
実態に近い可処分所得ベースでは、無職世帯でも赤字は月1~4万円程度です(2023年家計調査)。
高齢になれば支出と赤字は減ります。旅行や外出はしんどいし、食費だって減る。「ずっと5万円赤字」は過大です。

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家計調査(2023年)

家計調査の「可処分所得マイナス消費支出」の赤字額を使い、65歳以降の「累積赤字」を計算しても、100歳までで1000万円程度にしかなりません。
無職世帯ですら「老後2000万円問題」は「老後1000万円問題」でしかない。

この「1000万円の赤字」も「ギリギリの生活で避けられない赤字」とは思えません。家計調査の支出項目を見れば、「これ、削れるよな」というものはかなりあります。「仕送り金」とか(支出なので送る側です)。
「ずっと赤字を穴埋めしなきゃいけないから大変」じゃなくて、「貯蓄もあるし、年金収入もあるから、赤字でも大丈夫」という高齢者世帯の実態が家計調査の支出の平均値を作っているだけです。
当たり前ですが、お金がなければ支出を減らして調整するはずです。

2000万円という数字は無職世帯ですら意味がない上に、「高齢者は無職で年金頼み」という前提自体、現実離れしています。
60代後半で男性の6割、女性の4割が働いています。人口減少と人手不足を考えれば、この比率は今後もっと上がるでしょう。
家計調査によると、65歳から70代の勤労世帯は月9~10万円の黒字となっています。
現役世代の方、想像してみてください。
子どもの生活費・学費と住宅ローンの返済がなくなったら、メチャクチャ楽になりませんか。

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家計調査(2023年)

仮に勤労世帯が60歳から「月々の黒字」を貯蓄すると、年間で100~120万円貯まります。
仮に60歳から70歳まで働いて黒字を貯蓄して、その後に無職世帯並みに収支が赤字になったとします。100歳まで30年は取り崩し期間ですが、それでも1000万円余ります。

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家計調査を基に試算

出遅れて65歳から貯めはじめても、75歳まで働ければ、100歳までに500万円残ります。

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65歳から70歳まで、5年間しか貯蓄できなくても、100歳時点のマイナスは200万円以下です。

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この赤字を「老後資金200万円問題」(2000万円じゃないですよ)と考えるべきか。
そうは思いません。
年齢に関係なく「生活費の半年分くらいは貯蓄が必要」と言われます。それは若くても必要な備えであって「老後資金」ではないでしょう。

まとめると、「60歳以降に10年働いて貯蓄」で100歳までお金は足ります。
「老後のお金は老後だけで足りる」とも言えます。
あらためて「2000万円問題」は「65歳から無職で年金だけで30年暮らす」という前提でした。
常識で考えて、無職なのに毎月5万円の赤字を30年も放置するのは不自然です。それでも「無職」で良い人は、年金以外の収入や貯蓄があるケースが多いでしょう。
「2000万円問題」とは、余裕がある人を含んだ平均支出を前提に、「これだけないと人生詰む」「豊かな老後が送れない」と印象操作して危機感を煽っている、と私の目には映ります。

「高齢社会白書」によると、高齢者の7割は「お金の不安はない」と考えています。

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高齢社会白書

「多少心配」という深刻ではない回答まで入れれば9割です。お金なんて、高齢者に限らず、「多少心配」が普通でしょう。
明確にお金が足りない方は1割弱にすぎない。
老後資金が足りない、不安だ、という声はメディアに出やすい。
でも「不安はないです」という人は、表に出てこない。「現役世代に寄生している老害」と言われかねないから。

もちろん、本当に困っている高齢者はいます。私の母もそうです。息子たちが援助しています。
家族などの援助が難しい人には、何らかの政策的な対応が必要でしょう。
それと「いくら貯蓄が必要か」は別問題です。マネープランじゃなくて福祉の問題です。

実際、金融資産の保有額は70歳以上の世帯が最も多い。今の日本人は「死ぬ前」が一番お金持ちなのです。

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家計調査(貯蓄・負債編)

「今の高齢者世代が恵まれているだけ」という見方はあるかもしれません。
それでも「誰もが2000万円用意しないと老後を乗り切れない」と一般化するのはおかしい。

無論、病気になったら、働けなくなったら、介護が必要になったら、というリスクはあります。
しかし、それに全員が貯蓄で備えることは不可能です。
そんな「もしかしたら」に備えるのは保険の役割です。
その最低限のラインを支えるのが国民健康保険であり、国民年金保険であり、介護保険です。
公的サポートのラインを超える保障が欲しい人は民間保険や貯蓄で備えるべきです。
でも、繰り返しになりますが、そのラインを超えて全員が貯蓄(資産形成)で備えるのは無理があります。
今でも「社会保険料の負担は高すぎる」という声があふれています。

老後のライフプランで一番大事なことは、長く働くこと、健康寿命を延ばすことです。
お金ではなく、健康が大事。幸福度の面でも。当たり前すぎますが。
お金の面だけなら、無駄遣いしないこと、投資詐欺などに引っかからないことの方が、資産形成より大事。
余裕があれば、お金の寿命を延ばすために、高齢者になってもある程度投資を続けるのが有効です。

③私が老後に備えて何をしているか

私は「人生に正面から向き合えば、お金は後からついてくる・なんとかなる」と楽観的に考えています。
あるいは「貴族じゃないんだから、それで何とかならなかったら、自分にはどうしようもない」と悲観的(現実的?)に考えています。

マネープランの目標は「ぜいたくしなければ何とかなる」です。そこから上振れしたらラッキー、という考え方。

NISAやiDeCoなど、できる範囲で資産形成はしています。

しかし、そんなお金の管理より、「良く生きること」の方が大切です。
やりがいのある仕事を長く続けられれば、それは心と体の健康にも、収入にもプラスになります。
そのためには、人のご縁や自分の信用・信頼・スキルなどの方がお金よりも頼りになります。
目先のお金の損得より、そちらを大事にしています。

2023年に日経新聞を辞めたのは、人生の安定度や「そろばん勘定」から考えれば、合理的とは言えない選択だったかもしれません。

でも、結果オーライで何とかなってますし、健康面では間違いなくプラスだったので、「老後」を考えても悪くない選択だったと考えます。

今年4月からは千葉商科大学付属高校の校長になります。計算外の「幅の広がりよう」ではありますが、そういうご縁も、辞めてみないと動き出さなかったのかな、と。

今年で53歳。「老後」はまだよく分かりません。「今」が面白い方に転がっているので、このまましばらく走ってみます。

④老後資金が貯まらなかった人は何をすべきか

まず「自分は本当にお金に困るのか」を点検するのが先決です。
「老後が不安」と言いつつ、年金をいくらもらえるか知らない人は多い。
いつまで働けるか、年金がいくらもらえるか、支出はいくらかかるか。
不安に思うより前に、自分の状況をつかむことが大事です。

そのうえで「穴」が大きいなら、生活の見直しが必要。
本当に苦しいなら、生活保護など公的サポートについて行政の窓口に相談することも考えた方が良い。

最後に。
老後は、というよりも人生は、十人十色、千差万別です。
「平均」で語ってもほぼ無意味です。

ご説明した「ゼロ円」も、平均から考えた空疎な試算です。

無意味と思いつつ、同じロジックで考えても「2000万円問題」は幻であると分かってもらうために、あえて同じ土俵にあがって考えました。

大事なのは「どう生きたいか」であり、「いくら必要か」から考えるのは本末転倒です。
私のようにお金のかからないライフスタイルの人は備えは少なくてもよい。
それでは満足できない人は頑張って資産を作るしかない。

お金よりも心配すべきだし、人生の幸福度を左右するのは心身の健康です。
人間はいつか死にます。死ねばお金は無価値です。
現役世代は、老後を心配して何かを犠牲にするより、「今」をより良く生きる方が大切なはずです。
老後になったら、それぞれ身の丈にあった幸福を探せばよいのではないでしょうか。

もっと有意義な議論を、と感じる方は、亡くなった大江英樹さんと私の対談をご覧いただけると幸いです。

もうすぐ15万再生。自分でもたまに見返す動画です。コメント欄も一見の価値あり。ファンの方は「大江節」前回の1時間のライブ本編をぜひ。

ここまでは無料公開です。
ここからはプライベートな話なので有料ゾーンとします。
サブスクは初月無料です。気になる方はお手数ですが「読み逃げ」してください。

老後の人生、2人の理想像

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なぜ老後に必要な資金は「ゼロ円」なのか 不毛な「2000万円問題」に終止符を|高井宏章
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